第67話 リヒトの条件
翌朝、リヒトが条件を出した。
「ユリウスを安定させたいなら、銀赤の糸を貸して」
「断る」
カイが即答した。
「俺にも聞いて」
「聞いた上で断る」
「まだ聞いてない」
リヒトが面白そうに目を細める。
「仲いいね」
「話を戻して」
仕組みを聞く。
再構成体は、死者が生前持っていた縁を燃料にして形を保つ。時間が経つほど、その縁が消耗する。
「ユリウスさんを長く残したら?」
「カイの兄との記憶まで薄くなる可能性がある」
背筋が冷えた。
「最悪じゃん」
「だから新しい燃料が必要。銀赤は選択のたび結び目を増やす。普通の糸より再生性が高い」
「燃やした結び目は?」
「消える可能性がある」
雨宿り。
喧嘩。
初めてのキス。
どれかを燃やせば兄が一日長く残る、と言われても簡単には選べない。
「“可能性”ばっかりだね」
俺は紙を出した。
「必要量、成功率、失敗した時に失うもの。全部書いて」
「細かい」
「命を触る話だから」
成功率の欄で、リヒトの筆が止まった。
「何パーセント?」
「……六十三」
「低い」
「僕の基準では高い」
「その基準、何人失敗した上でできたの」
返事はない。
カイが紙を見た。
「論外だ」
俺も頷く。
数字にした瞬間、“延命”という甘い言葉が“実験”へ戻った。
「兄は延命を望んでいない」
カイが言った時、背後から声がした。
「勝手に決めるな」
ユリウスが立っている。
「兄上」
「俺のことは俺が決める」
俺とリヒトが同時にカイを見た。
「……似てる」
「どこが」
「そこ」
ユリウスは紙を受け取り、六十三という数字を長く見た。
「俺のために、二人の記憶を燃やすのは嫌だ」
「兄上」
「だが、生きたいかどうかまでお前が代わりに決めるな」
カイの口が閉じた。
「分かった」
不満そうでも、ちゃんと引いた。
俺は紙の端に一行だけ書いた。
『銀赤は資源として扱わない』
リヒトが文字を読み、黙って署名欄へ自分の名を書いた。




