異世界から来たガイア 30
第30章
ガイア
私は急に動きを止め、杯を置く。
ゲッスアが咳き込む。まるで窒息しているかのようだ。
――まずい、彼女の様子がおかしい。
立ち上がって彼女の方へ向かう。足元がふらつく。
世界が傾き、椅子がこちらに迫ってくる。私は床に崩れ落ちた。
「チャネイ……」声が酔っ払いのように不明瞭だ。「彼女を助けて」叫ぼうとするが、声が出ない。
あの女は腕を組んだまま、じっと動かずに立っている。杯に指を二本浸すと、泣いた跡に見せかけるように目の下に二本の筋を描いた。
「全部あんたのせいよ」彼女は低く囁く。そして立ち上がり、去っていった。
ゲッスアを助けなければ。
私は必死に立ち上がる。バランスを取るために両腕を広げ、小刻みな歩みでゲッスアの方へ向かう。
彼女はまだ咳き込んでいるが、咳の間隔が長くなり、どんどん苦しそうになっていく。
「助けて」喉に何かが詰まっているようで、叫ぶことができない。
ゲッスアのもとにたどり着く。彼女はソファの上で、肘掛けから顔をはみ出させてうつ伏せになっている。
私は彼女の肩甲骨の間を二度叩く。
事態は改善しない。
ちくしょう。
私は咳き込み、唾を吐く。
口から赤黒い塊が飛び出した。最悪だ。
でも、たぶん彼女を吐かせることができる。
片手で彼女の口をこじ開け、そのまま保持する。
喉に突っ込める何かがあればいいのに。私は指を二本、彼女の口に突っ込む。――噛まれないことを祈るしかない。
口の中はあまりに乾ききっており、舌は厚ぼったくなっている。急がなければ。
嘔吐を促すために指を喉の奥へ強く押し込み、喉ちんこ――と思われる場所――に触れる。
ゲッスアが喘ぎ、吐き気を催したような動きを見せる。
手を引き抜くと、赤と緑の混じった吐瀉物が勢いよく溢れ出た。
「どけ」
太い両腕が、私を力任せに引き離す。
床に尻餅をつくと、喉元に槍を突きつけられていた。
何なの?
一人の老人がゲッスアを調べている。手のひらで彼女の呼吸を確認している。
「この女か?」槍を持った男が尋ねる。
「ええ、そうよ。この女がやったの!」チャネイの声は今にも泣き出しそうなほどヒステリックで、私を指さす。
「私は何もしていない」
別の手に掴まれ、引き起こされる。世界が光の渦となって明滅し、すべてが私の周りで回りだす。「エクセレンツァ、申し訳ありませんが、あなたを拘束いたします」
「して……何もしていないわ」
「嘘つき!」チャネイが叫ぶ。「あなたがあの子を嫌って、毒を盛ったのよ!」
「そんなこと、絶対に……」私は向き直り、衛兵の上に吐いてしまう。制服が吐瀉物の赤と緑に染まる。
「このクソ女が」
もう何も見えない。世界は色のついたシミの塊になった。
「連れて行け。しっかり見張っておけ、後で尋問する」
私は引きずられていく。槍の先が背中に触れる。
「気をつけろ。丁重に扱え」隊長らしき男が命じる。
視界が真っ白になる。
叫ぶ。
闇。
***
「ゲッスア!」
私ははっと目を見開いた。
低い板張りの天井が、すぐ上に迫っている。
壁の一角にある木の格子から、光が差し込んでいた。
手を伸ばすと、藁の感触があった。
牢の中にいる。
でも、どうしてこんなことに?
体を起こす。
めまいがして倒れそうになるが、深く息を吸い込んで耐えた。
口の中には吐瀉物の酸っぱい味が残っている。
喉がひりつき、乾ききっている。猛烈な喉の渇きだ。
最後に覚えているのは、ゲッスアの具合が悪くなり、私が連れて行かれるところまで。
誰に連れて行かれたのかは思い出せない。
けれど、チャネイが私を責め立てていたことは覚えている。
さっきまでのドレスをまだ着ている。何も奪われていないし、宝石さえそのままだった。
ゲッスアはどうなったのだろう。もしかしたら、医者が助けてくれたのかもしれない。
「陛下、しかしながら……それは不適切かと存じます」衛兵の恭しい声が聞こえる。
「裁判もなしに王族を牢に閉じ込めることもな」マリクだ。ひどく憤慨している。
私はふらつきながら格子へ向かい、それを掴んだ。
「それが最善だったのです。チャネイ陛下のご命令でしたので」
「彼女といえど、法の上には立たない」
「ですが、彼女は殺人事件の容疑者でございます」
殺人? ということは、彼女は死んでしまったのか。そして私が犯人だと思われているのか。そんなの、ありえない。
マリクが私の牢の前にやってきた。その顔には怒りと悲しみが入り混じっている。
手が触れ合った瞬間、私は馬鹿みたいに泣き出してしまった。
「今ここから出してやる」彼の声に安堵する。「この牢を開けろ」
「ただちに、陛下」看守が鍵をがちゃがちゃと鳴らし、木の扉を開けた。
「彼女に指一本触れていないだろうな。さもなくば全員に償わせるぞ」
「とんでもございません。逮捕の際に気を失われましたので、そのままの状態でこちらへお連れしました」
私はマリクに抱きつき、彼の胸で泣いた。
マリクは私の頭を撫でてくれる。
「彼女が犯人だという証拠はあるのか?」
「貴方様の妹君の証言がございます」
「妹は無事だったのだろう。だが、私に報告があった通り、ガイア閣下も体調を崩していたはずだ」
「その通りでございます」
「毒を盛る者の振る舞いとは思えぬな」
「はい、陛下。ですが……」
「ですが何だ?」マリクが低く唸る。
「自らの疑いを晴らすために、あえて毒を少し摂取する例も過去にございました」
「いいか、お前の経験を疑うわけではない。だが、私の側室の潔白を疑うな。彼女は常に監視されていたし、毒の知識など何もない」
ありがとう、マリク。
「それに、義姉を診た医師にも会ってきた。ガイアは毒を吐かせるために彼女に嘔吐を促したと報告を受けている」マリクは看守に向き直った。「これは殺人者のすることではない!」
看守は一歩後ずさりした。「承知いたしました、陛下。捜査の際には念頭に置いておきます」
「捜査の進捗は、逐一私に報告しろ」
「はっ、陛下。仰せのままに」
「行こう、家に連れて帰る」
マリクは私を支え、静かに牢獄を通り抜けていく。「気分はどうだとは聞かない。ひどい状態なのは明白だからな」階段では私を抱き上げてくれた。「お前も毒を盛られた。それでもゲッスアを救おうとしてくれた……心から感謝している」
「本当に……死んでしまったの?」
「ああ……すでにザナンザを呼びにやった」
「きっと、彼は私を憎むわね」
「いや、彼もすぐに気づくはずだ、お前が犯人であるはずがないと。チャネイにお前が利用されたんだ。理由はまだわからないが」
「どうやって私を見つけたの?」
「すぐに報告が入ったんだ。それに、タロムが私の宮殿にいて、事情を話してくれた」
「どうして彼は止めなかったの?」
「気絶していたんだ。チャネイの侍女が布を口元に押し当てて、二時間以上も眠らされていたらしい」
「……それじゃ、証拠は彼女に繋がるわね」
「そうだ。幸い、誰もタロムの正体に気づいていない。彼が重要な証人になる。チャネイが彼をお前の召使いだと認めさえすれば、たとえ彼に罪をなすりつけようとしても、今度は皇后が彼を無実にするだろう」
私たちは馬車に乗り込み、すぐに走り出した。
「すべては皇后の計画ではないかと疑っている」マリクが締めくくった。
「どうして?」
「彼女は毒の専門家だ。チャネイは違う。二人が手を組んだ可能性がある」
「でも、もし皇后が私を排除したら、あなたの妹も死ぬことになるんじゃないの?」
「理論上はそうだが、おそらく彼女はそのことを知らないのだろう」
「……これから、どうするの?」
「お前には、長くても三日か四日ほどここを離れてもらう」
世界が崩れ落ちるような気がした。「どういうこと……? あなたから離れるの?」
「ああ。もう手配は済んでいる。カラールとイヌアがお前をヴェルパまで連れていく。馬で半日ほどの距離だし、そこの町長は俺の友人だ。奴にはいくつか借りもある。丁重に扱われるし、誰もお前に危害は加えさせない」
「嫌よ」また涙があふれてくる。
「俺だって嫌だ。だが、これが最善なんだ。もし俺の権限を超える命令でお前が逮捕されたら、そのときはもう手出しができない」
「でも、でも……あと七日しかないのに……」家に帰れるまで、あと七日。
「わかっている。だが場所は近い」マリクが私の手を握る。「俺を信じてくれ。お前を守るためだ。調査を終わらせるか、少なくともお前の無実を証明するまでの間だ」
「そんなに長くかかるの?」
「父上に適切な証拠を示せば、それほどは。それに、誰がやったかはもう分かっている」
「いつ出発するの?」
「到着次第、馬車に荷を積み込み、着替えを済ませたらすぐだ。夜には向こうに着く」
「ごめんなさい、マリク」
「実によくできた罠だった」彼もまた、涙をこらえているようだった。結局のところ、彼女は善良な人間であり、彼も彼女を愛していたのだ。
宮殿に入ると、積み込み作業は手際よく進められた。マリクがすべてを手配してくれていた。イヌアが、より動きやすい衣に着替えるのを手伝ってくれる。私の目にはまだ涙が溜まっているが、この忠実な侍女は何も言わない。ただ黙々と役目を果たす。彼女とその叔母が、これから数日間私を支えてくれることを自覚しているのだ。
私は朦朧としたまま、打ちのめされて馬車へと戻る。周りで何が起きているのかもわからず、ゾンビのように歩く。
やっと友達になれそうな人ができたのに、その人は目の前で死んでしまった。そのうえ、私が殺したと思われていて、マリクは私を逃がすために権威を使わなければならない。事態が収束するのを待つ間、何日も彼から離れて過ごさなければならず、家に帰れる可能性はどんどん遠のいていく。
なんてこと。私は本当にとんでもない状況に陥っている。
マリクが私の方へ歩み寄り、そっと腕に触れた。「タロムは君に会わせる顔がないと言っている。今回起きたことに対して、あまりに強い罪悪感を感じているんだ」
「いいのよ」私は首を横に振る。「彼だってこの件に巻き込まれた一人なんだから」
「ああ。そして彼は君を救うために協力したいと言ってくれている」
「あの女の息子だなんて、信じられないわ」
「父上に似たんだろう」マリクは私に微笑みかけた。「いいか、ガイア。これからの数日は君が思っているよりもずっと単純なものになるはずだ。結局のところ、君は静養に行くようなものなんだから」
私はあまり確信が持てなかったけれど、彼にこれ以上の重荷を背負わせたくはなかった。
「約束する、君を家に帰す時間までにすべてを解決すると」
「わかったわ」
彼は指で私の顎を持ち上げた。「寂しくなるな」
涙が頬を伝い落ちた。「ああ、もう……私だってそうよ」
マリクはその涙を人差し指でぬぐった。「すべて上手くいく。持ちこたえてくれ」
私は彼をきつく抱きしめた。「あなたもね」私は声を詰まらせた。
「イシュダが君を遣わしてくれたんだ。君ならきっとやり遂げられると信じている」
「私はただの女の子よ」
マリクは私の額にキスをした。「いいえ、君は格別だ。今日それを証明したし、これからの数日間でも証明することになるだろう」
私は顔を上げ、彼に口づけをした。
マリクは私を抱き寄せ、激しくそのキスに応えた。
それは、言葉では言い表せない多くのことを互いに伝えようとしているかのようだった。
たった一度のキスの中に、「会えなくて寂しくなる」という想いも、慈しみの言葉も、「守りたい」という願いも、「すべて上手くいく」という励ましも、すべてが込められていた。
たった一つのキスでこれほど多くのことが語れるなんて、信じられないほどだ。
マリクに出会う前、私にとってキスとは特定の誰かと楽しむためのもの、通常より少し親密な接触という程度のものだった。けれど今は、まるで別の言語を話しているかのように感じられる。
私は唇を離した。
たぶん、私は本気で恋に落ち始めている。「……もう行かなければならないかしら?」
「残念ながら、そのようだ」マリクの目は潤んでいた。
「失礼します」タロムが視線を落とし、戸惑った様子で近づいてきた。私たちを直視できずにいるが、それはキスのせいではないだろう。
「タロム……」私は低く呟いた。
「今日起きたことに対して謝罪もせずにいるのは、卑怯だと思ったんだ」彼は私の目を見ることができない。
「何があったかは、マリクから聞いたわ」
「タロム、起きてしまったことはもう変えられない」マリクが私の髪を撫でる。「あとは状況を解決するだけだ。お前は俺たちの味方だな?」
「もちろんです。私を当てにしてください」
「よし、お前も身を隠しておく必要がある。ここに留まれ」
「はい。それに、さっきも言った通り母が関与している恐れがあります」
「でも、もし彼女が関わっているなら、どうして私が毒を盛られなかったの?」
「いい質問だな」マリクも同意する。
「私が見た限りでは、侍女はあなたの杯にも毒を入れていました。ただ量が少なかったのです。人違いだとは思いませんが」
「でも、どうして?」私には理由がわからなかった。
「おそらく、ゲッスアを救う時間を稼がせず、お前を死刑に追い込むためではないか?」マリクは弟の前で呪いのことに触れないよう、言葉の先を濁した。
「私が力になります。何かおかしいと気づいた時、チャネイの侍女に濡れた布で気絶させられました。私は重要な証人になれるはずです」
「お前を頼りにしている。さて、ガイア、もう行ったほうがいい」
私は頷いた。伝えるべきことはすべて伝えた。
私はカラールと共に馬車に乗り込み、イヌアは一人の兵士と共に御者台に座った。
私とマリクは最後にもう一度見つめ合った。
何も言わなかった。
馬車が動き出し、私はカーテンを引いて外の世界を閉ざした。




