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ROUND24・そびえ立つ壁を超えて

(・・・やはり、大したことはねぇ)

『キャンサー』は、悠紀の『朧丸』を相手取りながら、そんなことを考えていた。

 やはり、自分たちの2連覇は揺るがない。

 自分達の大将。『リビングストーン』は、奴がこの敗者復活から本戦に辿り付いたことに、僅かな反応を示した。昨年、大会出場者の中で、唯一土を付けかけた相手だからだろう。それが屈辱的だからなのかどうかは知らないが。

 昨年、決勝で戦った顔ぶれがぽつぽつと見え隠れしているようだが、自分にとってはさしたる問題ではなかった。

 敗者復活で勝ち上がろうと、前年度に続いて本戦に勝ち登ろうと、優勝しなければ、それは意味がない。

 今までやってきたことを無に帰す行為だ。

 そして、その資格があるのは、自分達だ。

『リビングストーン』が何を警戒しているのかがわからない。寝首を掻かれるとでも思っているのか?

『黒胡麻』ならともかくだ。アイツは人数合わせで入れているに過ぎない。本来なら自分達だけでどうにでもなる大会だ。

・・・少し、希望を持たせてやるか。

 実力だけでなく、心の芯からポッキリとへし折ってやろうか。

 自分達との間に隔たる、絶対的な力の差と言うものを。


『カラス』の動きが変わった。

 暴風のような動きは鳴りを潜め。まるで戦闘意欲が綺麗サッパリ削がれたように。

 小刻みなダッシュ、バックステップを繰り返し。ちょこちょこと牽制にもならない通常技を小刻みに放ち。こちらの様子を伺うというよりも、それはどこかこちらを馬鹿にするような動きで。

 本気を出してまで相手取る必要のない、さしたる敵ではないと思っているのか。

 しかし、悠紀はそれが逆に疑心暗鬼に陥り。

 こっちが攻めるのを待っているのか。何か罠が張り巡らされているのではないか。

 繰り返されるように突き出す武器での空打ち。

・・・そっちがその気なら、乗らせてもらおう。悠紀は改めてレバーを握り、気合を入れる。

『カラス』の前方に突き出す攻撃を読んで、ジャンプ。

 振りかざす刀での一撃。『カラス』はそれをガード。

 着地した『朧丸』が、下段のしゃがみ弱キック、そこから一拍置いて。

 悠紀は盤面で指を踊らせる。

『カラス』武器を振りかざす攻撃と、『朧丸』の暗転が重なったのはほぼ同時だった。

(掛かった!)

 ここは悠紀の読みが的中。刀を構えた侍が、銀の軌跡を振りかざす。

 ハイブリッドアーツ、『花鳥風月』。剣の乱舞が相手を切り刻む!

 当て投げと思わせておき、そこに無敵時間の潤沢な必殺技をぶつける。通常技をも飛び越えて、乱れ撃つ乱舞と、トドメの一撃が振り下ろされ。

 悠紀は攻撃の手を緩めず、吹き飛んだ『カラス』に肉薄する。

 読みも反応も正確無比だからこそ『効いた』トラップだ。

 相手はこちらの弱攻撃の後、投げを狙うと踏んだのだろう。

 その目論見は外れ、投げ抜け失敗の通常技ごと、ハイブリッドアーツの波に飲み込んだ。

『KO』

 2本目は、悠紀が取り返す。

 相手の油断、こちらの賭け。薄氷を踏むような勝利。

(・・・小賢しい罠にハマっちまった)

 『キャンサー』は、つまらないものを見るような目で画面内を見る。こっちの反応を逆手に取った、ありふれた一手だ。自分に取っては、ただの一敗でもそれですら恥だ。

 だが、これで舞台は整った。

 一本を取り返し、希望が湧き上がったことだろう。もしかすれば、万にひとつでも勝てるかも知れないという、間違った希望ごと、な。


 運命の3ラウンド。

 先程までの凪が嘘のように、『カラス』は怒涛の攻勢を再開させた。

 その全てが死の入口。体力の残量があっても、それが安心の材料にはならない。

 実際の戦いだったら手に持った、打ち合う金属の塊は、火花で摩耗してしまうのではないのか。そんなことすら思う。

 不思議と、逆に冷静になる。先程までの追いつかなければという、ともすれば逸る気持ちが、水平線のように穏やかな穏やかな揺らぎとなって、反対に静かな力で心を満たしている。

 常に間合いを図りつつ、神経を研ぎ澄まし。それが、勝利へと続く針のような隙を手繰る。

『カラス』が、上方へ振りかざす黒閃の斬撃を放つ。

 この千載一遇の隙を、悠紀は見逃さなかった。

 相手にどんな心境の変化があったのかはわからない。その外した必殺技ですら、今までの鋭敏さが陰る。そこを悠紀は突いた。

 ダッシュで間合いを詰め、何百、何千回と反復した連続技を叩き込む。

 黄金色の閃光を纏ったMAX版『月閃』で画面端に追い込みつつ。

 上空に吹き飛ばした『カラス』に弱武器攻撃を当て、間合いを離さずに、駆ける。

 中段、下段の択一攻撃の選択は、相手の反応速度によって正誤が大きく変動するが、表裏の選択にとっさに反応できる人間はそういない。これはもはや反射神経の問題ではなく、攻撃する側のタイミングだ。つまり、次の攻撃が成立するのも、悠紀次第。

 落下してくる『カラス』を追い抜けば、裏から。ダッシュを寸前で止めれば、表。ある種、これは悠紀への選択でもある。

 悠紀の選択は、裏。

 この攻めが失敗すれば自分が背負うリスクを追う。そのリスクを恐れて、縮こまるのが最もやってはいけないことだ。

 百のコンボ練習よりも、キャラクター性能よりも。何より自分の直感を信じるのだ。

『朧丸』の放ったしゃがみ弱キックは、ガードではなくヒット音が響く。

 取った!

 悠紀は焦ることなく、淀みなく。さもそれが自然のように。

 いつも繰り返してきた順番でボタンを弾き。

 画面が暗転。

『朧丸』が吠え、刀を構え。

 再度乱れ飛ぶ剣撃を纏いつつ。

『KO』

 まだ、一瞬何が起きたのかわからなかった。

 振りかぶり終えた侍が、剣を踊らせ、その切っ先を鞘に収めた。

『この状況下、土壇場で捲った!やはり、この男の実力は本物か!』

 司会者の叫びと、会場が揺れる程の振動で、悠紀は意識を取り戻した。

 肩をガシガシと揺らす感覚が続き、気がつけば、信じられないような目で若葉が眼前に迫っていた。

「大将を引きずり下ろしましたよ!」

 その喜びの向こう側で、めろんも凛々しい顔を崩さずに、悠紀を見つめる。

「くそっ!下手に出てれば調子に乗りやがって!」

 悪態を突きながら、『キャンサー』が席を立つ。

 半分は、『キャンサー』の言うことも正しい。

 こちらの力を見下げるような、余裕を持った動きが隙を突き崩した要因であるからだ。厳密には、悠紀の力でこじ開けたわけではない。

 それに対し、若葉は嫌な気持ちになる。誰かを貶める言葉にリスペクトはなく。悠紀もそちらに目を向けるも、その光景にギョッとした。

「ぐっ・・・!?」

 悪態を付く『キャンサー』に『リビングストーン』が顔を近づけ、眉を寄せつつ睨みつけていたからだ。

「お前の侮り、おごりが招いたことだ。最後まで全力を貫かなかったお前の失態だ」

 深い、強い言葉で戒められ、『キャンサー』は言葉を継げず、呻く。

『リビングストーン』は、言葉数こそ少ないが、大将に腰を据えるだけあって、その座に足る人格者らしい。

『さあ、まさに昨年の再現だ。このふたりが今年もこの舞台で邂逅するのは、はたして運命だったのか!』

 司会者の煽りの中、『リビングストーン』が席に腰を落ち着ける。その瞬間、わずかに見えた『リビングストーン』の眼光は、全てを居抜きそうな、まさに戦士のそれだった。


 司会者の言うことは、あながち間違いではない気もしていた。

 使用キャラ、順番共に昨年と同じ。

 変わらないものはそれだけでなく。この戦いで、確実にひとつの戦いが終わることだ。

 そして。自分の力がどれだけ成長したか、それだけだ。


『リビングストーン』の持ちキャラは、『アルヴェルト』。

 剣を手にした、見た目だけなら極めてスタンダードな風貌だ。

 だが、その最大の特徴は、『インディビジュアルアクション』の性能と共にある。

 去年は、そのあまりにも異質なキャラ性能の前に散った。勿論、『リビングストーン』の強さを含めて。

 今日に向けて、対策と練習は怠ってはいないつもりだ。その練習の結果を見せつけるのは、今だ。

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