異世界から来たガイア 35
第35章
マリク
謁見の間を出ると、タロムは安堵の息をついた。「一瞬、母上に見捨てられるのではないかと肝を冷やしました」
「私も、彼女が姿を見せなかったことには驚いた」事実上、彼女は協定を反故にしたのだ。
ザナンザは地面に唾を吐いた。チャネイに吐きかけられなかった分を、今吐き出したのだろう。「もしあいつがそうしたなら、何か企みがあるはずだ」
「その通りだ。ジルバム、上着を見せてくれ」
ジルバムがガイアの上着を私に手渡す。
それは青く、私の知らない、ざらついてはいるが丈夫な生地でできていた。一体どんな植物から作られているのだろうか。中央には小さな歯のようなものが並び、金属のボタンも付いている。青銅ではなさそうだ。まさか、このようなものにまで鉄を使えるというのか。彼女の国は、相当な富に溢れているに違いない。「これだ。確かな記憶とは言えないが、この服の仕立てには全く見覚えがない」
「同感です。それと、お伝えせねばならぬ伝言がございます」
「言え。上着を渡したのはエンラア本人ではあるまい」
「その通りです、陛下。彼女は使者を寄こしました。使者は、約束通り上着を渡し、もう一つの要求とも交換したと伝えてきました」
私は足を止めた。……くそ、あいつに嵌められた。
「マリク、どうした?」タロムが私の隣で立ち止まる。
「いや、くそ。一杯食わされた」
「どういうことだ?」
「上着を渡し、チャネイを見捨てる代わりに、あいつは息子の自由を手に入れた。そういうことだ」私は説明した。
「もう一つの要求とは、ヴェルパの包囲を解くことでした」ジルバムが私の思考を補足した。
「ちくしょう」ザナンザも状況を理解した。「つまり、部隊を撤収させていないんだな」
「それで?」タロムはまだ事態を呑み込めていない。
「つまり、力ずくで解放するしかないということだ。エンラアは時間を稼ぎたかったのだ。これで最低でも二日半は遅れることになる。ガイアが元の世界に戻るまで、あと四日しかないというのに」私は再び歩き出した。
「俺は部隊の準備をしてくる」ザナンザが私の横を通り過ぎる。「市の守備隊の一部を動員する許可をくれ。あとは俺の私兵もいるし、道中の村々で何人か集められるだろう」
「よし。ジルバム、すぐに道中の村々へ出す命令書を用意しろ。少なくとも六、七百人は集める必要がある」
「はっ、陛下。しかし、本当にこれでよろしいのですか?」
「ああ。内戦の懸念なしに動ける今、これは私と皇后との対決だ」私はタロムに向き直った。「父上に状況を説明しろ。衝突を避けるための命令を下すよう手配するんだ」
タロムは走って戻っていった。
「陛下」書記が再び口を開く。「私が申し上げたのはそれだけではありません。ガイアを帰すという件についてです」
「約束したことだ」
「ええ。ですが、それが陛下の本当の望みなのですか?」
違う。まだ彼女と一緒にいたい。「言いたいことは分かる。だが、他の女にうつつを抜かしたり、間違った相手に縛られたりして時間を無駄にするわけにはいかないんだ」
「ジルバムは、ガイアこそが考慮に値する女性だと言いたいのです」
「ザナンザ、分かっている。だが彼女とは約束したのだし、皇后のせいですでに時間を無駄にした。これ以上無駄話をしている暇はない」
「好きにしろ。じゃあ、俺は行くぞ」
「衛兵のことは私がやる。二時間後に南門で会おう」
ザナンザは頷くと、全速力で駆けていった。
「陛下、私は命令書の準備に参ります」
「ああ、頼む。いや、私の執務室に来てくれ。あそこには記録用の粘土板もある」
ガイアがいなくなれば、苦しむことは分かっている。彼女を恋しく思い、その不在に胸を締めつけられるだろう。だが、ここは彼女の世界ではない。ここにいれば、彼女を失う危険しかないのだ。出会ってわずか数日だが、彼女は私の心の一部を奪っていった。たとえ神々に命じられたとしても、彼女を忘れることなど決してできないだろう。
ガイア
今日も敵は包囲を解かず、動く気配すら見せない。
私は手で日差しを遮ったが、兜の小さな庇だけでは足りない。目を細めて敵の動きを確認しながら、まさか自分が包囲された城壁の上に立つことになるとは思いもしなかった。
敵の小さな野営地には天幕が並んでいるだけで、こちらを警戒する一隊の哨兵がいる。攻城兵器の影もなければ、梯子すら見当たらない。
皇后は私を殺すことよりも、時間を稼ぐことを目論んでいるのだろう。だが、少なくとも今のところは一人も死なずに済んでいる。
「閣下」隣に立つ兵士、ギノブが声をかけてきた。
「何?」
「援軍が到着した時、連中はいったいどうするつもりなんでしょうか?」
見張り当番に加わりたいと申し出て以来、多くの者に同じ質問をされた。何の攻撃も仕掛けてこないという状況が、かえって強い不安を煽っているのだ。
「降伏してくれればいいのだけれど。その時は、二方向から挟み撃ちにするわ。私ならそうする」
彼は頷いた。
聖剣を腰に帯びていると、軍事的な判断がより鮮明に浮かんでくる。体調も良く、思考は冴え渡り、反応も鋭くなる。もし城に引きこもって無償で守られているだけだったなら、罪悪感と不安で気が狂ってしまっただろう。
「閣下」衛兵隊長が城壁へ続く階段から姿を現した。
「はい、隊長殿」昨日から見張りの当番に参加させてほしいと頼んでおいた。兵たちに、自分たちの犠牲の上にただ守られているだけの存在だとは思われたくない。
男は身を固くし、隣にいたギノブはその身分と敬称のちぐはぐな状況に、くすくすと笑い声を漏らした。
「市長が、城に戻るよう仰っています。その方が安全ですから」
「お気遣いはありがたいけれど、他の兵と同じように見張りの当番を務めたいの。市長にははっきりと伝えたはずよ。どうしてもというのなら、隊長、あなたが私に直接命じてちょうだい」
「ですが、王族の一員である閣下は、指揮権において私を上回るお立場です……」彼は力なくため息をついた。「昨日と同じですね」
「その通りよ。安心して、市長には私から説明しておくわ。自分自身の意志でここにいること、そして皆さんの歓迎と尽力に応えたいのだと」
「はっ、閣下」隊長は苦笑いを浮かべた。どうやら、少しは気に入られたらしい。「何か変わったことは?」
「報告すべき異常はありません、隊長殿」私は伝えた。
「よろしい。閣下、見張りが終わりましたら市長のところへ向かってください、お願いします」
「その前に、訓練にも参加するつもりよ」
「ですが、閣下……」
私は手を上げて彼を遮った。「さっきも言った通り、私は皆さんと苦労を分かち合いたいの。だから、志願兵の訓練にも加わらせてもらうわ」
隊長はため息をついた。まだ彼の名前を覚えていないので、私はいつも「隊長」とだけ呼んでいる。
「それに、側室より腕が悪いと罵られるのは、皆さんのいい気晴らしになっているでしょう?」
彼は吹き出した。「確かにそれは面白いですね。ですが、どうか私を上官に怒らせないようにだけしてくださいよ」
「心配しないで、隊長殿。責任はすべて私が取るわ」
安心させたとは思えないが、それでも彼は去っていった。
「閣下、あなたは本当に変わった方だ」見張り仲間のギノブがからかう。
「そうかもね」
「マリク殿下が少し気の毒になってきましたよ」彼はニヤニヤしている。
私は彼の肩を軽く小突いた。「ちょっと」
「見ている限り、あなたは扱いやすいタイプじゃありませんからね」
「もし、マリクがそういうところも気に入っていると言ったら?」――ああ、どれほど彼が恋しいことか。見張り当番や訓練に没頭していなければ、寂しさでどうにかなってしまいそうだ。
「だとしたら、殿下はあなたのような方を見つけられて幸運ですね、閣下。俺たち兵士も皆、あなたのことを尊敬していますから」
「ありがとう」
見張り当番は何事もなく進んでいく。
終わると、私は詰め物入りの革鎧を脱ぎ、籠に入れて持ち運べるようひとまとめにした。それから訓練広場へと向かう。
百人ほどの志願兵が、広場の外周に沿って二列縦隊で更新しているところだった。
私は鎧の包みを置き、走り込みの列の最後尾に加わった。皆、疲れが出始めている。私は彼らに続いて一緒に走った。自分が誰であるか分かるように、髪を風になびかせて。
教官が私に気づき、頭を下げて挨拶を送る。
走り込みが終われば、次は盾と剣の時間だ。私たちはすべて訓練用の武器を使うが、数が足りないため、中にはただの棒や、あり合わせの編み籠を盾代わりに使っている者もいる。
私は重さに慣れるために再び革鎧を身につけたが、鎧を装備している者は数少なかった。
仲間の上段からの斬り込みを受ける。衝撃が腕にびりびりと響く。彼に比べれば、私の体つきはあまりに華奢だ。
私は棒の先で突きを返し、彼の腹をかすめる。
突きを狙えと教えられている。その方が速いからだ。だが、直感的ではない分、習得は難しい。まったくだ、彼らの言う通りだ。
打ち合いが続く。私は常に盾でしっかり受け止め、突きを狙おうと試みる。見た目以上に難しいが、盾を相手の腕の方へ押し出せば斬撃の威力を削げること、一方で突きに対しては盾の後ろに隠れて身を守るべきだということが分かってきた。自分で気づいたこともあれば、教官たちが怒鳴って教えてくれることもある。
もう一撃を捌き、突きを繰り出す。今度は防がれた。
一人の兵士が広場を横切って走り、教官に駆け寄って言葉を交わした。
私はそちらに気を取られ、棒の先が私の腹を直撃した。
肺の中の空気が一気に押し出される。だが、私はこらえて膝をつかなかった。
「大丈夫ですか、閣下?」
「ええ、平気よ。私がよそ見をしていたせいだから。ありがとう」
相手の男は驚いたように目を見開いた。
まったくだ、私のような貴族がこのような真似をするとは、ここでは誰も思っていないのだ。
「全員やめ!」教官が呼びかける。
私たちは一斉に動きを止めた。多くの者が武器を下ろし、あちこちから安堵の溜息や声が漏れる。
「援軍が到着したぞ。約束通り、マリク殿下が包囲を解きに来てくださった!」
マリクが来た。私を助けに来てくれたのだ。
私は歓喜の声を上げた。
他の者たちも私に続く。
私はすべてを放り出し、城壁へと駆け出した。
たとえ罰を与えられようと構わない。遠くからであっても、彼を見たいのだ。
走りながらロバの引く荷車をかわし、階段へと飛び込む。段を二つ飛ばしで駆け上がった。
一人の衛兵が階段の壁に身を寄せて、道を開けてくれる。
「ありがとう!」自分が今、満面の笑みを浮かべていることに気づく。ああ、彼が来てくれて本当に嬉しい。
城壁に辿り着き、見張りの兵たちの隣に並んだ。
敵の陣営はまだそこにあるが、三百メートルほど離れた場所に歩兵の隊列と数台の馬車が見える。数はおおよそ敵と同じくらいだろう。
味方の布陣の中央には、後ろ脚で立ち上がる牡牛の紋章旗が掲げられていた。前は気づかなかったが、あれがマリクの象徴に違いない。
まだ、彼の姿は見えない。
向こうの陣営からラッパが鳴り響いた。私にはその合図の意味がわからない。
「どういう意味?」隣の兵士に尋ねる。
「戦闘の前に話し合いを求めている合図です」
マリクは流血を避け、一刻も早く終わらせたいのだろう。
市長も階段を上がってきた。「閣下、やはりここにおられましたか」彼は息を切らしている。彼も走ってきたに違いない。
「市長殿」笑顔を抑えきれない。彼の傍らには衛兵隊長も控えている。
マリクがここにいる。彼がいなくて、本当に寂しかった。
「陛下の到着を喜んでおられるようですね」
「想像もつかないほどに」片や懸念すべきこともあるのかもしれないが、今はどうでもいい。
「交渉がうまくいき、武器を取らずに済むことを願いましょう」
「ええ、願わくば。でも、そうでなければ戦うまでだわ」
「私は避けたいのですが」
「私もよ、そしてマリクも」私は市長の目をまっすぐ見つめた。「でも、もし衝突することになれば、準備をしておくに越したことはありません」
「陛下の御力を信じておられないのですか?」
「そういうことではありません。ただ、私たちが門から打って出れば、敵を二方向から挟み撃ちにでき、勝利の可能性を大きく高められると言いたいのです」
衛兵隊長が頷く。「閣下のおっしゃる通りです」
「ならば一部の男たちを集めさせろ。戦闘になった際に我々も役割を果たせるよう、準備をさせておくのだ」
「はっ」彼は階段を駆け下りていった。
「そして閣下、あなたはここに留まっていただきたい」
マリク
私は数名の兵を伴い、両軍の陣の中間地点で敵の指揮官に歩み寄った。奴の顔には見覚えがある。イフリート神殿の護衛長だ。つまり皇后の直属の部下だ。合点がいった。五百を超える兵は、彼女が予備兵や商隊の護衛をかき集めて雇ったものに違いない。幸いなことに、エンラアには正規軍を動かす権限はないが、私にはある。
くそ、最初から分かっていれば、直接ここへ来てとっくにガイアを連れ戻していただろう。
彼女が無事でいてくれることを願う。ひどく会いたかった。自分は彼女に恋をしているという周囲の言葉は、恐らく正しいのだろう。
「陛下、ご機嫌麗しゅう」男は恭しく私に挨拶をした。
「ああ」……何ということだ。男の目は、取り憑かれていた頃のザナンザと同じ目をしている。エンラアは、確実に武力衝突が避けられないよう手を打ったのだ。
私は父の命令書を差し出した。「これは皇帝陛下からの伝言だ。ガイア・イシュダア閣下への告発は取り下げられた。よって、直ちに包囲を解くよう命じられている」
「それはできかねますな」男は薄ら笑いを浮かべて言った。「私は皇后陛下から直接命を受けております。包囲を解けというのであれば、皇后陛下ご本人にお越しいただかねばなりません」
「それが道理に反することは承知しているはずだ」
「これが私の返答です。従うか、さもなくば戦争か」
もし神々と法に対する罪でなければ、この問題を解決するために今すぐこいつを斬り捨ててやるところだ。
「ならば戦争だ」私は背を向け、その場を立ち去った。
すべてがうまくいき、ガイアが無事でいてくれることを願うばかりだ。




