異世界から来たガイア 43
第43章
ガイア
矢が低木の脇の的に突き刺さる。このコースでも10回連続で命中だ。
こんな小さな的でも上達している、私を強化してくれる剣を身につけてさえいないというのに。
私は弓を地面へ置き、テラスの欄干に背を預けて座り込んだ。
暮れ方の太陽の温かさを味わいながら、そっと目を閉じる。
マリクはいつ帰ってくるんだろう。最近の彼はいつも忙しく、そのことについて多くは語らないけれど、戦争が関係しているのだと分かっている。大抵この時期に遠征が始まると彼自身が言っていた。そのことが私を不安にさせ、運動することでしかその不安を抑えられない。もし彼が行ってしまったら、私はどうすればいいのだろう?
一番恐ろしいのは、ここ彼の宮殿に留まらなければならないことだ。
私はチュニックの一部を掴み、ぎゅっと握り締めた。
彼なしで過ごすのは怖いし、彼がいない間に皇后にさらわれずにいること自体、すでに奇跡のように思える。
絶対に彼女は何かを企んでいる、分かっている。でも、もしかしたらマリクがしばらく大人しくさせるのに十分なほど彼女を脅すことができたのかもしれない。
ため息が出る。
この世界のことは何一つ分からない。本当なら家族と一緒に家にいるはずだったのに。頭がおかしいと思われずにどう答えればいいのか分からない無数の問いを抱え、外の世界では狂人扱いされるに違いなく、そして、心が引き裂かれている。
家に帰るチャンスを逃してから二週間近くが経ち、戻るためにはまだ少なくとも十か月は待たなければならない。
マリクは私に約束してくれたし、彼を信じているけれど、幻想を抱くわけにはいかない。
私は膝を抱え込み、その上に頭を乗せた。
何が起こるのかが怖い。
それに、いつまでもマリクやカラールに負担をかけるわけにはいかない。私が泣き続けていた日々、二人は私を慰めるために十分すぎるほど尽くしてくれた。彼らのためにも、この数か月を落ち込まずに前を向いて進むよう努力しなければならない。
でも、ここ数日のマリクのことが心配だ。
彼は以前より無口で、まるで私に言えない何かがあるかのようだ。知り合ってからはまだそんなに長くないけれど、何かを口走るのを防ぐかのように時々彼が顎を固く引き締めるのが分かるし、その視線がどこか遠くを彷徨っているのを見て取れる。何か考え事があるのだ。いつも疲れて帰ってくることや、戻ってきてからは二人の間で何もしていないことからもそれが分かる。夜はすぐに眠ってしまい、朝は私が目を覚ます前に、まるで泥棒のように逃げるように出ていってしまう。
もしかして、もう飽きられたのかな。
きっと彼はそれ以上のこと、私には与えることのできないものを望んでいるのだ。
涙が一つ、頬を転がり落ちた。
これじゃ駄目だ。
私に気分があるように、マリクにだって自分の気分を持つ権利はあるし、誰かと深い関係になったり、好きな女たちと関係を持ったりする権利もある。それを邪魔する資格なんて私にはない。ただの偽物の側室なのだから、自分の役割を弁えなければならない。それが彼を大切に想う私なりの方法なのだろう。これ以上彼に執着してはいけないし、それはお互い分かっていることだ。彼は私にキスをすることだけを選んだのだろう。まるで、それ以上の方法ではもう私に触れたくないかのように。
まあ、少なくともこのままいけば、確実に家に帰ることはできるはずだ。
「ガイア様」と、イヌアが私を呼ぶ。
私は顔を上げた。
その侍女は私から二メートルほど離れた場所に立ち、心配そうな表情で私を見つめている。先週のようにまた激しく泣き出すのではないかと恐れているのだろう。「ガイア様、大丈夫でございますか?」
私は涙を拭った。実際、少し泣いていたのだ。「ええ、気にしないで。ありがとう。ただ、ちょっと弱気になっただけだから」
イヌアはうなずいた。「お時間も時間ですし、まもなく殿下もお戻りになるかと思いますので、お風呂に入られたほうがよろしいかとお呼びに参りました」
「確かに、私、臭うかもね」と、私はくすくす笑う。
「おぉ、ガイア様、お気を悪くさせるつもりはなかったのです。ただ、そのようなお姿のままでお会いになるのは、ふさわしくありませんし礼儀にもとるかと存じまして」
「まあ、気にしてないわ。でもお風呂には入るね、絶対にそのほうがいいし」
「お待ちしております、ガイア様」
「心配しないでイヌア、ありがとう。でも、一人でやるから」
「ですが、香油をお塗りしなければなりません。それに、お髪も整えませんと」
まったく、あの香油のマッサージはいまだに好きになれない。「大丈夫、それは後でやるわ。ついでにもう少し泳いできちゃうから」
「では、残りのお手入れは後ほど伺います」彼女は去っていった。もしかしたら気を悪くさせてしまったかもしれなくて申し訳ないけれど、今はマッサージをされたり色々と世話を焼かれたりする気分ではなかった。
家族の元へ、自分のいるべき場所へ戻りたいと思うと同時に、マリクと話をして何が起きているのかを理解したいとも願ってしまう。
私は武器と的を拾い集めて片付け、浴槽へと向かった。
光が柱の隙間から差し込み、水面へ溶けるように広がっていく。ここへ来るたび、人生でも特に官能的だった瞬間のいくつかの記憶がよみがえる。マリクはどう思っているんだろう。もしかすると、彼にとっては前戯だけじゃ物足りないのかもしれない。
私はチュニックと下着を脱いだ。
一陣の風が、私の裸の背中を撫でて通り抜けていく。
私は水の中へと飛び込んだ。
冷たい水が顔を打ち、身体を包み込む。シャワーなんかじゃ味わったことのない感覚だ。この水も魔法だったりするのかな? まったく、この世界なら驚かないけれど。私はゆっくりと泳ぎ始めた。
きっとマリクは、私なんかよりずっと目の肥えるような相手に慣れているのだろうし、お互いに勘違いをしていただけなのかもしれない。だからこそ、彼は私から離れて過ごす時間がどんどん増え、以前のような触れ方をしてこなくなったのだ。私と距離を置くことで彼自身が踏ん切りをつけ、今の距離感を保とうとしている。私が絶望して泣き暮らしていた日々のせいで、女としての価値が足りないと思われたのかもしれない。それなら辻褄が合う。
だけどそもそも、私はマリクとどうなりたいんだろう? 良い質問だ。本当なら、放っておかれることを喜んで、家へ帰される日を待つべきなのに。彼が戦争へ行くことになるのなら、その距離のおかげで彼のことを忘れられるかもしれない。時間通りに生きて帰ってきてくれさえすれば。まあ、あの人が簡単に死ぬわけはないけれど。
「やあ、ガイア」と、マリクがそこにいた。
彼の声がした方へ振り向く。彼は水盤の縁に立ち、私を見つめていた。
「おかえり、今日は早かったのね」
「最近はかなり忙しくしていてな、すまない」
「まあ、あなたには王子としての義務があるものね」
「ああ。最初の数日は、お前と一緒に過ごす時間を作るのも一苦労だった」
私は彼に向かって二歩近づいた。「お荷物になりたくなかったの」
「気にするな、俺は状況を分かっている。お前が謝る必要はない」彼は水を指差した。「入ってもいいか?」
「どうぞ、ご自分の家だと思ってくつろいでね」
「実際、ここは俺の家だが」真顔だ。冗談だと気づいていない。
「私の故郷の決まり文句なの」
「ああ、なるほど」彼はチュニックを脱ぎ、手早くサンダルも外した。下着だけを身につけている。
私は唇を噛む。ということは、今日は私に触れる気があるのだ。ただ、他に何も面白いことがないから、という理由でなければいいのだけれど。
「少し後ろを向いていてくれないか?」と、彼は口元に笑みを浮かべて言う。
「どうして?」身体の奥が熱く震えた。
「恥ずかしいからだ」
「どうして急に?」
「どうしてって」彼は大げさに瞬きをしてみせる。「裸になるんだぞ」
「そんな風に言うなら、絶対に後ろを向いてあげない」
「育ちの良いお姫様のすることではないな」
「あいにく、私は何よりもまず庶民だもの」私は水を掻いて彼へと近づく。「全然お行儀よくなんてないわ」少し色っぽく、誘うような口調で言ってみたものの、自分でやっていてちょっと馬鹿らしくなる。
「そうか?」
「そうよ」
「なら、そのお行儀の悪さを確かめに行かなければならないな」
「来れば?」彼と一緒にいたい。そして、なぜ彼が私にあれほど冷淡だったのかを知りたい。
視線のせいか、それとも他の何かのせいか、彼は私が何を仄めかしているのか気づいたようだ。今夜、私たちがどれだけ相性が良くて、私がどれだけ上手かを思い出させてあげる。私に嫉妬する権利なんてない。それでも、彼が他の誰かと一緒にいるかもしれないという疑念だけで胸が苦しくなるし、関係をはっきりさせるというより、彼は私のものなのだと分からせたい衝動に駆られる。本当に奇妙で、理屈じゃなくて、こんな気持ちになったのは初めてだ。
マリクはまだ下着を履いたまま水へ飛び込んだ。
水飛沫が私の顔に降り注ぐ。
濡れた髪を後ろへ掻き上げるマリクの姿は、香水のCMのイメージキャラクターにでも即座に採用されそうなほど絵になっていた。まったく、やばい。彼は目を閉じたまま首の凝りをほぐし、その甘い顔立ちの輪郭を伝って水滴が流れ落ちていく。私を焦らすかのように、わざとゆっくりと動いている。この瞬間を動画に収めて、自分の世界へ持って帰りたいくらいだ。
手を伸ばしさえすれば、お互いに触れ合える距離。私の抱えるすべての疑念も不安もクソ食らえだ。彼に飛びついて、全身を愛撫し、その顔も身体もすべてを私の記憶に深く焼き付けたい。
マリクは下着を水盤の外へと放り投げた。「ほら、これで裸を見られずに済んだし、恥ずかしい思いもしなくてよかったな」
「本当に残念だわ」
「身を守らねばならないからな」
「それで、私は危険なのかしら?」
「想像以上にな」
「それなのに、こんなに近くにいるのね。危険のすぐそばに」
マリクが私の方へ歩いてくる。「用心のためだ」と、私たちの距離が半分に縮まった。
彼に触れたい、だけどそうしてしまわないように両手を背中に回さざるを得ない。すぐに彼のもとへ駆け寄ったりしないだけの最低限のプライドは、まだ私に残っている。「矛盾してるね」
「多くの物物がそうであるようにな」距離がさらに縮まり、お腹の中の蝶たちが忘却の彼方から蘇ってくる。まったく、こいつらは絶好調だ。
「例えば?」
「例えば、何日も前からお前と一緒にいたいと思っているのに、あらゆる物事によって遠ざけられていたこととかな」
「他の女の人とか?」思わず口を突いて出てしまった。くそ Navigando。まあ、これで疑念が晴れるかもしれないけれど。
彼は私の肩を掴んだ。「ガイア」私の名前がこれほどセクシーに響いたことはない。「他に女はいない」
足の力が抜けていく。水の中にいるからこそ、倒れずに済んでいるのだ。
「俺には女好きという評判があるかもしれないが、かなり選ぶ方だ。心底興味を持った女としか関係は持たないし、気に入らないからと毎日とっかえひっかえ捨てるような真似は好まない」
「じゃあ……私って特別だって言いたいの?」
「危険であるのと同時にな」彼の片手の指が私の首筋をなぞる。
「危険なくらい特別ってこと?」私は思い切って言ってみる。
「さあな」マリクは近づき、キスで私たちのあいだの距離をゼロにした。彼は腕で私を包み込み、まるで私が本当に特別であるかのように私に身を委ねてくる。
私は目を閉じ、同じように彼の抱擁に身を委ね、手を自由にして彼をきつく抱きしめた。指先で彼の背中をなぞり、許しも得ずに彼の口の中へ舌を滑り込ませる。
私たちの唇は互いに触れ合いながら踊り、全身に快感の震えを走らせる。
マリクは片手で私のうなじを包み込み、もう片方の手で不意に私のお尻を掴んだ。
私は彼の髪に手を沈める。
どちらも離れようとはしない。最近の彼はいつも酷く疲れていて、ただのキス以上の段階に進むことはほとんどなかった。本当に私は彼にとって特別なのだろうか。本当に他の女などいなくて、ただ王子としての仕事で忙殺されていただけなのだろうか。
それなら辻褄が合うし、そうなると少し申し訳ない気持ちになる。
マリク、ここが私の安全な居場所なのだと決して忘れてはならない。この世界で、私には彼しかいないのだから。
「こうして何も考えずに、お前にキスをするのが恋しかった」彼は私の頬を撫でる。
「もう私に飽きちゃったのかと怖かった」彼は戦争のことで頭を悩ませているのだろうか、遠征の組織や指揮を執らなければならないのだろうか。
「違う。お前は好みだし、キスも上手い。それに、わがままに甘やかされて育っていない」
私は疑わしそうな目を彼に向ける。
「信じろ、どれもお前にとって最高の長所だ」
「じゃあ、もし私がわがままだったら欲しくなかった?」
「もしわがままな女が欲しいなら、その辺の王女でも探せばいい。普通は身分が高くて金持ちなほど、わがままにできているものだ」
「つまり、下品な庶民の娘でちょうどいいってこと……」
「お前ならな、そうだ」彼はもう一度私にキスをしようと顔を寄せた。
私は指先で彼の言葉を制した。「私に割く時間もないほど悩んでいたのなら、話してくれればよかったのに」
「どういう意味だ?」
「分かっていることを分かち合ったり、話し合ったりすることよ。こっちの世界では、恋人同士でそういうことはしないの?」
「俺たちは一夫多妻制だからな、少なくともそれが許される財力や地位のある者は。だから、なかなか複雑なんだ」
「この宮殿の中に、私のライバルがたくさんいるようには見えないけれど」
「ついさっきまでは、そこまで確信を持てていなかったようだがな」
「あなたのせいよ」と、私は彼に水を跳ねかける。
「俺のせい? だが、それはお前の頭の中の妄想だろ」
「関係ない、それでもあなたのせいなの」
マリクは大きく首を横に振る。まるで、女心を理解できる奴は大したものだとでも言いたげに。「確かに、ここ数日で状況が変わった。お前に話すべきことだ」
「この話題にならなければ、話すつもりはなかったんでしょうね」と、私は胸の前で腕を組む。
「いや。いずれ近いうちに話さねばならなかったが、すべての物事を片付けてからにしたかったんだ」
「私に関わっていること?」
「そうだ」と、彼は私の目をじっと見つめる。
「腹の中のものをすべて吐き出して」
「ガマ(蛙)がどうした?」
私は天井を仰いだ。「ただの決まり文句よ。話して」
「もうすぐミルワンとの戦争が始まることは知っているな?」
「ええ、まあね」
「その侵攻部隊の第一陣を率いるのは俺だ」
「あまり嬉しくないわ、というか全然。でも、おめでとうって言うべきなんでしょうね」
彼は微笑んだ。「その通り、名誉であり重責だ。もちろん、戦に赴かなくて済むならそのほうがいいのだがな」
「そんなの、全然『当然』じゃないわよ。まったく、ここに来てから戦いばかり見ている気がするもの」
「いつか、長く続く平和をもたらしたいと思っている」
私は彼の腕をそっと撫でる。「私もそう願ってる」
「だが、問題は別のところにある。いつものような小競り合いではなく、侵略戦争なんだ」
そういうのは、本当に少しも好きになれなかった。
「つまり、俺は何年も遠ざかることになる。三年、長くて四年だ」
水が突如として氷のように冷たく感じられた。「え? じゃあ、私は?」
「ああ。心配するな、お前を家に帰すための準備をすべて進めているところだ」
「あとどれくらいで出発するの?」
「二十日後だ」
「二十日経ったら、もう会えなくなるの? 私をこんな風に一人きりで置き去りにするっていうの?」
マリクは痛ましそうな表情で私を見つめた。「約束は必ず守る」と言って、彼は私を撫でようと手を伸ばす Lights。
私はその手を振りほどいて彼から離れた。私を呼ぶマリクの声に耳を貸さず、水から上がる。どうして私にこんなことができるの、私を一人ぼっちで置き去りにするなんて。




