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第87話 帰還計画の本当の目的

 ユリウスを見送って終わり、ではなかった。


 旧軍病院の記録を読み直す。


 RETURN計画の目的は二つ。


 一つは死者再構成。


 もう一つは――戦死者の記憶から軍事情報を抽出すること。


「最低」


 俺は言った。


 カイは資料を握り潰しそうな顔をしている。


 さらに署名欄。


 王国軍参謀本部。


 当時の責任者の一人は、今も王宮にいる。


 ゲオルク・ハインツ宰相補佐。


「知ってる?」


「ああ」


「信用は」


「していない」


「よかった」


 リヒトが壁にもたれる。


「父が教団を作った理由の一つもこれだよ」


「王国への復讐?」


「半分。残りは本気で縁を憎んだ」


「あなたは」


「僕は父ほど単純じゃない」


 その時、外で爆発音。


 窓が揺れる。


 マティアスが飛び込んできた。


「旧病院が燃えています!」


「記録を消しに来た」


 カイが立つ。


 俺たちは同時に走った。


 ユリウスの告発書には、研究班を止めようとした経緯が細かく残っていた。


『死者は国有財産ではない』


 その一文に、俺は長く目を止めた。


「兄上らしい」


「どんな人だった?」


「規則を守らないくせに、妙なところで正義感が強い」


「あなたと似てる」


「似ていない」


「もう諦めて」


 資料の末尾には宛名がある。


 国王ではなく、当時まだ王太子だった現国王。


「届かなかった?」


「おそらく途中で止められた」


 つまり隠蔽は一部の軍上層部がやった可能性が高い。


 敵は“王国”という大きな言葉じゃない。


 誰が何を決めたのか。


 そこを曖昧にしない。


「問責しないとね」


「何だ、その言い方」


「責任者を一人ずつ出すってこと」


 カイが頷いた。


「それがいい」


 告発書にはユリウスの署名だけでなく、十二人の研究員の署名もあった。


 全員が計画に賛成したわけじゃない。


 止めようとした人もいた。

 逃げた人も。

 口を閉ざした人も。


「善悪で二つに分けられないね」


「だから調べる」


 カイが答える。


 誰が命令したか。

 誰が実行したか。

 誰が止めようとしたか。


 全部同じ罪にしたら、また事実が消える。


 俺は特殊命糸事案対策室の仕事が、思っていたよりずっと政治に近いと気づいた。


「主任、辞めたくなった?」


 リヒトが聞く。


「給料上げてほしくなった」


「そっち?」


「大事」


 カイが真顔で頷いた。


「申請する」


「本当に?」


「成果を出した」


 急に上司として有能だった。

 資料には、RETURN計画の予算表まで残っていた。研究費ではない。「戦略情報回収費」。死者から敵軍配置、暗号、補給路を引き出せた件数に応じて成果が計上されている。


「人が死んだ後まで勤務させられてる」


 吐き捨てると、リヒトが笑わなかった。


「父はこれを見て、最初は軍を憎んだ。でもそのうち“縁があるから利用される”って考えるようになった」


「原因と道具を入れ替えたんだ」


「ああ。人間が利用したのに、縁そのものを悪者にした」


 カイは予算表の承認印を指で押さえた。


 ゲオルク・ハインツ。


 同じ名が、三年分の帳簿すべてに残っていた。


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