第84話 死者の願い
午後、町の人たちがまた集まった。
今度は死者を返せと叫ぶためじゃない。
ユリウスに会うため。
昔の兵士。
商人。
子供だった人。
「覚えてますか」
「もちろん」
「嘘だな。お前は当時五歳だろ」
「じゃあ覚えてない」
笑いが起きる。
ユリウスは一人ずつ話した。
最後に、あの老婆が来た。
「あなたが生きていたら、この町はもっと違ったでしょうね」
ユリウスは首を振る。
「生きていた人たちが、ここまで直したんです」
老婆が泣く。
「それでも、帰ってきてくださって嬉しかった」
「僕もです」
その時、町中に白い糸が浮かんだ。
死者へ向かう糸。
でも誰も引っ張っていない。
ただ、見送っている。
「ノア?」
灰色の目とぶつかった。
「大丈夫」
今度は本当に。
「綺麗だよ」
ユリウスの金糸が、町中の白い光と混ざる。
死者の願いは、帰ることだけじゃない。
忘れないでほしい。
生きていてほしい。
それもきっと、糸になる。
町の人との面会が終わったあと、ユリウスはかなり疲れていた。
「無理させた?」
「いや」
彼は椅子にもたれる。
「会えてよかった」
「でも糸、かなり薄くなってる」
「いいんだ」
「怖くない?」
ユリウスは少し考える。
「怖いよ」
あっさり言った。
「二度目でも?」
「二度目だから、かな」
死を知っている人ほど死が怖くない、なんて綺麗事だった。
「でも今回は、何が来るか分からないままじゃない」
窓の外を見る。
「見送ってくれる人がいる」
俺は何も言えなかった。
「ノア」
「はい」
「カイにも、いつかそう言えるようにしてやってくれ」
「縁起でもない」
「百年後くらいの話だ」
「それなら」
「君も一緒にな」
俺は笑った。
「欲張りですね」
「兄だからな」
面会の最後に、小さな男の子がユリウスへ木剣を差し出した。
「お父さんが、あなたに剣を教えてもらったって」
「父上の名は?」
「ハンス」
あの古参兵だ。
ユリウスは木剣を受け取り、簡単な構えを一つ見せた。
「剣は人を斬るためだけに持つなよ」
「何のため?」
「帰りたい場所を守るため」
横でカイが目を伏せた。
男の子が去ったあと、俺は言う。
「あなたの弟、ちゃんと守ってましたよ」
「知ってる」
「結構無茶だけど」
「それも知ってる」
「兄弟だね」
二人同時に嫌そうな顔をした。




