異世界から来たガイア 46
第46章
ガイア
ファルグアは使者に向かって微笑んだ。
まさか、本当に降伏して寝返るつもりなのだろうか?
ザナンザが彼の肩に手を置いた。「妙な真似はするなよ」その声には威圧が込められていた。
「何かおかしなことを言ったか? 実際、なかなか魅力的な提案ではある」
ザナンザは歯噛みした。
もし受け入れられたら、私たちは捕虜になるか殺される。そんなことくらい、私にだって分かる。
「いずれにせよ」王は私たちの目をまっすぐ見つめた。「魅力的な提案だからといって、受け入れるとは限らんぞ」
「お断りになるのですか?」思った以上に怯えた声が出てしまった。
ファルグアはうなずいた。「その通りだ。条件はこれよりはるかに高くなければならんし、それに使者の言うことを真に受けるほど私は愚かではない」
私はほっと息を吐いた。「一瞬、私たちを裏切るつもりなのかと思いました」
「イシュダーよ、もしその気なら、もっと別のやり方をしている」
私はうなずいた。彼が何を意味しているのか、正確には分からなかったけれど。
「ともあれ、これは君たち若者に教えておきたい教訓だ。人がすぐに手を借りたい時には、いくらでも魅力的な条件を並べ立てるものだ。だが、君主が本当に吟味すべき提案とは、紛争や協定の初期段階、すなわち事前の準備フェーズで持ち込まれるものだけだ」
「つまり、あの提案が有効だとは思われないのですね?」
「善意から出たものではない可能性が極めて高い、と言っておこう。いずれにせよ、私を同盟国にしたいか、あるいは中立を望んでいたのであれば、もっとずっと前に動くべきだったのだ」
「外交交渉には時間がかかるものですからね」ザナンザが締めくくった。
ファルグアは微笑んだ。「その通りだ。よく覚えておきなさい、次に統治するのは君たちの世代なのだから」
私はこの世界で統治することなんて絶対にないけれど。「それで、これからどうするの?」
「時間を稼ぐことはできるかもしれません」ザナンザが提案した。
「悪くない考えだ」
「うまくいくと思う?」その間に、マリクが戦いに勝利して敵を敗走させてくれるかもしれない。
「かもしれん。少なくとも、提案を検討する時間くらいは要求できる」
「もう結論は決まっているのに、ですよね?」私は念のために尋ねた。
「それこそが時間を稼ぐという意味の本質だ」
ファルグアは城壁から身を乗り出した。「私はキッタナ王ファルグア二世である!」彼は使者に告げた。「貴殿らの寛大なる提案について、顧問官たちと協議する時間を要求する!」
「日没まで待おう!」使者が応じる。
使者の戦車は向きを変え、敵の前衛へと戻っていった。
「よし、時間を稼げたわね」私は少し楽観的な気分になった。
「かもしれんな」
「ザナンザの言う通りだ、私も信用していない。確実に日没まで待ってくれるはずがない」
「どうして?」戦の女神の名を授かっていても、私には軍事のことがさっぱり分からない。
「この戦いの本当の獲物は、この街だからだ」ザナンザが説明する。「おそらく奴らは、こちらの兵力が少ないことを見抜いている。兄上に圧力をかけるためか、あるいは本気で街を奪い落とすために、大軍で攻め立ててくるだろう」
「じゃあ、私たちは危険なの?」
「ガイア、お前はここなら安全だ。だが、本当に安全な場所などどこにもない」ザナンザは確実に、自分たちの家で毒殺されたゲスアのことを言っているのだ。
「戦わなきゃいけないの?」
「お前は違う。だが、交戦になる可能性は極めて高いと思う」
「その通りだ。さあ、城壁から降りよう。本来なら私は今頃、顧問官たちと協議を重ねているはずだからな」
私は最後にもう一度、城壁の向こうへ目を向けた。
私たちを追ってきた部隊は長い追撃の疲れを癒やすように休息しており、遥か彼方では二つの土煙がゆっくりと互いへ近づきつつあった。
一方はマリク、もう一方はミルワンの王だ。
私は階段を下りた。ここにいても私にできることは何もなく、あとはただ待ち、マリクがこの戦局を打開してくれるのを信じるしかなかった。
おそらく、この一つの戦いだけで、戦争全体の決着がつくだろう。
マリク
予想通り、ラッファルはすでに部下たちを率いて丘を確保し、それらを小さな防衛拠点へと変えていた。
しかも六カ所も確保している。まさに小規模な要塞群だ。
ミルワンの軍勢が俺たちの正面に展開している。槍と盾を構えた槍兵、そして弓兵と投石兵が中央を占め、両翼には二列の戦車部隊が控えて護りを固めていた。
俺は不敵に笑う。
奴は俺の仕掛けた第一段階の罠に早くも嵌まった。この地形は起伏が激しすぎて、戦車を最高速度で走らせることはできない。その上、この丘からなら俺たちの弓兵の方が射程で優位に立てる。
すべてが予定通りに進めば、バンヌが次の渡河地点を押さえ、こちらの合図とともに敵の側面を突いてくれるはずだ。
敵軍全体を完膚なきまでに叩き潰すのは難しいだろう。だからこそ退路は残しておかねばならない。ヴェルティワザ王さえ討ち取れれば、この戦争に終止符を打てるかもしれない。
長い黒髪の神官が一部の兵士たちに祝福を授けている。どこかで見覚えがある顔だと思ったら、王都に大勢いる神官のうちの一人だろう。
今はほかに考えるべきことがある。
俺は一人の兵士を呼び寄せた。
兵士は軍礼をとる。
「ラッファル隊長のところへ行き、俺たちの後方を援護する備えをしておくよう伝えろ。もし敵が深く攻め込んできて、丘の上の部隊に隙があるようなら、一気に駆け下りて可能な限り敵を乱せとな」
「はっ、陛下」
敵の戦列から一台の戦車がこちらへ向かって進んできた。御者ではない方の男が両手を挙げている。交戦前に話をしたいという合図だ。「丸腰にて、軍の総司令官殿とお話しいたしたい!」
俺は親衛隊を周囲に引き連れ、隊列の前へ出た。
こちらの顔をはっきりと見せるため、兜を脱ぎ捨てる。
「ここで待て。ただし警戒を怠るな」と部下たちに命じる。
彼らは足を止め、槍を地面に立てた。
俺は使者との距離が残り五歩になるまで近づいた。「俺はマリク。皇帝スッピルマの息子にして、このドゥルハン帝国軍の総司令官だ」
「お目にかかれて光栄にございます、陛下。我が主君より、この事態を平和的に解決するための条件を伝えるよう仰せつかって参りました」
聞いてやろう。もっとも、すでに鼻から信じてはいないが。
「第一に、キッタナとその周辺地域の中立化を求めます」
「不可能だ」
「どうか最初からそのように撥ねつけないでいただきたい」
「あいや、すまないな。話を続けてくれ。だが、その条件だけは絶対に呑めないと知っておくがいい。奴らはもう何年も前からの我が方の同盟国だ」
「第二に、より平和的な共存のため、互いの国境地帯における相互非武装化を要求しております」
「お前の主君が本気でそう信じているなら、そもそもこの地域に侵攻などしてこなかったはずだ」
「我々が動かねば、いずれ貴国が動いていたでしょう」
「今しがた非武装化を求めてきたのは俺ではないはずだがな」もっとも、その発想自体は悪くないと認めざるを得ない。その分の資源を公共事業や灌漑水路の建設に回せるからな。
「第三に、人質の交換です。双方が撤兵した後、誠意の証として高位の人質を交換いたします」
「理解はできるな」俺は腕を組んで肯定した。「そして最後の条項として、両国の関係を平和的に規定するための条約を交わす、といったところか?」
「やはり陛下と我が王は同じお考えをお持ちのようだ」使者が微笑む。
「そういうわけではない。それは四十年前、俺の父が先代の王に提案し、そっちが拒絶した内容とまったく同じだからだ」
使者の笑みがすっと消えた。奴がそれを知っていたか否かなど、どうでもいいことだ。
「さて、その交渉がその後どうなったか当ててみろ」
「想像はつきます。さもなければ、我々は今ここにこうしてはいないでしょう」
「その通りだ。気の毒なことにお前たちは、俺の父に和平を乞うまで何度も叩き潰される羽目になった。そしてその平和は三十四年間続いたのだ。ヴェルティワザ王が王座に就くまではな」
「つまり、平和的な解決を見出すおつもりはない、と受け取るべきですな」
「そして俺の推測では、お前は大馬鹿野郎だ」
「何ですと?」
「馬鹿だと言ったのだ。俺にはこのような重大な決定を下す権限はないし、お前もそれを知っているはずだ。まずは父上に諮り、父上と評議会がどう考えるかを確認せねば慢ん」
「それは承知しております」
「結構。ならばお前の王に伝えるがいい。自分の伝言を本気で信じているなら、ただちに、それも大急ぎで撤退しろとな。そして誠意の証として、少なくとも二人の高位の人質を残していけ」
「そのような要求を突きつけられる筋合いはございません」
「お前の意見など知ったことか」使者としては、ガイアの方がこの間抜けより遥かにうまくやれるだろう。「お前たちの王が本当に和平協定を結びたいというなら、俺に異存はない。だが最初の一歩を踏み出すべきは奴の方だ。国境の向こうへ退くという形でな」俺は彼らがやってきた方角を指さした。
「陛下の仰せられた言葉は我が主君に伝えます。しかし、戦争の道を選んだのはご自身だということをお忘れなきよう」
「信じてくれ、俺はこの戦争を最も望んでいない人間だ。互いに殺し合うよりも、もっと有意義な命の使い道がある」真っ先に思い浮かぶのは、ガイアに口づけすることだ。「だが、この条件は受け入れられない。ヴェルティワザが撤退するなら、国境を越えないと約束しよう。商議の可能性について父上にも前向きに話す。その代わり、保証として最低でも二人の人質を要求する」
「平和を語りながら、それでも戦争を選ぶのだな、若造」
「お前にとっては陛下だ」
「それでもお前が若造であることに変わりはない。戦争を選ぶというなら、我らの手にかかって死ぬだけだ」
そんな脅し、俺には通用しない。「今日もし戦うことになれば、安心しろ、明日までにお前はカラスの餌になっている」
使者は目を見開いた。「戻るぞ」と御者に命じる。
戦車は大きく弧を描いて旋回し、やって来た方角へと戻っていった。
俺も自分の部下たちのところへ戻る。
奴が時間を稼ごうとするのは、何かを企んでいるからだ。
俺が戻るとすぐにジル・バムが待っていた。甲冑すら身につけていない。確かに彼には戦わせない方がいい、ガイアの方が確実に彼より腕が立つ。「陛下、そのお顔を拝見するに、交渉は芳しくなかったようですね」
俺は彼に会話の要点をかいつまんで話した。
「ミルワンが時間を稼ぎたがっているのだとすれば、それは自らの陣地を強固にするためだけに他なりません。我々にもエギントの国境地帯にも近い場所にいる彼らとしては最善の戦略ですが、今このタイミングでそれを行うのは腑に落ちませんね」
「同感だ。むしろ、すぐにでも戦の準備を整えた方が良さそうだな」
「それでは陛下、お許しをいただき私は後方に下がらせていただきます」
「ああ。手を汚さなきゃならん時に、お前に足元をうろつかれたくはないからな」
ジル・バムはくすくすと笑い、立ち去った。
この地形のおかげで奴らは戦車を思うように動かせないはずだ。だが、弓と槍による敵の防御網は侮れないし、いずれにせよ側面から襲ってくる可能性はある局面に変わりない。
事実上、動く者は誰であれ、側面に攻撃を受けるリスクを負うことになる。
しかし、激突の瞬間にいくつかの丘の部隊を動かしてそこを空ければ、俺が敵の側面を叩けるかもしれない。
無論、俺たちはまるで亀の甲羅のように盾で身を隠しながら前進しなければならないだろう。彼らがそうした密集防護の訓練を積んでいるわけではないが、起こり得ることだ。ガイアの世界にも、このような戦術を使う者がいるのだろうか。
俺は将校たちに、それぞれ五百人からなる四つの部隊を用意し、全員が俺たちの大きな盾で身を覆うよう指示を出した。彼らは一丸となって迅速に行軍し、敵と接触したところで可能な限り多くの敵を仕留めなければならない。
「し、しかし陛下」非常に若い将校が一人、手を挙げた。
「申してみよ」
「あまりにも危険が大きすぎます。つまり、複数の戦面から狙い撃ちにされることになります」
「だからこそ、各部隊は互いに近接して進軍せねばならんのだ。そうすれば互いを庇い合える」
「そのような作戦を試みた者は誰もいません」
「現状、我々も敵方も騎兵と弓兵が身動きをとれずにいる。これを打破するのは歩兵の役目というわけですな」将校の一人が俺を支持した。
「その通りだ」
「我らの職務を果たして見せます、陛下」彼は確信を込めて言った。
「お前たちが突破口を開けば、俺たちが後方から介入して加勢するし、丘の上からも増援が駆けつける」
「もし、戦況が悪化したら?」若い将校はまだ納得がいかない様子だ。
「もし万事休すとなったら、その時は冥府で陛下に直接八つ当たりすればいいだけのことだ、当然だろう!」と、より年長の将校が答えた。
どっと一同の間に笑いが沸き起こった。
「その通りだ」俺も認める。
一人の伝令が俺との謁見を求めて進み出、膝を突いた。
「申してみよ」
「キッタナへ別の新たな軍勢が到着したのを目撃しました。総勢三千ほどと見られ、突撃の準備を整えつつあります」
ガイアが危険に晒されている。
ミルワンがまだこれほどの余剰の兵力を隠し持っていたとは予想外だった。
おそらく、この目の前の戦いは単なる陽動に過ぎないのだ。
「諸君、命じた通りだ。戦いの準備をせよ」
ガイア、どうかお前が激突の渦中から遠く離れた場所にいてくれますように。




