エピソード1の第8章 卒業
「卒業前に、一日くらいは教室に戻ってきて」先生に懇願された。
勇気を出して、卒業式が近い1日だけ、教室に入った。こわかった。でも誰とも目が合わなかった。特に男子とは、全く目が合わなかった。多分先生の指導で、みんなが相当気を遣ってくれたんだろう。
あたしが座った席の隣は真理さん。
「おはよう」
「おはよう」
固い言葉で挨拶をかわしたが、それ以上の会話はなかった。真理さんはそのあと、別のお友達と明るく喋ってた。同じ制服を着てるクラスメイト同士。L女子高校の入試で体験した暖かさを思い出して、比較したくなった。
卒業式。体育館での式に参加するように言われたが、やはりどうしても参加できなかった。当日の午後、保健室でこじんまりと卒業証書授与の場を設けてくれた。
1年間、担任の先生を振り回したが、先生には本当に感謝している。
「絵理、卒業おめでとう」「
保健室の外で亜由子が待ってくれていた。
「亜由子もおめでとう。お互いにね」
あと部活の後輩3人、同じ楽器の女子たち。
「絵理先輩、卒業おめでとう。コンクール、一緒に出られて、よかったです」
部活の、男子の同級生たち、実は小学校からのお友達も多かったんだけど、この1年間で、完全に距離ができてしまった。でも、いずれはお別れだったんだ。そう思っておく。
「先生への挨拶があとになってごめんなさい。この1年間、本当にあたしのわがままを聞いてくれて、ありがとうございます」
「改めて卒業おめでとう。絵理さんのような事例は、個人的にもはじめてだし、学校もはじめてだったそうよ。あたしができることは、できるだけやりきったつもり。でも、多分だけど.....絵理さんのような状況って、理解してくれない人はまだまだ多いんじゃないかしら。この1年間は学校も先生も、絵理さんを守ろうとした。進学するL高校も多分守ってくれると思う。そうじゃない状況って、もっと慣れておく必要があるのかな....。もっと強くなれたらいいね。悩んだら、また相談しにきていいわよ」
帰宅したら、能理子からもお祝いの言葉をもらった。
「お兄ちゃん、というか、お姉ちゃん、というか、卒業おめでとう。まさか女子中学生として卒業して、女子校に進学するなんてね。不思議。あたしますます、お友達からからかわれるのよ」
「笑いのタネにしてくれたらいいわよ」
珍しく、妹と笑顔になった。妹からはサプライズのプレゼント...って、ルージュの口紅。
「あたしは化粧しないだけどね。お姉ちゃん、この色好きでしょ」
わかってくれてる、うれしい!
卒業式の1週間後、部活の女子会をやることになった。卒業する女子部員と、在校性女子部員の有志で、ショッピングとカラオケ。あたしも誘われた。やっぱり、亜由子とずっと一緒にいた。
後輩に話しかけられた。
「そういえば1年前、このお店の近くで、絵理先輩と会ったんですよね?」「覚えてる!とっても可愛かった!この1年で、ますます可愛くなりましたね。そういえば来年は女子高生ですって!」
そう、あのときの後輩たちに元気をもらったんだ。御礼を言った。きょとんとされた。でも、あれがきっかけだったんだよ、ほんとに。
女子として過ごした1年。学校が準備したイベントということでは、きちんと参加できたのはほんのわずかだった。でも、あたしを女子として受け入れてくれた人が、何人かいた。それが今のあたしの自信になっている。このまま、高校生になってもがんばろう。




