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ROUND22・決勝、始まる。

 ウルティメット・ラウンド。

 ファンタジア・ヘブン部門。

 Bグループの勝者。すなわち決勝で悠紀達と当たるのは、大方の予想通り『天上天下』と相成った。

『天上天下』は、去年からもそうだったが、大会中一貫してチームメイトの順番の変更を行わなかった。

 先鋒、中堅、大将の順番は常に同じ。相手に合わせて変える必要を感じていないのか。その殿を常に『リビングストーン』が据える。無論、それに見合う力を有しているのは明らかだ。

 そして、今大会では一度たりとも大将にお鉢が回ってきてはいない。一人目、そして二人目でその進軍を全て阻止してきているのだ。

 その立役者は、中堅の『キャンサー』。事実上の大将の如く、堅牢な壁としてそびえ立ち、彼らと戦った虎一を含むチームは、ここで全て脱落した。

 前回大会の借りを返すには、まずこの『キャンサー』を下さなければならないのが最初の壁だ。

 会場のボルテージが最高潮に達する。

 決勝戦は舞台袖から呼び込まれ、最終決戦に相応しい演出で迎えてくれる。

 これは去年悠紀も受けたものだが、初めてであろう若葉は緊張を明らかにその表情に宿していて。対するめろんは流石に落ち着き払い、頼りになるある種いい堂々さを見せる。

『下馬評通り、順当に勝ち上がった大本命!その大将、未だその片鱗も見せず!』

 司会者が本物の格闘技さながらにマイクに向かって叫び、

『語るその名に偽り無し!『天上天下』!』

 歓声が一際高まり、3人の影がスタッフに促され、先行して壇上に向かう。

『昨年、その栄光に唯一土を付けかけたメンバー有する、今大会の穴馬!』

 次いで、悠紀たちの紹介。

『女子中学生、現役アイドルと、そのメンバー構成に統一性はないが、敗者復活から這い上がったその実力は確か!』

 会場には『天上天下』を迎えた時に負けず劣らない歓声が響き渡り。

『その花は果たして開くか!『開花宣言』!』

 歓声のアーチを目の前に、悠紀を先頭にして、緊張の息を一瞬吐き出し。悠紀は力強い足取りで壇上へと向かったのだった。


 数分前。

「ここまで来たら目指してもいいよね」

 と、めろんがそんなことを言い出した。当然それは、この大会での頂点。優勝の二文字だろう。

 ここまで来れたということは、少なからず、自分たちがそれに相応しい力を有しているという意味で。

 回りくどい言い方をするが、早い話がもしかすればもしかするかも知れないわけで。

「どうかな。一筋縄ではいかないのは確かだ」

 去年手合わせした感覚では、中堅ですら3人がかりでなければ引き剥がせないほどの強さを誇り。大将戦に至っては、ほとんど自分が何をしたのか記憶がないほどだ。その実は、まったくの惨敗。善戦という言葉には、程遠い戦いぶりだった。

 果たして今はどうだろうか。それを確かめるための対戦だ。

「・・・・・・」

 ふと、傍らを見ると、珍しく顔をうつむかせた若葉が。

「緊張しているのか」

 その単語は、若葉の辞書にはない言葉かと思っていた。いつも傲岸不遜で、飄々としていて。そんな彼女でもその心を鈍くさせることもあるのだと。

 まあ、かくいう悠紀も、この大舞台に慣れている訳では無い。ゲーセンとはまるで環境の違う状況。慣れている方がおかしいだろう。

「だ、誰が緊張しとるんですか!」

 明らかな狼狽を見せていることに、気付いてはいないのだろうか。

「・・・悠紀さんは、緊張してないんですか」

 若葉は、横目で聞く。

 最初はしていた。でも、すでに別の感情で塗り潰されている。

 果たして、今の自分は奴らに通用するのか。優勝以前に、頭を占めているのは、そんな感覚だ。

「変な言い方だけど、もう楽しみだ」

 この心臓を早鐘のように打ち鳴らす原因は、そんな、楽しみが生む鼓動だと思っている。

 若葉は、そんな悠紀の答えに小さく笑みを零し。

「そうでしたね。悠紀さんはそんな人でしたね」

 半ば呆れたように、若葉は嘆息した。

 だが、その顔からは硬さが消えた。そんな姿を見て、悠紀は安堵した。

「よし、いつもの若葉だ」

 そう言って、若葉の頭にぽん、と拳を乗せた。

 すぐさま若葉は眉をひそめつつ、悠紀に触れられた脳天に手を触れ、その手を振り払う。

「ふふ」

 その様子を見て、めろんは小さく笑いを零す。

「まるでふたりは兄妹みたいだな」

「じ、冗談よしてください」

 若葉は少しムッとしたように、その言葉を否定。

「私、こんなシスコンの兄なんていらないんですケド」

 その言葉に、めろんは半眼で「ほう・・・」と悠紀を見る。

「君の家族構成は伺っているが、なるほど」

 いらない誤解を与えないでくれるか。

 ともあれ、緊張で手足が縛り付けられるような感覚が抜けた。あとは、自分達のしてきたことを信じるのみ。


 悠紀達のチームは、先鋒めろん。次鋒若葉、そして大将に悠紀を据える。じゃんけんの結果、悠紀達は1Pサイドを選択。どうやらどちらのチームも、相手の出方を伺い順番を決める様子もない。やはり1P側はやり慣れた位置だ。少しでも勝率を上げるために、こっちを選択。

 歓声に包まれる中、一番手のめろんが椅子に座し、向こうにもプレイヤーが座る。

『さぁ。天下分け目の決戦!宝剣ファンタジアに祝福されるのは、どちらだ!』

 司会者が、このゲームに掛けた言葉で、観客を煽る。

 めろんの背後には、悠紀と若葉だけでなく。

 エメラルドグリーンに光るペンライトがチラホラと輝く。奮い立つ心を後押しするように、めろんのファンがこの会場に押しかけている。

 めろんは手にするレバーに触れ、感触を確かめるようにボタンを弾く。

 その顔は、歌って踊り、ステージ上で輝きを放つアイドルではなく、戦いに赴く戦士の顔で。

 めろんの小さく吐く息の音すら聞こえそうな緊張中。

 運命の一戦が、始まった。


 向こうの一番手。相手は『リビングストーン』や『キャンサー』とは違い、少し恰幅のいい男性だ。

 プレイヤーネームは『黒胡麻』。持ちキャラは朧丸。

 プレイ回数は悠紀達よりも多い。勝率は6、7割、といったところか。

 朧丸はスタンダードで、初心者向けでもあるが、突き詰めれば上級者にも耐えうるポテンシャルを秘める。

 悠紀との対戦で慣れているとは言え、決して油断は出来ないキャラクターだ。

 めろんは勿論『デモネード』。

 侍と不死の王が、プレイヤーを変えて邂逅する。

『ラウンド1』

 画面内で電子音声が流れ。

『ファイト』

 かくして、戦いの火蓋は切られた。


 蓋を開けてみれば。

 めろんが1ラウンド目を先制。その後2ラウンド目をまくられるが、そのあとの3ラウンド目は危なげなくめろんが勝利をもぎ取った。

 めろんとしては、悠紀という先達がいるからなのだろう。対戦する回数も多い。気を付けるべき技を覚えれば、デモネードの有利なフィールドで戦える。

「よし!まず1勝!」

 若葉は喜びを噛み締め、こぶしを握りしめる。

 背中合わせにした筐体の向こうで、『黒胡麻』が椅子を立つ。

 続くふたり目、次鋒と入れ替わる瞬間。

「まあ、所詮お前はこんなもんだ」

 悠紀がそちらの方に目をやると、悔しそうな『黒胡麻』に、『キャンサー』が非難するような目を向けている。

「接待プレイでもしてたのか?あの程度の攻めに対応できねえなんて」

 そのセリフに、若葉はあからさまにムッとしたものをその表情に貼り付ける。

 それは暗に、めろんのプレイが標準以下であることを言っている。

 決してそんなことはないのに。人の目から見ても、めろんの腕は一級品に足を入れている。

 飛びかからんばかりに顔を沸騰させる若葉を、悠紀は手で制する。

 例え相手が性悪の悪党でも、口の悪い悪童だろうと。ゲームの中では平等だ。

 ゲーム内では、老若男女が平等であるように。

『キャンサー』が『黒胡麻』を押しのけるように椅子からどかし、カードを不敵な笑みを浮かべながらリーダーに乗せた。


 淡い夢を見た。

『キャンサー』のプレイ回数は法外なもので。勝率も限りなく9割に近い物で。

『キャンサー』がどんな性格で、どんな人物像だったとしても、その数値は、それだけファンタジア・ヘブンをプレイし、研鑽した証だ。

 そして、その数字に裏付けられた強さは、やはり筆舌に尽くしがたかった。


 めろんを応援するペンライトの振れ幅と、応援する歓声が止まった。


 めろんは1ラウンドを返すことなく、『キャンサー』の前に散った。


 決してめろんが弱いわけではない。それは、悠紀自信が身を持って知っている。


 油断も慢心もなかっただろう。

ただ。

『キャンサー』が強すぎたのだ。


 その圧倒的な立ち回りに、悠紀は戦慄した。

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