異世界から来たガイア 47
第47章
マリク
この小さな丘からなら戦場がよく見渡せる。高さはせいぜい十歩ほどしかないがな。
報告通り、確かに街の城壁に沿って別の部隊が到着していた。あちらの状況がどうなっているかは分からぬが、交渉は不調に終わったのだろう。
ファルグアの忠誠を疑っていたわけではないが、これは予測できたことだ。
唯一の懸念はガイアだ。イシュダーと呼ばれている以上、彼女を宮殿の安全な場所に閉じ込めておくとは思えない。ザナンザもファルグアも、彼女の存在が兵士たちにとって大いなる価値となることを知っている。ただそこにいるだけで彼らを鼓舞し、戦の女神が自分たちを祝福してくれていると信じ込ませることができるのだから。
「陛下、あとはお命じいただくだけです」一人の兵士が俺に確認する。
「よし」
俺は最後にもう一度目を凝らした。敵の陣形は動いておらず、太陽の光に晒されたままだ。疲労の度合いから言えば互角だろう。奴らの槍兵は中央で隊形を維持したまま、弓兵や投石兵の盾の後ろに控えている。一方、戦車は馬を冷まさないために何度か動いていたが、地面の窪みを見て、自分たちの機動範囲が限られていることを悟ったに違いない。
「お前が奴らの立場なら、どうする?」俺は傍らにいる兵士に尋ねた。
「はっ、陛下。私には見当もつきません」
「俺が奴らの立場なら、こちらが突撃を仕掛けた後に歩兵を後退させ、戦車で挟み撃ちにするな」
「確かに」
「だが、それでは丘の上の我が軍に身を晒すことになる。そうだろう?」
「その通りです、陛下」
「他のみんなにも伝令を送れ。もし戦車が我が方の側面を突くために動き出したら、俺たちも一斉に突撃を敢行する。密に固まり、正確に矢を放つんだ」
「承知いたしました、陛下」
「行け!」俺は命じた。そして別の兵士を呼ぶ。「お前は、バンヌに出撃の合図を送れ。少し遅れて敵の側面に到着してもらった方が都合が良い」
「はっ、陛下」彼もまた出発した。
「突撃の合図を出せ!」
角笛がその合図を轟かせた。
俺が用意させた、しっかりと盾を閉じた四つの密集部隊が行軍を開始する。
俺はかろうじて唾を飲み込んだ。「ドゥルハンの神々よ、どうか俺の部下たちを護り、我らに勝利をもたらしたまえ」俺は呟いた。「そして、あなた方が俺たちに授けてくださったガイアをもお護りください」
不安の万力が俺の胃を締めつける。これまで戦を前にして一度も味わったことのない、未知の苦悶だ。
俺は恐怖している。だが、今回は自分のためではない。
ガイアのことが恐ろしいのだ。彼女がすでに戦場に身を置いたことがあるとしても。
拳を握りしめる。この感覚は酷く不快だ。
部隊は命令通り、頭上に盾を掲げて密集して行軍している。前方に二つ、後方に二つの部隊を配置し、互いの側面を護り合う形だ。
最初の矢が放たれ、投石兵たちがその紐を旋回させ始める。
矢は標的に届かず、投石の弾丸は盾に当たって跳ね返る。
今のところ、損害はない。
そして敵の戦車はまだ動いていない。
俺は街の方へと視線を上げた。
矢狭間からは矢が激しく交わされている。
「ガイア、戦いには近づかないでくれ」俺は静かに呟いた。
ガイア
ザナンザは地面に唾を吐き捨てた。「野郎ども、待てないのは分かってたぜ」
城壁の上では、こちらの弓兵と攻め寄せる敵兵が互いに矢を放ち合っている。
「これからどうするの?」
「耐えて、できるだけ多くのめす。当然だろ」
私は緊張して唾を呑み込んだ。「ええ、当然よね」
「心配するな、ガイア。お前はここで予備兵たちと一緒にいろ。兵たちを鼓舞して、民を安心させるんだ。だが、戦闘には絶対に首を突っ込むなよ」
「分かったわ」
「俺の命がかかっているんだ」
「本当に、マリクがあなたに酷いことをすると思っているの?」
「ああ、お前に何かあれば、あいつは俺をただじゃ済まさないだろうからな」
「大げさよ」結局、私はただの側室だ。それも名ばかりの。
「いや。俺があいつの立場なら、違うことをする」
「どういう意味?」絶対に夜の営みに関することだ。
「もう行かなきゃ」彼は私の手を取り、そこに口づけを落とした。
「待って」私は彼の頬に口づけを贈った。「あなたに私の祝福をあげる」
ザナンザは決まり悪そうに微笑んだ。少しだけ顔も赤くなっている。
「変な意味じゃないからね。無事に帰ってきてほしいだけ」
「分かっている」
「それと、兵士たちにも私の祝福を届けて」
「言っておくが、俺は兵士たちに口づけして回るつもりはないぞ」
思わず吹き出してしまった。
「今度こそ本当に行く。心配するな、気をつけるから」彼は振り返り、城壁の上へと駆け出していった。
あとは戦わずに済み、早く勝利することを願うばかりだ。
そして、マリクが無事であることも。
もし彼が死んだら、私はひどく苦しむだろう。彼を失うということは、もう家に帰れなくなるかもしれないというだけでなく、私が深く心を通わせつつある大切な人を失うことを意味している。彼からこれほど遠く離れて過ごしたここ数週間は、本当に最悪だった。
私は孤独だった。彼と一緒にいるときに感じるあの喜びも温もりも、何のためらいもなく抱きしめられるという安心感もそこにはなかった。
あぁ、もう。私は彼に恋をし始めているんだ。
彼のことを知れば知るほど、さらに素晴らしい人に思えてくる。
そして彼に惹かれ、恋に落ちるほど、後で傷つくことになる。分かってはいるけれど、そのリスクを背負う覚悟が自分にあるのかどうかは分からない。
「閣下」タルクンが私の思考を遮った。「我々に何かご命令はございますか?」
「私は……ええと、いいえ。ごめんなさい、少し混乱していて」
「よろしければ、閣下、私がお手伝いいたしましょう」
「ありがとう、そうしてもらえると嬉しいわ」
「戦の最中にただじっと待っているというのは、男たちにとってはここに毒なのです」彼は自分の頭を指さした。「余計なことを考えすぎて、不安に囚われてしまいますから」
「分かるわ」それは私にも言えることだった。
「ですから、何か作業をさせるのが得策です」
「例えば?」
「負傷者の搬送や城壁への矢の運搬、それに門の補強などです」
「ええ、理にかなっているわ」私は頷いた。「でも、私たちは人数が少なすぎるかもしれない」
「確かに。それに、我々はここに密集して、いつでも出撃できる備えをしておかねばなりません」
「キッタナの住民たちに話をしてみるわ」
タルクンは怪訝そうな顔で私を見た。
「ここは彼らの街だもの、彼らが防衛に参加するのは当然よ」
「しかし閣下、彼らは足手まといになる恐れがございます」
「何も城壁に上がれと言っているわけじゃないの。負傷者の手当てや門の補強なら、一般市民にだってできるわ。それに、もし敵が侵入してきたら、彼らだって家を保っていられないでしょう」
「敵の侵入を許したなら、もはや我々の関知するところではございません、閣下」
「だったら、侵入させないようにしましょう」そうすれば、私も不安に呑まれずに済む。
「同感でございます、閣下」
「ファルグア王が住民に対してどう動いているのか知りたいわ。一緒に連携して調整できるように」
タルクンは二人の兵士を呼び寄せ、情報を持ち帰るよう派遣した。
「それから、残りの男たちにはここに留まってもらい、負傷者の回収と搬送を担当させたいわ」
「あの倉庫が使えるかもしれません」彼は一つの大きな扉を指さした。
「完璧よ。あなたは指示を出して、私はその所有者を探してくるわ」
私は激しく扉を叩き、所有者と話をさせてほしいと求めた。
二、三分して窓が開いた。「何の用だ?」白髪と長い髭を蓄えた老人が顔を覗かせた。
「あなた、街の防衛に協力していただきたいのです」
「税金ならもう払っている。ほかに何をしろと言うんだ? 槍でも持てと?」
「いいえ」私は首を振った。「負傷者の手当てをするために、あなたの倉庫を開放してほしいだけです」
「ふん、他を当たるんだな、兵士風情が。大体、どんな権限があってそんな口を利く?」
「まずは、ここに一番近いあなたにお願いしているんです」
「おい、私はこの街の名士だぞ。私のドアを無作法に叩くような、どこの馬の骨とも知れん兵士の命令など聞く耳持たん」
できることなら城壁の上に送り込んで、それでもそんな態度が取れるか見てやりたいわ。「それなら、もし高位の貴族から命じられたら従うのね?」
「当然だ」老人は挑発的な視線を向けてきた。
私は兜を外して髪をほどいた。「私はガイア・イシュダー、スッピルマ皇帝の息子たるマリク王子殿下の側室です」自分の肩書きとなるはずの言葉を口にする。
老人が青ざめる。
「皇族の一員として命じます。門を開放し、負傷した者たちをここへ避難させなさい。さらに、医師や彼らを応急処置で助けられる者がいれば立ち会わせるように」
「は、はい。はい、もちろんでございます」
「期待していますよ。見事役目を果たしたあかつきには、それなりの見返りを与えましょう」
利益のことを考えたのだろう、老人の目がぎらりと輝いた。
「さあ、行動しなさい。あなたの街のために!」私はそう命じてその場を後にした。心臓が狂ったように高鳴っている。自分の階級を使い、このように権力を振るったのは初めてのことだ。どう言っていいか分からないけれど、どこか心地よくもある。
部下たちのところへ戻ると、彼らが負傷者の手当てに奔走しているのが目に入った。私は何人かの兵をあの老人の手伝いに向かわせ、何一つ手を触れるなと命じる。
頭に矢を突き立てられた一人の兵士が城壁から落ち、マネキンのように地面へ崩れ落ちた。その口は声なき叫びをあげたまま開いている。
私は悲鳴を抑えるために両手で口を覆った。
「閣下」一人の兵士が私に近づいてきた。「あなたのお呼びかけに応じ、民間人たちが集まっています」
「呼びかけって?」
「あの商人とお話しになっていた内容を聞きつけた者もいれば、自発的に現れた者もいます。あるいは我が軍の兵士が説得したか、噂が広まっているのでしょう」
なんてこと、私はただ一人の老人に、家に引きこもっていないで何か手伝えと納得させただけなのに。
「彼らに二言三言お言葉をかけ、何をすべきか説明していただけますか?」
私は生唾を飲み込んだ。またしても演説が待っている。この調子でいけば、元の世界に帰ったときには政治の道にでも進めそうだ。
広場の片隅に、七十人ほどの小さな群衆が集まっていた。彼らは怯え、大半は武器を持っておらず、数人が弓や収穫用のフォークを握りしめている。
最前列にいる小柄な老人は、腰に剣を帯び、使い古された鎧を身につけて、顎を上げて誇り高い眼差しを向けていた。若い頃は兵士だったに違いない。
私は深呼吸をした。「キッタナの市民の皆さん! 私はガイア・イシュダー、スッピルマ皇帝の息子、マリク王子殿下の側室です。皆さんがこの街を救うために駆けつけてくれたことに、心から感謝いたします」これで自己紹介は終わりだ。「すでに皆さんもご存じの通り、異国であるミルワンの軍勢がこの城壁内に侵入し、望むものすべてを奪い去るのを阻止するための戦いが今、行われています」私のは略奪という恐怖の影をちらつかせた。「兵士たちはすでに城壁の上で勇敢に戦っていますが、皆さんのはたらきも必要なのです」
あの剣を持った老人が、それを天に突き上げて叫び声をあげた。闘志に満ち溢れている。あの精神を私こそが持ち合わせていたならよかったのに。
「その心意気には深く感謝します、ご老人」私は彼に微笑みかけた。「ですが、皆さんには戦うことは求めません。少なくとも、まだ」
誰かが安堵のため息を漏らす。
「皆さんにお願いしたいのは、門の死守と、その補強です。荷車や、敵が門をこじ開けるのを防げるような重い物を手前に並べてください」私は小さな群衆に視線を走らせた。「そして、何人かには城壁の近くに控えてもらい、負傷者の搬送や、我が軍の兵士たちへの矢玉の運搬を担当していただきたいのです。より過酷で報われない仕事になりますが、皆さんの中で最も勇敢で体調に問題のない方は、この任務のために城壁へ向かってください」
「閣下」老人は剣を鞘に収めた。「この老骨が、最後にもう一度だけ戦う機会は、万に一つもございませんか?」
「そうならないことを、心から願っています」
老人は落胆して目を伏せた。
「そう願うのは、それが叶えば今夜、私たち全員が救われるということだからです」
「おっしゃる通りでございます、閣下」
「よし、キッタナの男たちよ! 命令は伝わりましたね、取りかかってください!」
男たちは少し困惑した様子で佇んでいる。
老人が私の隣にやってきた。「戦場の無残な現実を目にする度胸のある野郎は俺についてこい! 少なくとも二十人は門の細工にかかれ」彼は私に目配せをすると、城壁に向かって大股で進み始めた。
何人もの男たちが彼の後に続いた。
タルクンが私のもとへ走ってきた。「見事な手際です、閣下」
「ありがとう」私だけの功績ではないけれど。
「ザナンザ様が負傷されたことをお伝えに参りました」
「何ですって!?」
彼は頷いた。「我々には、閣下が必要なのです」




