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再会

 白い部屋に男がいた。


 窓辺に立つ金髪。古い北方軍の軍服。肩章は第七北方軍――さっき記録で確かめたものと同じだった。


 墓碑の肖像より少し若い。けれど、写真より先にカイの身体が答えた。


 隣で息が止まる。


「カイ」


 男が振り返った。


「遅かったな」


 笑った。


 カイとはあまり似ていない。口元も、立ち方も、声の温度も違う。なのに目尻だけが同じで、それだけで兄弟だと分かった。


「……兄上」


 その呼び方を、俺は初めて聞いた。


 普段なら命令する時にも揺れない声が、最後の一音だけ掠れた。


 ユリウスの笑顔も少し崩れる。


「久しぶりだ」


 一歩、近づく。


 カイは動かない。剣の柄に手を置いているのに、抜く気配もない。近づきたいのか、逃げたいのか、本人にも決められていないように見えた。


 俺はユリウスの身体を見る。


 肉に見える輪郭の内側を、白い糸が幾重にも束ねている。その中心に金色の一本。カイへ続く家族の縁だ。偽物だけでは作れない密度がある。


「触らないで」


 反射的に言った。


 ユリウスが俺を見る。


「君がノアか」


「知ってる?」


「毎日のように聞かされている」


 カイが初めてこちらを向いた。


「誰に」


「お前に」


 意味が分からず、俺もカイも黙る。


 ユリウスは自分の胸を指した。


「俺の中には、生前の記憶だけじゃない。カイから残った縁を通して、死んだ後の断片も少しずつ流れ込んできた。王都。肩の傷。黒い制服。それから――」


 俺を見る。


「寝起きで髪が爆発している男」


「ちょっと待って」


 カイを見る。


「俺の写真、そんなの残してる?」


「知らない」


「知ってる顔」


 ユリウスが声を上げて笑った。


「弟が誰かのことを、こんなに細かく覚えてるのは初めて見た」


 急に頬が熱くなる。


 カイは逆に真顔だった。


「当然だ」


「そこで当然って言うの、ずるくない?」


「何が」


 ユリウスはさらに笑う。


「恋人ができたんだな」


 今度こそカイの耳が赤くなった。


「兄上」


「違うのか?」


「違わないけど」


 俺が答えると、カイがこっちを見た。


「なぜお前が答える」


「事実だから」


 ほんの数秒だけ、白い部屋から病院の冷たさが消えた。


 家族の再会というのは、もっと泣くものだと思っていた。けれど二人の間には四年分の空白がある。泣く前に、確かめなきゃいけないことが多すぎるのだ。


 ユリウスがもう一度カイへ近づく。


「触れても?」


 弟に許可を取る声だった。


 カイの指が剣の柄から離れる。


「ああ」


 ユリウスが手を伸ばす。


 その指先がカイの肩へ届く直前。


 白い糸の束の奥で、黒いものが走った。


 細い亀裂。


 一本。二本。胸から首へ一気に広がる。


 笑っていたユリウスの顔が苦痛に歪んだ。


「兄上!」


 今度はカイが迷わず前へ出た。


 再会して初めて兄へ伸ばした手が、崩れかけた身体を受け止めた。


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