第24話 主役じゃない男
翌日、エリオットの恋人に会った。
「こちら、セシル」
背の高い薬師の男が軽く会釈する。
「ノアさんの話、よく聞いてます」
「悪口?」
「半分」
「エリオット」
「褒めてもいるって!」
セシルとエリオットの間には、太すぎない赤と青が混じった糸がある。
綺麗というより、よく使われた縄みたいだった。
「恋人の糸ってもっと赤いと思ってた」
つい口にすると、セシルが首を傾げる。
「色が違うんですか?」
「うん。二人のは青が強い」
「友達っぽいってこと?」
「たぶん。あと信頼。喧嘩もする?」
「します」
エリオットが即答した。
「昨日も」
「言わなくていい!」
笑い声が上がる。
隣のカイを見ると、珍しく機嫌がいい。
「何です、その顔」
「普通だ」
「エリオットに恋人いるって分かった瞬間、空気軽くなった」
「気のせいだ」
「嫉妬してた?」
「してない」
「即答」
「お前に関わる人間は把握する」
「それを世間では何て言うか知ってます?」
「護衛」
「便利な言葉二回目」
帰り道、セシルの言葉が妙に残った。
『糸が見えるって、自分の人生も答え合わせみたいになるんですか?』
「俺、ずっと誰かの物語の脇役みたいに思ってたんですよ」
カイがこちらを見る。
「急だな」
「孤児で、三等鑑定官で。能力も中途半端で。特別な人間の横に立つ役じゃないっていうか」
「今もそう思うのか」
「最近は違う」
足元の石畳を見る。
「俺の人生では、俺が主役なんだなって」
「当たり前だ」
「閣下は生まれた時からそういう顔してそう」
「どういう顔だ」
「世界の中心」
「興味ない」
「じゃあ何が中心?」
冗談で聞いた。
カイはすぐには答えなかった。
数歩歩いてから言う。
「今、一番失いたくないものなら、お前だ」
歩幅を乱した。
「……急に強いのやめて」
「聞いたのはお前だ」
「そうだけど」
銀赤の糸を見る。
光っている。
でも、それ以上に困るのは、見えなくても今の言葉が消えないことだった。




