異世界から来たガイア 2
第2章
ガイア
ボトルの中に、あの女の顔がある。
邪悪な笑みを浮かべている。
夢じゃない。
手を放すと、ボトルは床に落ちた。開いたまま。
横倒しになり、水がこぼれ出す。
小さな水の手が形づくられ、ボトルの口に向かって這い上がっていく。
思い切り蹴ると、ボトルは廊下を転がっていった。
手は消えてなくなる。
よく確認したが、あの顔の形跡はどこにもなかった。
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十五日後
春が好き。夏のように肌を焼かない太陽も、冬ほど冷たくない空気も。そして、家の手伝いや学校の課題から解放される日曜の午後が好き。弓道の練習さえなければ、自分の好きなように過ごせるから。
マッティアの手をほどき、両腕を広げて胸いっぱいに息を吸い込む。この公園の空気は、木の葉と樹皮の匂いがする。澄んだ空気。練習の再開は予想以上に疲れたし、数学の点数もひどかったから、今週を終えた私にはこれが必要だった。
マッティアが後ろから私を抱きしめ、肩に顎をのせる。まるでタイタニックのローズとジャックみたいに。
「きれいだよ」頬に軽くキスを落とす。
「飛んでるわ、ジャック!」
マッティアは笑う。「タイタニックは最後が良くないだろ。水に沈むのはごめんだよ」
「タイタニック観たの? 私は観てない」
「えっ? 女の子はみんな観てるもんだと思ってた」
「私の好みじゃないっていうか。悲劇で終わる恋愛ものは嫌いなの」私は振り向いて彼を見る。「あなたは観たの?」
「観たふりをしただけ」彼は笑う。「元カノが十五回目くらいに観たいって言い出してさ、三十分もしないうちに寝ちゃったよ」
「そこまでなの」
「そう。一応言っておくけど、泣かせるような映画は好きじゃないんだ」
「普通はそれを悲劇って言うのよ」
「犬が死ぬ映画も大嫌いだ」
「意外と優しい心を持ってるのね」
彼は私にキスをする。「その心を、君に盗まれたんだ」
私は首を振る。「今のセリフ、ちょっと……」
「何? ロマンチックじゃない?」
「場所の選び方が良かったから、許してあげるわ」
「君が散歩好きだって言ってたからね。それにここなら家から十分離れてるし、知り合いに見られる心配もないだろう?」
私はうなずく。
30代くらいのカップルが私たちの横を通り過ぎる。腕を組んで笑い合い、こちらをチラリとも見ない。なんて幸せそうなんでしょう。
それにしても、無事にここまで来られてよかった。免許を取ってまだ一か月で、三十分も続けて運転したことなんてなかったんだから。まあ、私も意地悪ね。結局のところ彼は初心者なんだから、まだ少しおぼつかなくても当然なのに。自分が運転するときはどうなることやら。
彼の背後から、ベビーカーを押したカップルがやってくる。
私は再び歩き出すために彼の腕を掴む。二回目のデートで新米のパパママを見るなんて、なんだか落ち着かない。子供や結婚に遠からず関係するような話題を、彼に一つも振らせたくない。
「それで、君は散歩は好きなの?」
「一番好きなことってわけじゃないけど、赤毛の女の子となら好きよ」
「へえ、じゃあ私がブロンドだったらダメ?」
「うーん、たぶんね。でも、それは君だからだよ」
私はマッティアを引っ張るようにして右へ曲がる。あのベビーカーから離れたい。
十メートルほど先に小さな噴水がある。水が上から吹き出し、二段の皿に跳ね返ってから地面に落ちている。どういうわけか、私にはいつもウェディングケーキを思い出させた。
私たちと同じくらいの年齢のカップルが噴水の縁に座っている。彼女が手を持ち上げ、彼の顔に数滴の水を飛ばして二人は笑っている。
近づきたくない。また幻覚を見てマッティアに頭がおかしいと思われたら、そのまま振られてしまうかもしれない。私だって逆の立場ならそうする。
あの子、どこかで知っている気がする。金髪のボブで、サングラスをかけている。横顔の感じだと、確信が持てない。
私はマッティアに寄り添う。「あっちへ行きましょう。あの子、知り合いかもしれないから」
「何が問題なの?」
「誰にも会わないように、わざわざ遠くまで来たんでしょ。周囲には何も知らせないって、あなたも賛成したじゃない」
「ああ、そうだったね……わかった。引き返して別の道を行こう」
そう、そのほうがいい。「ありがとう」
大きく回り込んで引き返し、分岐点をまっすぐ進むと、ちょうど目の前にあのベビーカーのカップルがいた。彼がベビーカーを押し、彼女は彼の手の上に自分の手を添えているようだった。とても睦まじい。
「ところで、聞きたかったんだけど……」
ダメ。いきなり子供が欲しいなんて聞かないでほしい。私は彼を見つめ、言うことに気をつけてという合図を送るように瞬きをする。
「俺のこと、恥ずかしい?」
「え? どうして?」
「さっき、知り合いかどうか確信が持てなかったのに、それでも避けたがっただろう。あんまり頻繁に会う相手じゃないか、よく知らない相手なんだと思った。つまり、どうでもいい相手だ。なのに……」彼は前を見つめる。「俺と一緒にいるところを見られたくないのかな、って思ってさ」
そんなふうに思われるなんて予想外だった。「考えすぎよ。それは時として良くないことだわ。もしあなたと一緒にいるのが恥ずかしかったら、最初からここにいないし、そもそも一緒に出かけたりしない。あなたならそうする?」
「まあ、確かにしないな」
「でしょ?」
彼は私を振り向かせ、キスをして、腕で私を包み込む。彼の手が背中を滑り、お尻のすぐ上で止まる。
私は舌先で彼の口をノックする。彼は口を開いて私を迎え入れ、私たちの舌は彼の口の中で絡み合う。彼が支えてくれていてよかった。今、自分の足が信じられないくらいふわふわしているから。
彼を逃がさないように後頭部を掴む。指で彼の髪を一房いじる。柔らかくて、滑らかで、軽い。
マッティアの手が、優しい愛撫とともに私のお尻へと下りてくる。大きな手がジーンズ越しに片方の頬をすっぽりと包み込み、私に震えを走らせる。
彼は、自分が何をしているか分かっている。
マッティアは唇を離し、幸せそうに微笑む。
私は唇を噛む。なんてこと、こんなに素敵なキスをされたのは久しぶりで、それが恋しかった。でも彼には言わないほうがいい。私が昔からキスをするのが好きだったことも。人生で四人目の相手だということも。私は彼に一度口づけをしてから、すぐに彼の肩に頭を預けて身を引く。
マッティアが私の髪を撫でる。「どうしたの?」
「何でもないわ」
「何か考えてるだろう……」彼の声は楽しそうだ。
さっき考えたことなんて、絶対に教えてあげない。「良かったわ」とだけ認める。
「俺もだよ」彼はまたお尻に手を置く。「君のお尻もね」と、ゆっくりと揉む。
「自信あるもの。私の自慢のパーツよ」
「俺は緑の目だと思ったけどな」
「それはありきたり。本当はあなただってお尻のことを考えてるんでしょ」
「もしありきたりなことを言いたかったら、赤毛のことについて言ってたよ」
「そうね、それこそ本当にありきたりだわ」
彼は笑う。「ああ、君が言ってたよね。からかわれたりして苦労したって」
「私たち赤毛にとって、人生がどれほど過酷か分かってないわね」
「どうして? 教会がいまだに君たちを魔女として火あぶりにでもするのかい?」
私は笑う。「馬鹿ね。魔女狩りの話なんて今じゃただの作り話だって、もうみんな知ってるでしょ」
「そうかな?」
「ええ、そうよ」
マッティアはお尻への力を緩め、またそこを撫でる。それが心地いい。
その時、女の子の悲鳴が聞こえた。さっきの噴水のあった場所のようだ。
「大変、何があったの?」きっと、何か重大なことに違いない。
「分からないけど、落ち着いて。公園だし、昼間にそんなひどいことは起きないよ」
「見に行きましょう」
「でも……」
私はマッティアの抱擁を振り切り、女の子の方へと急ぐ。万事問題ないか確かめたい。私は走る。
「ガイア!」マッティアが呼ぶ。どうして彼は平気でいられるの? 彼のほうこそ真っ先に確認しに行くべきなのに。
噴水の方へ曲がる。マッティアも走り出し、私の隣で止まった。ひどく息を切らしている。彼がこれほど体力不足だとは思わなかった。「ずいぶん速いね。弓道をやってたんじゃなかったっけ?」
「せいぜい二十メートルくらいしか走ってないわよ」
噴水の傍らには、さっきの青年がいた。腰を二重に折り曲げ、噴水の中に腕を突っ込んでいる。
私は速度を上げる。まさか、あの金髪の子を溺れさせているんじゃないか。
一つの手が噴水の縁を掴み、金髪の彼女が歯を食いしばり、悪態をつきながら水の中から現れた。
彼女の彼氏が、濡れた髪を一房よける。「怪我はない?」
彼女は首を横に振る。
私もそこにたどり着く。「大丈夫ですか? 悲鳴が聞こえたので」
マッティアも私の隣に来たが、相変わらず激しく息を切らし、舌を出した犬のようだ。
金髪の彼女は、犬がするように力強く頭を振った。おかげで私たち三人は水浸しだ。お門違いな恩返しね。
「おい!」彼女の彼氏がたしなめる。
間近で見ると、やはり知らない子だった。よかった。
彼女は笑う。「大丈夫です、ありがとう」感謝の目で私を見る。助けが来るとは思っていなかったのだろう。
私は手で軽く制して、謙遜する。「いいえ、誰でもそうしたはずよ」マッティアはしなかったかもしれないけれど。
「それでも、ありがとう」彼女が手を差し出す。「マルティナよ」
「ガイア。こっちはマッティア」
「はじめまして」私の連れも、ようやく息が整ったようだ。
「僕はマルコ」彼氏のほうも自己紹介する。
「失礼かもしれないけど、びしょ濡れなの。風邪をひく前に家まで送ってくれる?」
「今すぐ行こう」
二人が立ち上がる。「本当にありがとう。じゃあね」マルティナが私に挨拶する。
「どういたしまして。さようなら」
挨拶を終えると二人は立ち去り、私とマッティアが残った。最初に水の幻覚を見たときも、私たち二人きりだった。
「ほら、何でもなかっただろう?」
「そんなの分からなかったじゃない。来て正解だったわ」
「もしあの子に気づかれてたら?」
「それが何? 無事かどうかのほうが大事だったのよ」
マッティアは眉をひそめる。「ああ、君の言う通りかもしれないな」
この状況で反対のことを言われたらたまらない。男なら真っ先に動くべきだった。私は噴水の縁に座り、バッグを地面に置く。
「ほら、学習してるじゃない」私は彼を少しからかう。
「そうかな? つまり、君に同意することを、ってこと?」
「その通り」
彼は首を横に振って笑った。
水の音は心を落ち着かせる。マルティナがリラックスしすぎて、うとうとしながら中に落ちてしまった――なんて話だったら、笑えたのに。
マッティアの携帯が鳴る。着信だ。彼はポケットからそれを取り出す。「ごめん、母さんからだ」
「いいよ」
彼は背を向け、二、三歩離れる。「もしもし、お母さん」
背後で水がゴボゴボと音を立てる。
「うん、夕食までには帰るよ」
冷たい波が私を包み、水の塊が口を覆う。
下へと引きずり込まれる。
叫ぼうと口を開けるけれど、凍るような水を飲み込むだけで声は一つも出ない。
助けて。
底のない水の中を、どこまでも深く沈んでいく。
一筋の光。
目を閉じる。
意味の分からない呟きが耳に届く。
私を探すマッティアの声かもしれない。
体を動かす。自由だ。でも、まるでプールの中にいるみたいに何にも触れない。
目を開ける。
暗闇。
辺りを見回す。
何が起きているの?
泡が口から漏れ出す。
頭を上げると、上に光が見える。
光に向かって泳ぐ。
マッティア
「うん、わかった。じゃあね」
母との電話を切り、振り向く。
ガイアがいない。地面にはまだ彼女のバッグが置かれたままだ。その辺にいるんだろう。
噴水の周りを探してみるが、どこにもいない。
「ガイア! ガイア!」彼女を呼ぶ。
返事がない。
どこへ行ったんだ?




