第18話 好きかもしれない
「好きなんじゃない?」
ミラは容赦がない。
「かもしれない」
「進歩した」
「うるさい」
「前は知らないって言ってた」
「今も確定じゃない」
「キスしかけたのに?」
「事故」
「口と口がぶつかりそうになる事故?」
「あるかもしれない」
「ない」
俺は茶を飲んだ。
「でも命糸の影響かもしれない」
「まだそれ言う?」
「大事だろ」
「じゃあ糸がなくなったら嫌いになる?」
答えようとして、止まった。
想像する。
カイとの糸が消える。
朝起きても隣にいない。
肉の好みを覚えている人もいない。
雨の日に手を繋がない。
俺が遅く帰っても怒る人がいない。
胸が苦しくなった。
「……嫌だな」
「何が?」
「糸がなくなるの」
「はい、答え出た」
「雑だって」
ミラは笑う。
「恋なんてだいたい雑だよ」
「名言っぽく言うな」
「で、いつ告白するの?」
「何で俺から」
「向こう待ってるじゃん」
「何を根拠に」
「見れば分かる」
「俺より鑑定官向いてる?」
「恋愛専門ならね」
その日の夕方。
俺はカイの執務室へ行った。
「話あります」
「座れ」
「今いい?」
「ああ」
「事件の話じゃない」
カイのペンが止まる。
「そうか」
心臓が速い。
何を言うつもりだったんだ、俺。
「……好きかもしれない」
言った。
カイは動かない。
「何か言って」
「今、考えている」
「前もそれ言った」
「急に言うからだ」
「悪かったですね」
「違う」
カイが立つ。
机を回り込む。
俺の前で止まる。
「もう一度」
「嫌です」
「なぜ」
「恥ずかしい」
「俺は聞きたい」
「一回で聞け」
「ノア」
「……好きかもしれない」
「かもしれない?」
「そこ詰める?」
「大事だ」
「じゃあそっちは」
「好きだ」
即答。
「……」
「好きだ、ノア」
「二回言うな」
「お前が聞いた」
「そうだけど」
顔が熱い。
「いつから」
「分からない」
「雑」
「気づいた時には、お前が他の男と話すのが嫌だった」
「かなり早いな」
「ああ」
「命糸のせいかも」
「それでもいい」
「よくないでしょう」
「なぜ」
「本当に俺を好きか分からない」
カイが俺の頬に手を添えた。
触れ方は驚くほど慎重だった。
「糸が消えても」
「……うん」
「お前がうるさいことも、朝が弱いことも、肉ばかり食いたがることも、全部覚えていたい」
「悪口多くない?」
「好きだ」
逃げ道を塞ぐみたいに言う。
「ずるい」
「何が」
「それ言えば勝てると思ってる」
「勝ちたい」
「何に」
「お前に」
笑ってしまった。
「じゃあ」
「何だ」
「事件終わったら、ちゃんと考える」
「今じゃ駄目か」
「今は王都救うのが先」
「さっき俺が言った時は知らないと言ったくせに」
「学習した」
「遅い」
「待てる?」
カイは少し黙った。
「待つ」
「偉い」
「ただし」
「またある?」
「終わったら逃げるな」
「努力します」
「約束しろ」
「……約束する」
期限まで、あと十六日。
恋愛どころじゃない。
なのに、その夜は少しだけ世界が明るく見えた。




