第29話 謝るのは負けじゃない
カイが戻ったのは翌日の夕方だった。
丸一日。
その間、俺たちは必要な報告だけ伝令経由でやり取りした。
馬鹿みたいだ。
でも顔を見たら、また何か言いすぎそうで怖かった。
玄関で鉢合わせる。
肩の包帯が新しくなっている。
「どこいたの」
「警護局」
「寝た?」
「少し」
「嘘」
「お前ほど下手じゃない」
「目の下」
カイは返さない。
俺も黙る。
その夜の食卓は最悪だった。
皿の音だけがする。
「昨日」
同時に口を開いた。
「先どうぞ」
「お前が言え」
「こういう時まで譲り合い?」
少しだけ空気が緩む。
俺は息を吸った。
「教団と同じって言ったの、ごめん」
カイの指が止まる。
「怒って言いすぎた。あんたは俺を消したいわけじゃない」
「ああ」
「でも、閉じ込めるって言われたのは本当に嫌だった」
「分かった」
「本当に?」
「考えた」
カイが視線を上げる。
「守ることと、支配することを混同した。お前が危険へ行くたび、十年前と同じになる気がした」
「……怖かった?」
「ああ」
初めて、こんなにはっきり言った。
「怖いから命令した」
「うん」
「それは違った」
「……謝れるんだ」
「台無しにしたいのか」
「ちょっと感動して」
俺は笑い、すぐ真面目に戻る。
「ルール作ろう」
危険区域へ単独で行かない。
囮作戦は必ず事前に共有する。
普通の外出に許可はいらない。
怒っても無断で一晩消えない。
どちらかが「止めて」と言ったら一度止まる。
「最後のは必要か」
「一番必要」
「分かった」
「俺も守る」
手を差し出す。
カイは握った。
「糸」
「見える?」
「うん」
「どうなってる」
「昨日より細い」
顔が曇る。
「でも切れてない」
「……そうか」
「結び直せると思う」
「俺たちで?」
「たぶん」
カイの指が少し強くなる。
「なら、そうしよう」
喧嘩しても切れない。
いや、違う。
切れないんじゃない。
切れかけた時に、二人で結び直せる。
俺が結び目へ触れると、向こう側からカイの指が同じ場所を押さえた。




