第96話 零番は王都にいる
ゲオルクは拘束された。
尋問で、エレナの居場所が分かった。
「王都地下研究院」
リヒトの顔が真っ白になる。
「ずっと?」
「三十年だ」
ゲオルクは悪びれない。
「彼女は貴重な成功例だった」
リヒトが殴りかかる。
俺とカイで止める。
「離して!」
「殺したら会えない!」
その一言で止まった。
肩が震える。
「会えるのかな」
初めて、子供みたいな声だった。
「会える」
俺は言う。
「少なくとも、会いに行ける」
カイも頷く。
「王都へ戻る」
今度の帰路は速かった。
途中で王宮へ先行文書を送る。
国王本人へ。
研究院封鎖。
資料保全。
関係者拘束。
返事は半日で来た。
『すべて許可する。私の名を使え』
カイが紙を見る。
「叔父上も知らなかったか」
「たぶん」
「帰ったら怒られるな」
「誰が」
「俺が。勝手に軍を拘束した」
「王命あるじゃん」
「送る前にやった」
「……さすが」
王都への急報を書きながら、カイは何度も文章を消した。
「珍しい」
「何が」
「文書で迷ってる」
「叔父上へ、軍の犯罪を報告する文だ」
「そりゃ迷うか」
国王はカイの叔父であり、王国軍の最高権力者でもある。
「責める?」
「知らなかったとしても、責任はある」
「うん」
「俺にもある」
「当時知らなかったのに?」
「前線指揮官だった」
俺は首を振る。
「責任って便利な言葉にしない方がいい」
「何」
「あなたが負うべきことと、負わなくていいことを分けよう」
カイがこちらを見る。
「全部背負う癖、兄にも怒られたでしょ」
「……聞いたのか」
「聞いてない。当てた」
図星らしい。
最後に二人で文面を整えた。
告発ではなく、事実と要求。
隠さない。
調べる。
裁く。
それだけを明確にした。
王命が返ってきた時、カイは封蝋を見てしばらく動かなかった。
「怖い?」
「叔父上が何を知っていたか、それ次第だ」
「もし知ってたら」
「公爵としてではなく、国王の甥としてでもなく、証拠を出す」
「俺も出す」
「お前は王族ではない」
「主任鑑定官」
「そうだったな」
「忘れないで上司」
封を切る。
短い文面。
知らなかった。
調査を全面許可。
隠蔽しない。
カイの肩がわずかに下がった。
「よかった?」
「……ああ」
カイは目を閉じ、眉間を指で押さえた。
俺は何も聞かず、冷めた茶だけ新しいものに替えた。




