第28話 初めて本気で喧嘩した
屋敷へ戻ってからも、カイはほとんど口をきかなかった。
治療係が肩の傷を縫う間、俺は向かいの椅子に座っていた。
「痛そう」
「平気だ」
「その言葉、信用してない」
いつもの返し。
でも今日は笑わない。
治療係が出ていったあと、カイはようやく口を開いた。
「もう二度と囮になるな」
「今回の作戦、俺が勝手に決めたんじゃない」
「断れた」
「必要だった」
「必要なら死んでもいいのか」
「そういう話じゃない」
「俺には同じだ」
声が低い。
俺も腹が立ってきた。
「じゃあどうするんです。ずっと屋敷に閉じ込める?」
「必要なら」
その一言で、空気が変わった。
「……本気?」
カイの表情がわずかに揺れた。
「今は、お前を失うよりましだと思っている」
「それ、守るって言わない」
「なら何だ」
「支配」
喉が熱い。
「俺はあんたの能力じゃない。鍵でも、保護対象でもない」
「分かってる」
「分かってない!」
声が響いた。
自分でも驚くほど怒っていた。
「俺は怖かった。攫われて、目が覚めて、あんたが怪我して入ってきて。本当に怖かった。でも、それでも俺の人生を全部あんたに預けたくない」
「お前は危険を軽く見すぎる」
「あなたは俺を失うことを怖がりすぎる!」
カイの顔が凍る。
言ってはいけないところへ触れたと分かった。
でも止まれなかった。
「何も繋がらなければ失わないって、断糸教団と逆向きなだけで同じでしょう。あんたは全部切るんじゃなくて、俺を握り潰す」
沈黙。
「……そう見えるのか」
怒鳴られるより痛かった。
「今は」
やっとそれだけ言う。
カイが立ち上がる。
「分かった」
「どこ行くの」
「頭を冷やす」
「怪我してるのに」
「お前に閉じ込められたくない」
皮肉。
扉が閉まった。
胸の銀赤の糸が、ほんの少し細くなる。
その夜、カイは戻らなかった。
俺も追わなかった。
広いベッドに一人で寝て、何度も目を覚ました。
腹が立っている。
でも同じくらい、傷つけた。
朝が来ても、答えは出なかった。




