第41話 十三回目の朝
朝日が薄いカーテンを透けた。
目を開ける。
隣にカイがいる。
「おはよう」
「ああ。おはよう」
「ちゃんと言った」
「約束だからな」
声が少し掠れている。
寝ていないのはお互い様らしい。
朝食はいつも通りだった。
肉。
葉物。
パン。
「食え」
「食べてる」
「葉も」
「戦争前に野菜で揉めたくない」
「だから食え」
「帰ったら肉の煮込み作る」
「野菜も入れろ」
「予約?」
「ああ」
「今日は予約多いな」
笑う。
笑えることがありがたい。
玄関ホールでは、騎士たちが装備を確認していた。
カイは制服の上に黒い外套を羽織り、剣帯を締める。
俺も手袋、短剣、触媒石。
戦えない自分用に教授が用意した命糸固定具も腰へ下げる。
「ノア」
「何」
「今日は俺の後ろにいろ」
以前なら反発したかもしれない。
「糸を見る時は前に出る」
「ああ」
「危険なら言う」
「ああ」
「そっちも」
「分かっている」
命令ではなく、確認になっている。
俺は少し笑った。
「行こう」
「ああ」
カイが手を出す。
騎士たちの前だ。
少し迷って、握った。
誰も笑わなかった。
ただエリオットだけが、ものすごく見ないふりをしていた。
「見てるでしょう」
「見てません!」
ちょっと笑いが起きる。
その空気のまま、扉を出た。
死にに行くんじゃない。
帰るために行く。
そう思えた。
門前でエリオットが俺たちを待っていた。
「主任、これ」
「まだ主任じゃない」
「じゃあ未来の主任」
小さな薬瓶を押しつけられる。
「セシルから。血が止まりにくくなったら使えって」
「ありがと」
「あと、俺から一個」
エリオットは真顔になる。
「帰ってきてください」
軽口を返そうとして、やめた。
「うん」
「閣下も」
「分かっている」
「二人とも『分かってる』って言って無茶するから信用ないんですよ」
俺とカイは顔を見合わせた。
「それは否定できない」
「同感だ」
「そこで息合わせないでください」
エリオットが頭を抱える。
笑ってから、俺は薬瓶を胸ポケットへ入れた。
帰る理由がまた一つ増えた。




