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第35話 ラウルの証言

 ラウルは再拘束された。


 今度は自分から戻った。


 警護局の尋問室。

 両手に拘束具をつけたまま、いつものように背筋だけは綺麗に伸びている。


「逃げないんですか」


「疲れた」


「急に人間らしい」


「君は本当に遠慮がないね」


 カイは壁際に立ったまま、ほとんど喋らない。


 ラウルが彼を見た。


「まだ怒っている?」


「当然だ」


「そうだろうね」


 以前なら軽く笑ったはずなのに、今日は目を伏せた。


「十年前のことを話す」


 部屋が静かになる。


「灰月事件の三日前、私は地下礼拝堂に不審な荷が運ばれているという報告を受けた」


「なぜ上げなかった」


 カイの声が低い。


「密輸程度だと思った。王族警護を動かすには証拠が足りないと判断した」


「判断したのはお前だ」


「ああ」


「その結果、二十七人死んだ」


「ああ」


「俺の部下が」


「ああ」


 ラウルの顔が歪んだ。


「だから私は、君に責めてほしかった」


 カイが眉を寄せる。


「何だそれは」


「君は責めなかった。『お前だけのせいじゃない』と言った」


「事実だ」


「私はそれに救われなかった」


 初めて、ラウルの黒い糸の下にある青がはっきり見えた。


 友情。

 罪悪感。

 逃避。


「教団は、縁があるから苦しむと言った。私には都合がよかった」


「だから全部切ろうとした?」


 俺が聞く。


「そうすれば、誰も私を責めない。私も誰かを失って苦しまない」


「でも、失ったこと自体を無かったことにはできないでしょう」


「頭では分かっていた」


「じゃあ何で戻ったの」


 ラウルが俺を見る。


「君が『怖い時は怖いと言う』と言ったからだ」


「それだけ?」


「それができなかった人間には、大きいんだよ」


 沈黙のあと、ラウルは一枚の地図を差し出した。


「十三鐘の儀式は旧王都地下で起動する。核は王都に残るすべての縁を一度取り込み、十三回目の鐘で切断する」


「止め方は」


「起動前なら核を破壊する。起動後なら、先に市民の糸を切り離さないと巻き込む」


「それはノアにしかできない」


 カイの声が硬い。


「教団はそう見ている」


「白い仮面の男は誰だ」


 ラウルが初めて躊躇した。


「エドガー・セイン。元王立結糸研究所の主任研究官」


 教授が息を呑む。


「三十年前に死んだはずじゃ」


「死んでいない。自分の命糸を他人から切り離し、老化を止めた」


「そんなことが」


「代わりに、誰とも新しい縁を結べなくなった」


 俺は白い仮面の男を思い出した。


 縁は苦しみしか生まない。


 あれは思想ではなく、自分を正当化する言葉だったのかもしれない。


「エドガーは最初に妻と息子を疫病で亡くした。その後、結糸術で二人を戻そうとして失敗した」


 教授が目を閉じる。


「だから切る方へ行ったか」


「そうだ」


 反派がようやく人間の顔を持った。


 俺はそれでも好きにはなれない。


 でも、何を憎んでいるのかは分かった。


「ラウル」


 カイが初めて名前を呼ぶ。


「裁判から逃げるな」


「今度は逃げない」


「俺に許されようとするな」


 ラウルが苦く笑った。


「それも、やめるよ」


 青い糸が少しだけ太くなった。


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