第27話 攫われるならもう少し格好よく
俺は攫われた。
ただし、前回みたいに知らない伝言へほいほいついて行ったわけではない。
西区で見つかった黒糸の発信源を追うため、警護局は偽の輸送記録を流した。
囮役は俺。
護衛は三人。
カイは反対した。
『危険すぎる』
『危険だから罠を張るんでしょう』
『お前が餌になる必要はない』
『俺にしか残滓が見えない』
最後まで揉めたが、国王命令で実施された。
問題は、教団が俺たちより一枚上だったことだ。
護送馬車が路地へ入った瞬間、前後の石壁が崩れた。
黒煙。
視界が消える。
「ノア!」
誰かの声。
口元を布で塞がれた。
薬品の匂い。
目を覚ます。
地下室。
手首は縛られている。
「……攫われるなら、もう少し格好よく攫われたかった」
「自覚があるなら元気そうだ」
聞き覚えのある声。
「ラウル侯爵」
男は椅子に座り、ひどく疲れた顔をしていた。
「裁判待ちでは?」
「協力者がいる」
「警備、あとで全員怒られるな」
「君は自分の心配をした方がいい」
ラウルから伸びる黒い糸は、以前より薄い。
黒だけではない。
遠い過去へ伸びるような、細い青が下に残っている。
「何がしたいんです」
「君をカイから離したい」
「何で」
「彼は儀式の鍵だ。君が傍にいる限り、彼は必ず中心へ来る」
「それ、俺を助けたいんじゃなくて、カイを動かしたいだけでしょう」
ラウルが黙る。
「昔からそうなんですか」
「何が」
「自分で選んだって言わないの」
青い糸が震えた。
「君は何も知らない」
「じゃあ教えて」
ラウルは長く黙り、ようやく口を開いた。
「十年前、私は灰月事件の事前情報を掴んでいた」
息が止まる。
「だが確証がなく、王宮へ上げなかった。結果、カイの部隊は壊滅した」
「……」
「彼は生きた。私を責めなかった。それが一番耐えられなかった」
だから断糸教団へ?
「繋がりがなければ、失敗も喪失もない。そう思いたかった」
「それ、楽になりたいだけじゃないですか」
「そうだよ」
初めて、ラウルは笑わなかった。
外で爆音がした。
地下室全体が揺れる。
「来たか」
「誰が?」
聞く必要もなかった。
扉が外側から吹き飛ぶ。
煙の向こうにカイが立っている。
肩に血。
目だけが異様に冷たい。
「ノア」
「はい」
「怪我は」
「ない」
「そうか」
そこで初めて息を吐いた。
次にラウルを見る。
「カイ、殺さないで」
「理由は」
「聞きたいことがある」
「……分かった」
剣先が一寸だけ下がる。
ラウルが目を見開いた。
「君、本当に変わったな」
「誰のせいだと思ってる」
その言葉が、俺を指していると分かるまで一拍かかった。
救出後、カイは俺の額を小突かなかった。
怒鳴りもしなかった。
ただ、帰りの馬車でずっと黙っていた。
その沈黙の方が、ずっと怖かった。




