異世界から来たガイア 41
第41章
マリク
ガイアがキクの指示を受けながら戦車を操っている。操縦を習い始めてからというもの、彼女は目に見えて上達していた。本人は剣のおかげだと言っているが、俺は単純に才能があるのだと思う。
車輪が石を踏み、戦車が大きく跳ねた。
一瞬、恐怖で心臓が止まるかと思った。
ガイアの身体が戦車の前面に押しつけられ、キクが手綱を引くのを手伝う。小さな跳ねだったが、二人はどうにか体勢を維持できた。
俺は安堵の息を吐く。
ジルバムが横目でこちらを見た。「実に素晴らしい」
「ガイアの上達は早いな。あいつ、馬に乗ったことすらなかったんだぞ?」
「それは想像がつきますが、私が言ったのは別のことです」
「違うのか?」
「殿下のことですよ。変わられましたね」
「どういう意味だ。もっと分かりやすく説明しろ」
「つまり、今の程度のことで本気で心配なさった、ということです。キクが隣にいる以上、あの方の安全は確保されていました」ジルバムは、再び急な曲がり角に挑むガイアとキクに視線を向ける。「それなのに殿下は、彼女が怪我をしないか、すべてが順調であるかを見届けるためにこうして居合わせている」
「それの何がおかしい?」
「これまで、誰に対してもそのようなことをなさったことがない、ということです」
「おい、俺だって多くの人間を心配しているぞ。お前も含めてな」
「それは光栄です、殿下。ですが、私に対して今のような気遣わしげな視線を向けられたことはないと思いますが」
「悪く思うなよ、だが俺とお前の間には、俺とガイアにあるような関係はないからな」
「当然ですとも! 殿下がどれほどご自分を美男子だと思っていようと、私は女性が好きですので」
俺たちは共に笑う。ジルバムは昔から、俺が過去の女たちと会う時にいつも手助けをしてくれていた。
ガイアとキクは訓練を続ける。この一週間でガイアの手綱捌きはかなり安定し、腕の力も抜けてきた。風に髪をなびかせる姿は、まるで獅子に引かれた戦車で戦場へと降り立つ女神イシュダーそのものだった。
「殿下、いずれにせよ、誰かがご自身にとって大切な存在になることは良いことだと思います。それは王としても、一人の男としても、あなたを成長させる助けとなるでしょう」
「だが、お前はガイアを認めていないな」こいつが懸念を抱いていることは決して隠していなかった。
書記官はため息を吐いた。「今も判断に迷っています。彼女には興味深い資質があり、何より殿下に対して大きな魅力を持っています。そのような女性がこれからどうなっていくのか、見届けるのは興味深いことですが」
「だが、彼女が相応しいとは思っていないのだろう」
「あなたが求めている相手は、彼女ではないと考えております」
それでも、俺が隣にいる姿を想像できるのは彼女だけだ。他の女たちでは、家柄や年齢に関わらず一度もこんな気持ちにはならなかった。ガイアは、あいつなりのやり方で唯一無二なのだ。「何はともあれ、ジルバム、ガイアの未来はここにはない」
「分かっております。あと約十一か月もすれば、あなたは彼女を故郷へ帰される」
「あいつには危険すぎるんだ」
「……そして、殿下にとっても」
俺は顎を掻いた。「エンラーは、ガイアを利用して俺を殺せなければ、別の方法でやるだろう。だが、念のためにあいつを消そうとするのは確実だ」
「私もそう考えておりました。もしガイア様を悲劇的な形で失えば、殿下の威信が傷つくことになります」
俺がしたのとまったく同じ推論だが、唯一の違いは、そうなれば俺自身が崩壊するという点だ。「分かっている。だからこそ、あいつを元の世界へ帰し、イシュダーから託された使命を果たしたために女神が連れ戻したのだ、と説明するしかない」
「それが、誰にとっても最善の策でしょう」ジルバムが締めくくった。
それは俺をひどく苦しめることになる。本当に心から大切だと思えた唯一の女、ただ身体だけでなく、一緒にいるだけで安らぎをくれる唯一の女との間に、未来はない。俺を王子としてではなく、一人の青年として見てくれる唯一の女。
ガイアが腕を上げて俺に手を振る。
俺も手を上げて応える。
「恋に落ちてしまわぬよう、お気をつけください、殿下」
本当にそれを避けたいのか、自分でも分からない。「自分が何をしているかは分かっている」
「決して疑ってはおりません」
「なら、俺を信じろ」
「常に殿下のお側に。ただ、お許しいただけるなら、あの方といる時の殿下ほど、言葉は悪いですが、締まりのない笑みを浮かべておられるのを私は見たことがありません」
俺は彼を鋭く睨みつける。
「お許しください、殿下」 Jilbamは両手を盾のように掲げた。
俺はこいつを殴ったことはないし、従者や部下の誰に対しても手を上げたことはない。ただ、視線で示すだけだ。「気づいたのがお前だけであることを祈るよ」
「カラアルは確実に気づいていますね」
「あいつは別だ。ガイアが旅立たなかったことを、むしろ喜びすぎていたくらいだからな」俺と彼女は、涙を流すガイアを二日間付きっきりで慰めて過ごしたのだ。幸い、今は落ち着きを取り戻したようだが。
ジルバムが笑う。「では、殿下ご自身は?」
当然、心の一角では彼女とまだ一緒にいられることに喜びを感じているが、ここではあいつにとって危険すぎるし、まもなく戦争が始まる。「答えはもう分かっているだろう?」
「推測はつきます。ですが、もしお話しになりたいのであれば、私をも頼れることをご承知おきください」
「分かっている。だが今日の役目は、書記官というより噂話好きの女のようだな」
ジルバムが眉を上げる。「殿下の御身の健康と計画について把握することは、私の職務の一部ですから」
「俺の将来の計画は変わらない」
「女性のことに関しても、ですか」
それに関してはどうすべきか見当もつかない。「変わらん」ガイアが俺の《戴冠の炎》になるか否か、だ。
「では、戦争についてはどのように動かれるおつもりですか?」
「行って、勝つ。当然だろう」
「そういう意味ではありませんよ、殿下」
「分かっている。ガイアのことなら、ここに残していくのが最善だ」
彼は頷いた。「ええ、殿下は数か月、あるいは数年不在にされるのですから、彼女の出発の機会を逃すリスクを冒すわけにはいきません」
「そうだな」
「それに、側室を戦場へ同行させるなど醜聞になります」
「だが、あいつを最大限に保護することを考慮しなければならん。エンラーは俺の不在を突いて、確実に殺しにかかるだろう」
「しかし、殿下を殺そうとまではしないと思いますがね」
「俺が戦争中だからといって、あいつが手を止めるとでも思うか?」
彼は頷く。「その通りです。それは帝国にとって悲劇であり、全軍を危機に晒すことになります。リスクが大きすぎます」
「エンラーの話をしているんだぞ。あいつがそんなことに躊躇するはずがない。権力、ただそれだけを欲しているのだからな」
ジルバムは腕を組み、頭を垂れた。エンラーがどう動く可能性があるか考えているのだろう。
あいつの次の一手が何になるのか俺には見当もつかない。チャネイ、 shadow そしておそらくアッスアナとの同盟を失った今、彼女の状況は厳しくなっているはずだ。だが、それしきのことで立ち止まる女ではない。影響力も味方の数も俺より多く、巫女としての立場を利用すれば、俺の権威を迂回してガイアに害をなすことなど容易い。確信がある、俺がいなければガイアに盾はなくなるのだ。
「殿下」ジルバムが顔を上げた。「ガイア様をここへ残すのは危険すぎます」
「護衛を厳選し、決して目を離さないよう徹底して守るべきだな」
「それで安心できますか?」
「いいや、くそっ」
「だからこそ、別の方法を考えねばなりません」
「連れて行ければ安心なんだがな」
「ですが、それは不可能です」
「あるいはな」
「さもなくば、隠すか」
「それもある。何かしらの解決策を練り上げねばならん」どこへ隠せばいいかも分からず、少しの安心も得られないだろうが。
ガイアは訓練を続けており、手綱を動かして戦車を横へと急旋回させている。
あいつが無事でいると分からなければ、俺の心が休まることはないのだろう。これまでに成し遂げたことはあっても、この世界においてあいつはあまりに脆すぎる。そして結局のところ、彼女がここに残ったことをどこか喜んでいる自分もいる。それを否定すれば偽善になるし、他の誰かに彼女を委ねるなど決して安心できない。だが、戦争に連れて行くわけにはいかない。そして準備が進むにつれ、あいつと過ごせる時間はさらに減っていくのだ。
エンラー
侍女たちが浴槽に塩と花を注ぎ、一礼して無言のまま退室する。
他人に触れられたり体を洗われたりするのは忌々しい。他の貴族の女たちが、まるで赤ん坊のように侍女に入浴させてもらっているのを見ると、理解に苦しむ。
水に手を浸す。冷たい。
呪文を唱えて温める。夏だろうと知ったことではない。私は常に熱い湯を望むし、神々はいつもそれを叶えてくれる。今回も例外ではない。
衣を滑らせて脱ぎ、湯面と壁際の鏡に映る自分の身体を見つめる。三十二歳になった今でも胸は張りを保ち、年月は他の部分をも損なってはいない。二十歳の女に対しても、たとえそれが女神イシュダー自身であったとしても、引け目を感じる部分など何一つない。
湯に入ると、その熱が私を包み込み、慰めてくれる。ここ何年もの間、私が受け取り、受け入れてきた唯一の慰めだ。
浴室で一人で過ごすことは、私にとって最大の快楽の一つだ。残念なことに、間もなくテンヌがやってくるはずだが。
私は軽石を取り、脚をこする。
タイルがずれる音。落とし戸だ。
テンヌが、いつもの神官の衣服ではなく、簡素な下僕のチュニック姿で姿を現す。長い黒髪はポニーテールに結ばれている。
彼は浴槽にいる私を見て、顔を赤らめて後ろを向く。「お、おはようございます、陛下」
「ようこそ。目を逸らす必要などないのに」まるで一度も私の裸を見たことがないかのように。
「一人の下僕がこのような親密な瞬間の陛下を拝見するのは無礼にございますし、お一人での入浴をどれほど好まれているかも存じております」
「では、なぜ私がこの時間にあなたをここへ呼んだのか、不思議に思わなかったの?」
「陛下の命令に異を唱えることは、私の役目ではありません」
私は吹き出す。「けれど、自分の意見を言うのはためらわないのね。本当は私をそんな風に見たいと願っていたのではないかしら」
「男なら誰しも陛下の裸を見ることを夢見るでしょう、陛下。そして私は陛下からこれほどの信頼を寄せていただき幸運です。ですが、だからといって私が振り向けば、それは陛下を侮辱することになります」
「あなたなら侮辱にはならないわ、分かっているでしょう」私にとって、彼は夫よりも重要な存在なのだ。
テンヌは振り向こうとせず、自らの役割と私への敬意を貫いている。「私をお呼びになったからには理由があるはずですし、私たちが一緒にいるところを見られたくないのだろうと察します」
「その通りよ。私の味方が誰であるかを悟られないよう、注意しなければならないの」
「同感です。もっとも、チャンネイはまだ陛下の味方ですが。彼女の逃亡を手助けした際、彼女は陛下が恩を返してくれることを期待していると言っていました」
「期待するのは勝手だけれど、そんなことは起きないわ。どのみち将来的には彼女も障害になっていたもの」
「タロムと玉座の間に立ちふさがる可能性のある者はすべて、我々の敵です、陛下」
「チャンネイも含めてね。けれど、まずはマリクを排除しなければならないわ。あいつは余りにも悪賢いことが分かったから」
「戦争が我々に味方してくれるかもしれませんが、陛下がそれほど運任せにされるとは思えません」
「計画は変わらないわ。あのガイアを生贄として利用するというね。考えてみたのだけれど、マリクは彼女をここに残し、次に元の世界へ送り返す機会が訪れるのを待つ可能性が極めて高いわ」
「外、そして奴の不在の隙に、陛下が手を下されるわけですね」
「その通りよ。けれどマリクは私たちが考えている以上に悪賢いわ。ここ数週間でそれを十分に証明してみせた」
「どこかへ隠すとお考えですか?」
「あり得るわね。ザナンザの義父に預けられでもしたら、私にとっても非常に動きづらくなるもの」
「確かに困難ではありますが、不可能ではありません。陛下自らお訪ねになることもできますし、誰もそれに反対はできないでしょう」
「そうね、あからさまに分かりやすい場所に隠してくれればの話だけど。そんなことはしないでしょうね」
テンヌはこめかみを掻く。「神殿に隠すという手もあります」
「それもあるわね。イシュダーの神殿なら、どこであれ彼女を預かることを光栄に思うでしょう」
「ですが、彼女を元の世界へ戻すためには、一年以内にここへ戻ってこなければなりません。今回のミルワンとの戦いが、それより短期間で終わるとは到底思えませんが」
「今回の戦いが決定的なものになるという噂は、あなたにも届いているようね」
「私は陛下の最も忠実な味方ですから。何が起きているかを常に把握しておくことも、私の務めでございます」
彼がいてくれて幸運だ。「あなたの働きにはいつも感謝しているわ」
「もったいないお言葉です、陛下」
「けれど、マリクは彼女を元の世界へ戻すために、誰を信頼するつもりかしら?」
「非常に強力な力を持つ神官であれば可能でしょう。私自身、適切な準備さえ整えば成功させられます」
「けれど、あなたは普通の人間ではないもの」
「分かっております。しかし、他にも成し遂げられる者は存在します。然るべき指示を与え、しかるべき報酬を払えばよいだけのことです」
「あるいは、彼女を連れて行ってどこかの都市を包囲し、もっともらしい口実を作って儀式のために戻ってくるか」それが最も可能性の高い選択肢のように思えた。
「しかし、彼女を連れて行くことはできないはずです。軍の規律に反します。皇帝陛下でさえそのようなことは一度もなさっていません」
「それでも可能性は排除できないわ、テンヌ。だからこそ、あなたには神官としてその遠征に同行し、マリクの軍に加わってもらうのよ」
「御意のままに、陛下」
「あらゆることを私に報告するのよ。さあ、もう行ってちょうだい。下男の誰かに見られたくはないわ」
「御意のままに」テンヌは私を見ないよう、目元に手をかざしてから背を向けた。「陛下、良い夜をお過ごしください」
「無事に戻るのよ」
テンヌは隠し扉の中に消え、タイルを動かしてそれを再び閉じた。
I 私は軽石を掴み、再び体を洗い始める。




