異世界から来たガイア 51
第51章
ガイア
この世界で私が大好きなものの一つが、お風呂だ。
冷たい水が張られた小さなプールのようで、泳げるほどの深さがあり、水の中を歩くことも、もちろんリラックスすることもできる。しかも、いつもプライバシーがしっかりと守られている。
もちろん、こういう場には決まりとして常に付き添うはずの侍女たちを下がらせなければならなかったけれど、私とマリクだけにしてもらうほうがいい。
浴槽の縁に頭を預け、ひんやりとした心地よさを味わう。今日ついた汚れと汗を洗い流したあとには、まさにこれが必要だった。
マリクが二、三度腕をかき、私の目と鼻の先で水面から顔を出した。
濡れた髪が彼の顔に垂れ下がり、雫の雨が髪や髭を伝って、肩や胸元へと流れ落ちていく。
出発してから髭が伸び、それが彼にどこか野性的な雰囲気を与えていた。いつもの半神のような姿とは、ある意味で違って見えた。
彼は私の肩に手を置き、甘い快感の電流を走らせた。
くそっ、たかが肩なのに!
もう興奮している。
「だが次は、私がお前を脱がせたいものだな」マリクの声は温かく、いつも以上に情欲的で色気を帯びていた。
「あまりに汚れていて、殿下の御前に出られるような姿ではありませんでしたもの、殿下」
「だからこそだ。私の手で直々にきれいにしてやれたのに」
「ですが、殿下がそのような雑用に身をやつす必要はありません」
「私にとっては身をやつすことではない」
「でも、侍女の仕事ですよ」まるで今までに私を脱がせたことが一度もないかのような言いぐさだ。
「お前は私の側室だ。余計な衣服なしにお前を見たい、触れたいと思うのは当然だろう」
脚の奥をゾクゾクと震えが走る。
マリクは私の首筋に口を寄せた。「それに、お前は女神の使者でもあるのだから、服を脱がせることすら光栄なことだ」首筋にキスをする。「洗うことも」もう一度キス。「揉みほぐすことも」またキス。「そして、探索することも」
彼は私の唇にキスをし、私もキスを返す。
私は彼を抱きしめ、その胸を強く抱きかかえる。そのまま自分の方へと引き寄せた。
マリクは私のうなじをつかみ、緊張と情熱に満ちたキスで私を自分に密着させたまま離さない。
私たちの舌は途中でぶつかり合い、撫で合い、どちらが先に伸ばしたのかもわからない。
マリクのもう片方の手が私の尻を強く掴む。たまらなく好きだ。
私たちは互いの裸体を強く押し付け合う。
マリクは私から体を離し、私の目を見つめた。「あのくだらない禁忌さえなければ……」
「ええ……」それさえなければ、もう何度も激しく愛し合っていたはずだ。今だって。そして、それを一番望んでいるのは私自身だ。
マリクはもう片方の手も私の体の下へ回し、私を抱き上げた。「お前は永遠に私の焦燥であり続けるな、分かっているのか?」彼は私の乳頭を唇で挟み、吸い上げる。
私は彼の濡れた髪に手を沈ませる。「あなたこそ私の焦燥よ」あなたと比較になれる人を見つけるなんて、途方もなく難しいでしょうね。
彼は乳頭の周りに舌を這わせる。「城壁の中で安全だと分かってはいても、私の側を離れているお前を想うと、死ぬほど気が気ではなかった」
「私をそこへ送ったのはあなたでしょう」
「ああ、お前が安全だとは分かっていた。だが、まさかお前が戦うとは思ってもみなかった」
私は彼の髪の一房を指に巻きつける。「自分の役割から引くわけにはいかないもの」
「その役割を随分と真剣に捉えているのだな」
「たいして選択肢をくれなかったじゃない」
「いつでも……そうだな、もっと巫女らしい役割を選ぶこともできたはずだ」
「私が巫女? まさか、説得力ゼロよ」
「ああ、実際そうだな。まずは教育を受け、勉強しなければならない」
「あなたも勉強したの?」
「そうだ、皇族にとっては当然のことだ。『戴冠の炎』とて、そう任じられるには勉強しなければならないのだから」
神学まで勉強しなければならないなんて、ここに留まらない理由がまた一つ増えたわ。「でも、彼女は異国の人じゃないの?」
「その通りだ。外交上の協定によって父の妻の一人となったバビノニアの王女だ。二人の間に愛が存在したことは一度もない」
「とても悲しいことね」
マリクは視線を落とし、わずかに肩をすくめた。「貴族の間では普通のことだからな」
「あなたは、それを望むの?」
「いや。だが国家上の理由で必要とあらば、愛していなくても妻を迎えねばならない」
そうか、一夫多妻制か。「でも、傍らに置きたい女性は一人だけだって言っていたじゃない」
「ああ、おかしいだろう?」
「私にとっては不思議じゃないわ。私の世界では一夫一妻だから」
「そう言っていたな。では、お前たちは愛のためだけに結婚するのか?」
思っている以上に複雑な質問だ。「多くの国では普通そうね、愛が一番の理由よ。もちろん、お金だって大きな動機になるけれど」
「変わらないものもあるのだな」
「ええ。それに世界の一部には、まだ政略結婚や見合い結婚をする地域もあるわ。幸い少しだけどね。他には、家族の同意が必要な場所もあるし」
「つまり、誰もが愛のために結婚できるわけではないのだな」
「そうね」
「でお前は? 愛のために結婚したいか?」
「ええ、愛してもいない人とそんな風に深く結ばれるなんて、私にはできないと思うわ」
「相手がどれほど大金持ちで、お前が貧しかったとしてもか?」
私たちのことを言っているの? いやまさか、妄想しすぎね。そんなのあり得ないわ。「いいえ。私が欲しいのは愛の絆だけよ」
マリクは私の胸、ちょうど心臓の位置にキスをした。「お前の望みが叶うことを願っているよ」
「私もあなたの望みが叶うよう願っているわ」彼の望みを叶えるほうがはるかに難しく、何人もの妻や、あるいは他の側室を娶るようどれほど圧力をかけられるか分かっているからこそ、私は彼を強く抱きしめる。私の後にどれだけの女の子たちが続くのか、考えたくもない。彼に対して嫉妬するなんて、私はバカだわ。
マリクと私は互いの目を見つめ合う。
最後の会話を経て、私たちは互いを少しだけ深く知ることができた。
私たちは愛おしくキスを交わす。
将来、私は愛を求めているけれど、そこに彼がいないことは分かっている。それでもしばらくの間は、まだ彼の手に、彼の唇に触れていたい。
***
夏だというのに朝の空気は冷たい。サルデーニャ島のようにところどころ荒涼とした景色が広がっているせいか、あるいは北のどのあたりにいるのかさえ分からないほどの緯度のせいだろうか。いずれにせよ、私はマリクと一緒にベッドに残っていたかった。抱き合って過ごす夜がもっと長く続けばいいのにと、時々思う。
だが義務が私たちを呼び、起きる時間がやってくる。この点に関しては、どの世界も同じだ。
そして今、私たちはザナンザや街の王とともにキッタンナの城門に立ち、自分たちが出発する前に部隊を見送り、街に向かって言葉を述べている。
口元を手で覆いながら、私はあくびをする。
マリクが私の手にそっと触れた。「昨日ので、まだ疲れているのか?」
「ええ、ゆうべはあまり眠れなかったみたい」
ザナンザが忍び笑いを噛み殺す。
マリクはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
しまった、淫らな意味にも取れる言い方をしてしまった。
「あの、ただすごく疲れていて……」と言い訳をしようとする。
「いいんだ」マリクは私の髪にキスをした。
そう、誰もが夜の間に私たちの間で何が起きているかを想像している。外から見れば容易に想像がつくことだし、私だって納得できる。けれど、誰も彼もが間違っているのだ。正確には、私が元の世界へ帰るための純潔の条件を知らない者全員が。
マリクの副官たちに率いられた部隊が、行進の足取りで街の門のアーチをくぐっていく。
道の両脇では住民たちが歓声をあげて彼らを送り、喪に服す者は人知れず悲しんでいるのだろう。
タルクがこちらに視線を向け、微笑んだ。
私は手を振って彼に応える。
「すっかり仲良くなったのだな」マリクの声には、かすかな嫉妬が混じっていた。
「嫉妬するなよ、兄上」
「嫉妬などしていない」
「共に戦ったんだ、二人の間に絆ができるのは当然だろう。無理もないさ」
「ええ」と私は認める。「彼の信頼を得られたと感じているし、私も彼を信頼しているわ。すごく助けてもらったもの」
「君は見事だよ」ザナンザが敬意のこもった目で見つめてくる。「初心者には見えないな」
「剣のおかげでしょうね」それしか考えられない。
「私もそう思う」マリクが私の手を握りしめた。
我々の部隊は行進を続ける。マリクの話では被害は僅かだったそうで、それは素晴らしいことだった。さらに彼は私の提案を活かしてくれ、それが功を奏した。もっとも、一晩古代ローマ人の話をした私より、それを実践した彼の功績のほうが大きいと確信しているが。
行進が終わると、私たちは群衆に向かって手を振った。
多くの人々が歓声をあげて私たちの名前を叫び、もちろん、もはや私のあだ名のように定着したイシュダーの名も頻繁に呼ばれている。
正直なところ、非常に誇りに思い重んじるべき名だ。
階段を下りると、街の王が私たち全員と固い握手を交わした。「あなた方の協力と尽力に感謝いたします」彼は深い感謝を込めて、私の目をまっすぐに見つめた。
「お世話になっている身として、当然の義務を果たしたまでです、陛下」
「あなた方三人は昨日、この街のために多大なる尽力をしてくださいました。我々は決してそれを忘れません」
「貴殿は我々の同盟者だ」マリクは王の肩に手を置いた。「互いに助け合うのは当然のことだ」
もちろん危険の一端は私たちのせいだったのだが、彼はそのことを気に留めていないようだ。ここでは戦争が日常であり、戦わねばならないことに本気で異を唱える者は誰もいないのではないか、という気がする。
私たちは別れの挨拶を交わし、我が軍と合流するために街を出た。
振り向いてキッタンナに最後の視線を送る。ほんの数時間過ごしただけだというのに、この街の思い出は私の心に消えぬ記憶として刻まれるだろう。
門の敷居のところに一人の老人が姿を現した。松葉杖につき、頭に包帯を巻いている。昨日のあの剣を持った老人だ。手負いでありながらも生き延びたのだ。老人は手を上げて私に挨拶をした。
私はその挨拶に応える。
「誰だ、あれは?」
「キッタンナの住民よ。昨日私を助けてくれたの。とても頼りになる人よ」
「それは良かった」
「何が、マリク?」
「お前が新しい人々からの信頼を勝ち取れたことがだ」彼は私の手を握る。「それは肩書きだけでは得られないものだ。他に必要なものがある」
「たとえば心、だな」ザナンザは何ひとつ聞き逃していなかった。「エンラーやチャニーとは大違いだ。奴らが劇烈な苦痛の中で死に絶えんことを」
「いずれそうなるさ、弟よ」
マリクのこういう復讐心に満ちた一面はあまり好きになれないが、口出しするつもりはない。それも彼の一部であり、彼の世界や文化の一部なのだ。私にはそれを裁く権利も変える権利もない。
「これからはミルワンに向かうの?」私は話題を変えたかった。
「ああ。だが、直接ではない」
「どういう意味?」
「補給線を確保し、敵から要塞を一つ奪うために、まずは一つの街を攻略しなければならない」
「なるほどね」
「おいおいガイア、まだすべてを知ったわけじゃないぞ」
「ザナンザ、私が説明する」
「お好きに」
「さて」マリクは深呼吸をする。「我々には今、二つの可能性がある。第一に、敵軍の領内まで追撃をかけ、決戦を強制することだ」
「でも敵の領内に入れば、食糧のために現地の村を略奪しなければならないし、ゲリラ戦にさらされるわ」
「見事だ。問題点をいくつか理解しているようだな」
「ありがとう」
「あと数マイルも行けば下りに入る。ここは高原の上だが、ミルワンはずっと平坦な地域にあるのだ」
「ちょっと待って、今までずっと高原の上にいたの?」
「そうだ、なぜだ?」
「まったく気づいていなかったから。早朝にあんなに寒い理由がやっと分かったわ」
「すまない、すでに知っているものだと思っていたから言わなかったのだ」
「気にしないで」
「ともかく、キッタンナを押さえたことで高原を下りる峠は確保できた。この高原にこそ帝国の核心があるのだ」
私は頷く。
「作戦に話を戻そう。ミルワン王はこちらを罠に誘い込みたがっている。今ここで思慮なく追撃すれば、奴にその機会を与えることになる」
「そうね、さっきも話した通りわ」
「だからこそ、まずは奴の首都を護る要塞群を奪い、残りの大軍が到着したときのための通信・連絡線を確保しておかねばならないのだ」
「良い考えだと思うわ」
「問題は、その第一歩がリッジョンの攻略だということだ」
「言うまでもなく、私にはまったく初耳の名前ね」
「ああ。父上は、落とすのに少なくとも五年の包囲戦が必要だと踏んでいる」
「なんですって? でもあなたは十か月で戦争を終わらせるって私に約束したじゃない!」
「心配するな、ガイア。忘れてはいない。一週間足らずで攻略するつもりだ」
「どうやって?」
「正面の門から入るのだ、当然だろう」




