異世界から来たガイア 32
第32章
ガイア
私はヴェルパの市長邸の庭を歩いている。
マリクが私をここへ送ったのは正しかった。事前の連絡もなかったのに、彼はすぐに部屋を用意させ、私が必要とするものすべてを整えてくれた。残念なのは、ここに来てからほぼ一日が経つのに、不安と心配で何も食べられないことだ。
マリクに会いたい。彼は状況を解決できただろうか。ちゃんと眠れただろうか、無事でいるだろうか。なんてこと、どうして携帯電話のある世界に飛ばされなかったのかしら。
ため息をつく。
すべてが順調にいけば、元の世界に帰れるまでまだ五日の猶予がある。出発に半日かかると考えると、マリクがすべてを解決するのに残された時間は最大で三日。いや、三日と少し、四日近くはあるか。マリクはそれで十分だと言っていたし、私のジャケットも取り戻さなきゃいけない。
他の服や数着のチュニック、それに剣は、彼が私の荷物の中に直接入れてくれていた。
一方でカラアルとイヌアは、文字通り着の身着のままで来た。私が市長に侍女たちの着替えまで用意してほしいと頼むなんて、さすがのマリクも想像していなかったと思う。
「閣下」 市長の妻がこちらへ歩いてくる。中年の女性だが、私の世界なら六十代に見えるだろう。
「奥様」 私は挨拶する。彼女やその夫をどの程度の敬称で呼ぶべきか、まだ掴めていない。
「ご気分はいかがですか? お部屋はお気に召していただけましたでしょうか」
「とても快適です」 もちろんマリクの宮殿ほどではないけれど、現代人の私の基準からしても、十分に豪華で居心地がいい。
「それは何よりです。あまり召し上がっていないと聞きました。何かお力になれることはございますか?」
まさか食べさせてくれるつもりじゃないでしょうね。「お気遣いなく。あなたのせいではなく、私の問題ですから」
彼女は私の腕をそっと撫でる。「ええ、分かっておりますわ。きっとお心が落ち着かないのでしょう。あのような恐ろしい疑いをかけられ、逃げなければならなかったのですもの」
「そうですね」 マリクは状況を伝え、私を保護するよう命じる書簡を届けている。彼らが私の無実を信じているかは分からないけれど、命令に従うほかない。
「ご安心ください。ここでは安全です。夫も私も、マリク様には大きな恩がございますから」
「少し伺いましたが、詳しい理由は聞いていません」
市長の妻はため息をつく。「お話ししましょう。そうすれば、私たちの忠誠を信じていただけるでしょうから」 彼女は私の腕を取る。「少し歩きながらお話ししてもよろしいですか?」
「もちろんです、喜んで」
「ありがとうございます。実は、私と夫は子供に恵まれませんでした。七度妊娠しましたが、五度は流産だったのです。長男は今、西方で軍に入り、父の後を継ぐための経験を積んでおります」
なるほど、ここでは市長職も世襲制のようなものなのね。選挙とかあるのかしら。
「もう一人息子がおりました。幼い頃、私はその子を守りすぎてしまったのです。失うのがあまりに怖くて。お分かりいただけますか?」
私は頷く。実質的に彼女の半生を聞かされているわけだけれど、今は付き合うしかない。
「結局、その子は軍に入ることができませんでした。あまりに臆病で、努力や砂埃、危険に耐えられなかったのです」
「そうですか」
彼女は微笑む。「ですが、伺ったところによると、あなたは例外のようですね」
「……噂はここまで届いているのですか?」
「間もなく帝国中が知ることになるでしょう。イシュダーから直接遣わされた、マリク王子の寵姫として」
頬が熱くなる。この事態は制御不能になりつつあるわ。「それは誇張された噂です」
「それとも、ご謙遜かしら」
「本当にそうではないんです」 そのうちナポリのマラドーナみたいに神格化されちゃうんじゃないかしら。なんてこと、わけがわからないわ。「それで、息子さんの話ですが」
「ええ、息子のラッデは、自分が父の跡を継ぐことは決してないと悟りました。せいぜい一介の役人止まりだろうと。ですが、彼は権力を望んだのです」
嫌な予感がする。
「それで彼は街の有力者数人と共謀し、父と私、そして兄を暗殺しようとしました。私たちを排除したあと、その有力者たちが彼を市長に選出するという計画でした」
「でも、失礼ですが、それは合法なんですか?」 私はぞっとした。
「決して、あり得ません! ですが彼らの計画では、私たちが皇帝を裏切ろうとしていたと告発し、ラッデだけは無実として振る舞うつもりだったようです」
「……そんな、あまりに恐ろしい話です」
「ええ」 彼女の目は潤んでいた。母親として、どれほどの苦しみだっただろうか。
彼女の肩に手を置く。この数時間、私は自分の悲しみに沈んでいたけれど、苦しんでいるのは私だけじゃない。多くの人々が今も苦しんでいるし、これまでも苦しんできたのだ。私はもっと強くならなきゃいけない。
「ともかく」
彼女は顔を上げた。「反乱が起きたとき、マリク様はこの近くにいらしたのです。彼は護衛とともに乗り込み、暴動を鎮め、反乱者の一部を捕らえることができました」
「……それで、息子さんは?」
「あの子もです。あの子を自分で殺すか、それとも裁きにかけるか、マリク様は私たちに選ばせてくださいました。結局……あの子の喉を切ったのはマリク様でした」
私は口を手で覆い、悲鳴を押し殺す。
「いいですか、あの方はお優しいのです。あなたが思っているようなことではありません。私たちが自分の息子の殺害者になることを防いでくださいましたし、何より、あの子を八つ裂きの刑という末路から救ってくださったのです」
「えっ……?」私は恐怖に目を見開く。
「法が時に残酷である以上、より軽い悪を選ぶことが最善の選択となることもあるのです」
「ええ、でも……。とにかく、私には理解できません」
「あなたがそのようなことを理解せずに済み、同じような二つの悪の間で選択を迫られずに済むことを願っています」
この世界は、私には合わない。
こんな正義、私には一生耐えられない。「あなたの苦しみなんて、想像もつきません」
「想像してほしいわけではありません。同情を誘うためや、あなたの気持ちを軽んじるために話したのではないのですから」彼女は私の目を真っ直ぐに見つめた。「私は十分に長く生きてきて、誰もがそれぞれの痛みや感情を持っており、それを抱く権利があるのだと理解しています。それは、イシュダーであっても同じことです」
「……ありがとうございます。でも、私のことはイシュダーと呼ばないでください。ガイアといいます」
「なら、あなたは私のことをエルダグと呼んで」
「打ち解けてくださってありがとうございます、エルダグ」
彼女は微笑んだ。
一人の男が市長の執務室に向かって走っていくのが見えた。鎧は着ているが、槍は持っていない。兵士だろうが、より速く走るために槍を捨ててきたのかもしれない。
「兵士が走るなんて、普通のことですか?」
エルダグもその姿を目にしていた。「いいえ」
「様子を見に行ってもいいですか? なんだか、私が何らかの形で関わっているような気がして」
「何でもありませんよ、落ち着いて」
「私の居場所が誰かに突き止められていたとしたら、放ってはおけません」
「もしそうだとしても、約束通り私たちがあなたを守ります」
まったく、そう言われるとかえって不安が募るわ。「はっきりさせたいんです。何でもなければ、それでいいんですから」
エルダグは引きつった笑みを浮かべた。「何でもありませんよ」
私は彼女を追い越し、衛兵が消えた方へと足早に向かった。
「待ちわびて、ガイア!」
私は歩幅を広げた。知らなきゃいけない。
角を曲がると、衛兵はすでに執務室へと続く階段を上がって姿を消していた。かなりの急ぎようだ。もし重要なことなら、私の不運からして私に関係があるはずだ。
私はチュニックの裾を少し持ち上げ、階段を小走りで駆け上がる。
「せめて速度を落として!」エルダグが息を切らして呼ぶ。
私は彼女の言葉に従い、足を止めて待つことにした。ここで彼女を置き去りにするのは、さすがに性格が悪すぎる。
エルダグは足を止めることなく、階段で喘いでいた。「若さって素晴らしいわね……もうあなたについていける年じゃないわ」
「ごめんなさい」
「王子も、あなたを大人しくさせておくのは大変でしょうね」彼女は笑いながら私の隣に並んだ。
「今のところ、彼は一度も不平を言ったことはありませんよ」
「そのうち気づくことになるでしょう。あの方は、自分に従順な王女や女性たちに囲まれることに慣れすぎていますから。あなたの方はもっと……そうね、挑みがいのある挑戦のように見えるわ」
私たちは再び階段を上り始めた。「そうですか?」
彼女は頷く。「ええ。あなたはただ救われるのを待つだけじゃない。あなたの内側には、高位の貴族の女性には欠けていることが多い『自ら行動しようとする意志』があるわ」
「自分ではよく分かりません」まったく、私はただの小娘なのに。
「まあ、私の勘よ」
踊り場に着き、開け放たれた扉の方へ向かう。
「私が先に行くわ。あなたは後ろにいて」彼女は囁いた。
私たちは取次もなしに中へ入った。
衛兵は市長の机の前で片膝をついている。
市長は立ち尽くし、口と鼻を両手で覆うようにして苦悩の表情を浮かべていた。日光が彼の艶やかな禿げ頭に反射している。
背後の書記は目を見開き、その傍らでは大きな扇を持った奴隷が、何事もないかのように二人を仰ぎ続けていた。
私はエルダグを追い越して前に出た。「何があったんですか?」
市長は溜息をついた。彼は首を横に振り、妻を見て、それから私に視線を向けた。「包囲された」
嘘でしょう。
「どういうことなの?」エルダグの声には苦悶が混じっている。
「皇后が軍を動かしたのだ。包囲を解く条件として、閣下を引き渡すよう要求している」
「そんな……」私は掠れた声で呟く。
「おそらく、後をつけられていたのでしょう」
「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
「二つの門はすべて閉じました。敵はおよそ六百人。数日なら、我々で対処できるでしょう」
私はチュニックの裾をぎゅっと握りしめる。「もう戦闘は始まっているんですか?」
「今のところ、それはないと報告を受けています。奴らは要求を突きつけて我々をここに閉じ込めました。私は以前から、武装した者は一切入れぬこと、軍勢が到着した場合は門を閉ざすよう命じておきましたので」
「よかった」私のせいで誰かが傷つくのは嫌だ。
「ご安心ください、閣下。我々なら三週間は問題なく持ちこたえられます。敵は攻城兵器すら携えてきておりませんから」彼は私を安心させようと、大きく笑ってみせた。
しかし、私はここに留まるわけにはいかない。なんてこと、あと五日もすれば家に帰れなくなり、さらに一年ここで過ごす羽目になる。それにマリクは戦場へ赴かねばならない。そうなれば、私は皇后のなすがまま、たった一人で残されることになるのだ。
「敵の監視を続けろ。勝手な真似はするな。攻撃を受けた場合のみ応戦しろ」市長が兵士に命令を下し始める。「それから、すべての衛兵をすぐに出動できる状態にし、備蓄倉庫を整えよ」彼は、このまま話すべきか迷うように私を見た。「万一、窮地に陥った場合は、民衆を武装させる必要がある」
「はっ、承知いたしました」
「行け、指揮官に伝えろ。何かが起きればすぐに知らせるのだ」
兵士は立ち上がり、胸に拳を当ててから出口へと向かった。私の横を通り過ぎる際、彼は憎しみのこもった視線を投げかけてきた。
私がここにいるせいで、この人たちの命を危険にさらしている。「何と言えばいいか……本当に、ごめんなさい」
エルダグが私を抱きしめる。「大丈夫よ、きっと王子様がすべてを解決してくださるわ」
でも、私には数日しか残されていない。
「ご安心ください、閣下。あなたをお迎えした瞬間から、報復を受けることは覚悟しておりましたし、それを受け入れるつもりです。これは職務の一部であり、あなたに対して恨みなど微塵もございません」
「ありがとうございます。でも、私はあなた方を危険にさらしているわ」
「馬鹿なことを。それをしているのは皇后であって、あなたではありません。もし彼女がバビノニアの王女でなければ、あのような地位にいることなどなかったでしょうに」
私たちは抱擁を解く。「彼女を良く言う人に、まだ会ったことがないわ」
「まあ、確かに聡明ではありますし、醜聞を起こしたこともありません。もっとも、私は遠くから二度ほどお見かけしただけですが」
「あの方はね、私の夫にとっては、あんなに遠い国から来た『戴冠せし炎』が国を統べるという考えが、どうしても我慢ならないのですよ」
「いや、外国人がいけないというわけではないのです」市長は弁明するように両手を前に出した。「例えば、それがあなたのような方であれば、私は何の異存もありません。ただ、バビノニア人というのは妙な連中で、魔術に耽溺し、毒を弄する。正直な人々ではないのです」
いつだって、人はステレオタイプで判断するものだ。「大丈夫です、おっしゃりたいことは分かりますから」
彼はきまずそうに微笑んだ。
「でも、私がここにいなければ、事態は解決するはずでしょう?」
「どうやら、奴らは確信を持って動いているようです。閣下、あなたの後を尾行していたのでしょう」
なんてこと、まるでエンラアがすべて予見していたみたいだ。「秘密の通路や、脱出できる水路のようなものはないんですか?」
「いいえ、そのようなものはありません。それに、仮に脱出できたとしても、外に陣を張っている軍勢から逃げ切らねばならないのですよ」
「でも、もし逃げることができれば」
「閣下、失礼ながら、行かせるわけにはまいりません。私の名誉がかかっているのです。そしてマリク王子殿下が私に寄せてくださった信頼も」
「でも」
彼は手を上げ、私を黙らせた。「我々があなたをお守りします。どうか我々を信じてください。マリク様がそうしてくださったように」
しかし、私に許された時間は限られている。




