異世界から来たガイア 50
第50章
ガイア
大男が私を見つめ、不敵な笑みを浮かべる。
「くそっ」タルクが剣を抜き、私の側をすり抜けて前に出た。
私は狙いも定めずに矢をつがえ、そのまま放つ。
大男は剣で身を護り、まるで奇跡のように私の矢を受け止めた。
剣の周囲に、淡い黄色の光が薄明るく輝く。
「魔法です。祝福された武器ですよ」タルクが説明した。
「なら、他の奴らが続く前に叩き落とさないと」
大男はすでに自分の周囲に足場を確保しており、他の者が続くのも時間の問題だ。
反対側から一人の兵士が槍を構え、彼に向かって突撃する。
剣が二度ひらめくと、兵士 hits の首は城壁の向こうへと吹き飛んだ。
私の見立てが正しければ、あの魔法によって矢がよく見えるか、あるいはとにかく矢を弾くことができるのだろう。
私は弓を捨て、剣を抜いた。
「何をおなさるのです、閣下!」
「弓は効かないわ、奴を仕留めなきゃ」
もう一本の矢が彼を射ようとしたが、やはりあの薄黄色の輝きのせいで当たらなかった。
「お下がりください!」
「でも、あいつに足場を作らせるわけにはいかない」
さらに二人の兵士が盾の後ろから大男に迫る。
「それは分かっています。ですが、あなたの役目ではありません」
「じゃあ、他に誰がいるの?」
「私が奴を食い止めている間に、援軍を呼びに行ってください」
その通りだ。彼のほうが持ちこたえられる可能性が高い。
大男は挑発するような雄叫びを上げ、二人の兵士を軽々と迎え撃つ。
私たちに背を向け、二人の兵士と対峙した。
「今よ」私はタルクに囁き、大男の背中めがけて剣を向けたまま駆け出す。
タルクも悪態をつきながら私の後に続いた。
一人の敵兵が梯子から飛び降りてタルクの行く手を阻んだが、タルクは盾で防いで反撃する。タルクの剣が敵の肩へと振り下ろされた。
あと一歩進めば、私の剣が大男の背中に突き刺さる。
だが奴は振り向き、空いた手で私の剣の平を引っ叩いた。剣は城壁に叩きつけられる。
大男が苦痛の叫びを上げる。
二人の兵士のうち一人がその胴を捉えることに成功していたが、鎧のせいで深く刃を沈めることはできなかったのだ。
大男はその兵士に剣を振り下ろし、城壁の上から叩き落とした。
私はなんとか自分の剣を回収し、後退する。
機会が見えたと思ったのに、逃してしまった。だが、剣を取り戻すことには成功する。
間一髪、彼の攻撃を受け止める。
その一撃の威力に骨まで震え、私は城壁に叩きつけられた。
衝撃が胴体に響き渡り、肺の空気が空っぽになる。
大男が意味の分からない言葉を自国語で低くつぶやいた。
タルクが激しく斬りつける。
大男の剣が再び光を放ち、その一撃は受け止められた。
私も攻撃に加わり、空いた手を狙う。
大男はタルクの突きを受け流し、再び私の剣の平を叩こうとする。
読めていたわ。私は刃を下げて奴の攻撃を空振りさせ、その腹部を剥き出しにさせる。
鎧が抵抗を見せたが、祝福された私の剣先の前に屈した。
剣は柔らかな腹部へと深く沈み込み、鮮血が噴き出す。
大男は人間とは思えない絶叫を上げ、憎悪に満ちた目で私を睨みつけた。
タルクが彼の首に剣を突き立てる。「突き落としましょう、閣下」
私は剣をひねり、それを引き抜く。
血と腸がどっと流れ出た。
酸っぱいものが喉までせり上がってくる。
私は目を閉じ、必死に飲み込んだ。
どうにか今は、吐かずに済んだ。
タルクが梯子の立て掛けられた壁際まで死体を押し、私はその死体の反対側へと回る。
二人の男が梯子を登ってきていた。どうしてもっと早くその機会を活かさなかったのか、私には理解できない。
「押し落としましょう、閣下」
「ええ。でも、その前にあいつの剣を奪って」
「もう済ませてあります」
私たちはうめき声を漏らしながら死体を押し出す。
それは梯子を登っていた者たちを巻き込み、そのまま下へと真っ逆さまに落ちていった。
「タルク、梯子もひっくり返そう」
彼はうなずく。
誰も支えていなかったため、私たちがそれをひっくり返すのは簡単だった。
敵兵たちが一斉に叫び声を上げ、多くが後ろへ逃げ出す。彼らの言葉は分からない。
「閣下、どうやら敵の勇士を討ち取ったようです」
「あなた、あの人たちの言葉が分かるの?」
「ある程度は。いくつかの点では私たちの言葉とそれほど違いません。少し練習すれば、閣下もきっと話せるようになりますよ」
私の英語の成績を知ったら、そんな確信は持てないと思うけど。「何て言ってるの?」
「『偉大なるバゾソが死んだ。守備側に殺され、もう勝ち目はない』――要約すると、そんなところです」
「戦う気をなくしたってこと?」ちゃんと理解できたのか、自分でも少し不安になる。
「その通りです、妃殿下」タルクは疲れ切った笑みを浮かべた。
私はボロボロだった。
私は城壁の下を見下ろす。
敵軍は陣営をたたみ始めていた。そして、戦闘が行われたに違いない場所の土煙は、マリクが勝ったことを示している。
私は歓声を上げた。
不安を一気に吐き出す。まだマリクの様子は分からないけれど、彼は無事だと感じる。私たちは勝ったのだ。私はここで、彼は平原で。
彼の遠征の最初の一歩は、私のおかげでもある。
「見事な働きでした、閣下」
「私は自分の役目を果たしただけよ、タルク」
「ええ、特に私をハラハラさせるという意味では」
「まあ、結果的には全部うまくいったでしょう?」
「今回は、です。ですが次もそうとは限りません。あなたは戦死するにはあまりにも大切な御方です。どうかそのことを常に心に留めておいてください」
「分かったわ。そうは見えなくても、私だって生きていたいもの」
「小娘!」老人の声が私を呼ぶ。
私は声のする方へ振り向く。
老人は血に染まった剣を掲げ、残った歯を見せて笑っているが、元気そうだ。
タルクは首を横に振る。「まだあなたがどなたなのか分かっていないようですね」
「気にしちゃいないのよ。結局のところ、ある年齢になると特定のことはどうでもよくなるものだし」それに結局、私はただの小娘だ。
私は老人のほうへ歩いていき、タルクも後に続く。「無事で本当に良かったわ」
「当然だ、わしはしぶといんでな」全身に血が飛び散っていたが、彼の血ではないと思う。
「兵士全員があなたのような気概を持っていれば幸運なのに」
「わしがあと五十歳若ければ、陛下には申し訳ないが、あんたに言い寄っていたところだ」
私は吹き出した。
老人も一緒に笑う。
タルクは目を丸くして私たちを見ていた。おそらく老人は不敬を働いたか、あるいは罪にさえなる発言をしたのだろう。
勝利の歓声がキッタンナ中に広がり、勝利の知らせを伝える。死傷者の勘定は後回しだ。
今のはほんの数分間、安堵のため息をつくことができる。
「タルク、ザナンザの様子を見に行きましょうか?」
「はい、閣下」
ザナンザはすでに広場にいて、身元確認のための負傷者や死者の搬送を指揮していた。負傷した手には大きな包帯が巻かれている。
私の姿を見るなり、彼は大きく息を吐いた。「よくぞ無事でいてくれた」
「そのようね」
「怪我はないか?」
「ううん、ないわ。少し疲れただけ」
彼は空を見上げ、まるで祈るように両手を広げる。「神々に感謝を」
おそらく私も感謝すべきなのだろう。もしかするとこの世界には本当に神々が存在し、例のイシュダーが私を気に入ってくれたのかもしれない。
イシュダー、もし本当にあなたがいるのなら、今日私とマリクのためにしてくれたことに心から感謝します。ありがとう。
祈るなんて本当に久しぶりだった。もしこれが祈りと呼べるものなら、だけど。
「あとはマリクを待つだけね」
「心配ない、兄上なら大丈夫だ。無駄な危険は冒さない人だからな」
私への当てつけのように聞こえた。
I 私は街を回り、負傷者たちを見舞う。
この場所は今、両極端な状態を行き来している。勝利を祝って歌う者もいれば、傷の痛みにうめく者、大切な人を捜して顔を引きつらせて歩き回る者、あるいは死んだ誰かのために泣き崩れる者がいる。
これもまた戦争の一面であり、人々の間に即座にもたらされる様々な形の結果なのだ。
***
夕日が沈みかけ、空がいっそう赤く染まる頃、マリクが軍勢を率いて、歓声に沸く人々の列の間を通って街へと入ってきた。
キクが御者を務める戦車の上で、彼は兜を脇に抱え、凛々しく真っ直ぐに立っている。鎧の上には紫のマントを留めているが、その鎧は磨かれておらず、彼自身も戦って泥にまみれたのだと証明しているかのようだった。
私だって同じように汚れ、体中が痛む。着替えさえしておらず、自分でも吐き気がするほど臭うのが分かるし、髪の毛なんて論外だ。今の私を見て、帝国の側室だなんて信じる者は誰もいないだろう。
彼の姿をよく見るために、私は人混みをかき分けて進む。怪我をしていないか、本当に無事なのかを確かめたかった。
兵士たちに歓声を送っている二人の女性の間へ私は割り込む。彼女たちは夜の一夜限りの火遊び相手でも探しているのだろうか?
そのうちの一人が私をじろりと睨み、ひどく嫌そうな顔をして鼻をしかめた。
「私の臭いが気になるなら、そっちこそ別の場所へ行けばいいでしょ」
「このクソ野郎」
どうやら男に間違えられたらしい、確かにそんな格好をしている。「心配しないで。王子の姿を近くで見たいだけだから、そしたらすぐに行くわ」
二人は怪訝そうな顔で私を見る。ゲイだと思われたのだろう。
「何よ? あんたたちだって彼を狙ってたんでしょ?」もしかしたら、この二人は本気でそう考えていたのかもしれない。
「兵士にしては綺麗な顔をしてるけど、あんたよりは確実に私たちのほうが脈があるわね」
「どうも」
「その前に体を洗ってきてくれたら嬉しかったんだけど。あんなに臭う奴を王子が気に入るわけないじゃない」彼女は私をからかう。
「心配しないで、私のことなら大目に見てくれるかもしれないから」
「勝手に言ってなさい」
彼女たちは私が女であることにも、ましてや具体的にどこの誰であるかにも、まだ気づいていない。
マリクはもう数歩のところまで迫っており、私たちの前を彼の先導部隊が通り過ぎていく。すると、私の新しくできた賑やかな連れ二人が叫んだ。「エフダル神殿の前へ会いに来ておくれよ、今日だけ特別に割引してあげるから!」
こうして、彼女たち二人がプロモーション活動中の娼婦であることに私は気づく。世界最古の職業にもマーケティングは存在するのだ。
彼女たちは実に賑やかな広告塔だった。
マリクの戦車が私の前を通り過ぎると、私の心臓は走っているときのように激しく鼓動し始めた。
風になびく髪、誇り高き眼差し、そして彫像のような佇まい。完璧、ただただ完璧だった。まるで半神のようだ。
我慢できず、私は彼に向かって駆け寄る。「マリク!」
マリクとキクがこちらを振り返った。
王子は驚きに目を見開き、そして微笑んだ。
暗殺の企てかと思ったのか、数人の兵士が私たちの間に割って入る。
「止まれ!」マリクが鋭く命じる。
キクが戦車を止め、兵士たちはその場に立ち尽くした。
マリクが私に手を差し伸べる。「来い、ガイア」
言われるまでもなかった。私は大股に二歩で戦車へ乗り込み、彼の元へと近づいた。
マリクは私の兜を外し、髪をほどいた。「大丈夫か?」
私はうなずく。「ええ、大丈夫」
「お前が戦ったと聞いた。本当はそんなことをさせたくはなかったのだが」
「イシュダーが必要だったのよ」私は彼の首に腕を回した。
マリクは私の耳元に唇を寄せた。「俺にも、俺のイシュダーが必要だ」彼はそう囁く。
その含みに、足の先までゾクゾクと震えが走る。彼が言っているのは戦いの女神としてのイシュダーではなく、愛の女神――それも肉体的な愛の女神のことだ。
「だめよ」私は唇を噛む。その禁止事項さえなければいいのにと、私がどれほど強く願っているか彼は想像もしないだろう。
「俺たちはいつも方法を見つけてきたと思うが」
「浴槽があるわ」
「当然だな」
私はこの世界の浴槽が大好きだ。「私たちには素晴らしい入浴が必要なようね、いかがかしら、殿下?」
マリクは私の耳たぶを甘く噛んだ。
私はそれを肯定の返事だと受け取る。
「殿下」キクの声が私たちを現実に引き戻す。「見せつけてくださいますね」
「まあ、このパレード自体が見世物だからな」
「ええ、確かにそうですが、公衆の面前でそんなふうにいちゃつかれるとは」
「さっきなんて、私、男に間違えられたのよ」私はくすくす笑いながら付け加える。
マリクとキクも笑い声を上げた。
「キッタンナの民よ!」マリクは雷鳴のような力強い声で群衆を呼びかける。「ここにいるのは、私の唯一の側室、ガイア・イシュダーである! 今日の勝利は、街の城壁における彼女の武勲の賜物でもあるのだ!」
私たちの周囲で一斉に拍手が沸き起こる。
私がマリクにキスをしたのか、それとも彼が私にキスをしたのか。どちらでもよかった。
それは安堵と疲労の味がするキスだった retreat、二人にとって決して軽くない、過酷な一日であったにもかかわらず、どこか清々しさも感じられた。
私たちは舌を絡め合い、周囲の世界を自分たちから完全に締め出す。
みん マリクも私と同じことを感じているのだろうか。
私たちは唇を離し、私はさっきの二人の女性を横目で盗み見る。彼女たちは呆然と立ち尽くし、ショックを受けていた。実際、私だって同じ立場ならそうなるだろう。
私は思わず微笑んでしまう。
「どうした?」
「後で話すわ。今はただ、お風呂に入りたいの」
「ならば俺も同じ気持ちだ」
互いの見つめ合い方からして、二人が同じことを考えているのは明らかだった。
「キク、戦車を出せ」
「ただちに、殿下」
戦車が再び動き出す。
マリクは私の腰を抱き寄せた。「お前の体を隅々までしっかりと調べるつもりだからな。怪我をしていないか確かめたい」
「もし怪我をしていたら?」
「ふむ、その場合はお前にお仕置きをせねばならんな」彼のその目付きからして、どうするつもりか確かな考えがあるようだった。
待ちきれそうにない。




