エピソード2の第5章 吹奏楽部
吹奏楽部は、亜由子の協力もあって、同級生とも馴染んできた。一部の女子とは、ほどほどに仲良くなれた。
夏休み。そろそろコンクールも近い。
ある日の練習の片付け。あたしと亜由子二人だけが、廊下にいる状況となった。
「えったくんだよね?」
え、今なんて?
えったくん。あたしが男子の時、それも幼稚園くらいの時に、お友達やママから呼ばれていたあだ名。いままですっかり忘れていたあだ名。
聞き間違いかな?
「あたし絵理だけど?」
「だからぁ。えったくんだよね?....きづかなかったの?あたし、最初からぴんときて、すぐ気付いたわよ」
「だから、なんのこと?」
「もう、本当に忘れたの?幼稚園のヨゼフ組。えったくんと同じ組だったよ。あたしは、小学校に入るときにこの町に引っ越してきたの。それにしても、可愛くなったわよね。ヨゼフ組の時も、強い男子じゃなくって、優しい男子だったもんね」
気付かなかった。あたしの昔のことを知っている人が、こんな身近にいたなんて。それも吹奏楽部。
「あたし、この学校では、女子で通してるの。どうしよう、亜由子、あたしの昔のこと、知ってるんだ。他はだれも知らないの。そのままそっとしてくれない?」
「えったと同じクラスの千里、あの子もヨゼフ組だったよ。あたしと同じ時にこの町に引っ越してきたの。千里、最初に絵理を見たときに、えったくんだって、気付いたって言ってたわよ」
最近の千里との絡みを、全部思い出してしまった。特にトイレの音のやりとり。
「ごめんごめん。コンクールも近いから、今の話忘れて良いよ。千里もあたしも、気付いてくれなかったのは残念って思ってるけど、それ以上にはなにも気にしてないから」
家に帰って、幼稚園の卒園アルバムを確認した。たしかに...亜由子も千里も載っている。
ちょっと動揺しながら、コンクールを迎えた。コンクールは、特別良い成績というわけでもなかった。次の大会に推薦されることもなく、この学校でのただ1回のコンクールは終わった。
でも、こないだの亜由子とのやりとりで頭の中がいっぱい。コンクール本番での演奏など、まったく記憶に残っていない。




