第43話 ラウルが残した鍵
旧王都の外郭で本隊と分かれた。
正面入口は近衛が制圧する。
俺とカイ、エリオット、教授、それに六人の選抜騎士は、ラウルから渡された鍵を使って地下へ入る。
「罠じゃない?」
鍵穴へ差し込みながら言う。
「可能性はある」
「信用してる?」
「半分」
「俺も」
石扉が重く開いた。
内部は古い回廊だった。
壁一面に名前が刻まれている。
最初は墓碑かと思った。
違う。
教団の実験対象。
何百人。
名前の横には、年齢と結果。
失敗。
死亡。
切断成功。
記憶欠損。
「……最悪」
声が漏れる。
教授の顔が青い。
途中で、知っている文字列を見つけた。
NOA LIVEL 14
KAI WALCHHEIT 19
古い表記。
横には「PAIR-07」。
「七番目」
俺が呟く。
「俺たちの前にも対がいた?」
教授が壁を調べる。
「六組。すべて失敗とある」
「失敗って」
「片方死亡、両方死亡、精神崩壊……」
カイが俺の前へ半歩出た。
壁を見せたくないみたいに。
「大丈夫」
「無理に読むな」
「読む。俺たちの話だから」
最後まで見る。
PAIR-07だけ結果欄が空白だった。
代わりに一語。
――逸脱。
「教団の予定から外れたってことかな」
「そうだろう」
カイが石壁に触れる。
「最初から選ばれていたとしても、結果は選ばれていない」
「うん」
「教団が始めたとしても」
「終わり方は俺たちが決める」
「ああ」
その先の通路で、黒い糸が濃くなる。
壁の隙間から、低い振動。
鐘の試鳴だ。
あと二時間。
教授が立ち止まる。
「ノア。ここから先、糸の密度が異常じゃ」
俺にも分かる。
視界の半分が黒い。
初めて、怖さで喉が乾いた。
カイが何も言わず手を差し出す。
俺は握らない。
代わりに肩へ一度触れる。
「戦う時は両手使って」
「分かった」
それで十分だった。
さらに奥の壁には、PAIR-01から06までの経過記録が続いていた。
PAIR-02――結糸者死亡後、受け手が自死。
PAIR-04――両者の記憶混線。人格識別不能。
PAIR-06――強制共鳴により双方死亡。
「読むな」
カイが言う。
「読む」
「ノア」
「怖いから読むんです」
成功例がない。
俺たちは七番目。
違うのは、強制された共鳴ではなく、自分たちで選んで糸を使っていること。
「教授」
「何じゃ」
「強制共鳴と俺たちの違い、そこですよね」
「おそらく。術式は同じでも、入口が違う」
カイが壁の失敗例を見る。
「なら、勝手に繋ぐな」
「そっちも」
「必ず聞く」
この約束は恋人未満の甘い話じゃない。
生き残るための条件だった。
PAIR-07の空白欄を指でなぞる。
「ここ、帰ってきたら書き足したい」
「何と」
「成功」
カイが首を振った。
「生還、と書け」
「そっちの方がいいね」
俺たちは先へ進んだ。




