第17話 目を覚ましたら抱きしめられていた
最初に感じたのは、温かさだった。
次に、重さ。
「……重い」
声が掠れた。
腕が動く。
「ノア?」
カイの声。
目を開ける。
天井。
公爵邸の寝室。
そして、俺の上半身を抱き込むようにして眠っていたカイ。
「近い」
「生きてる?」
「第一声それ?」
「答えろ」
「生きてます」
腕が強くなる。
「痛い」
すぐ緩む。
「……三日」
「何が」
「お前、三日寝てた」
「まじ?」
「二度とやるな」
「何を」
「自分の命糸を使うな」
「でも」
「二度と」
カイの顔を見る。
怒っている。
いや、泣きそうだ。
「怖かった?」
「……」
「カイ」
「当たり前だろう」
胸が詰まった。
「ごめん」
「謝るな」
「でも」
「生きてるならいい」
額が肩に落ちる。
黒髪が頬に触れた。
「カイ?」
「少し黙れ」
「珍しいですね、俺に黙れって」
「いつも言ってる」
「そうだった」
俺は笑った。
背中に手を置く。
「傷は?」
「塞がった」
「見せて」
「今?」
「今」
「お前、寝起きだぞ」
「関係ない」
「前は脱げと言ったら変な顔したくせに」
「今も仕事です」
カイがゆっくり起きる。
シャツの襟を開く。
傷跡。
黒い紋様は薄くなっていた。
「消えてる」
「全部ではない」
「でも半分くらい」
指を近づける。
「触るぞ」
「どうぞ」
指先が胸に触れる。
硬い。
温かい。
心臓がちゃんと動いている。
ほっとする。
「……よかった」
顔を上げた。
近い。
カイが俺を見ている。
目線が一瞬、口元へ落ちた。
分かった。
俺も逃げなかった。
距離が縮まる。
あと少し。
扉が開いた。
「ノア! 起きたって――」
ミラ。
三人とも止まる。
「……」
「……」
「……続けて?」
「出てけ!」
枕を投げた。
ミラが笑いながら扉を閉めた。
「最悪」
「人生か」
「今回はミラ」
カイが肩を震わせた。
「笑うな!」
「すまない」
「絶対思ってない」
「少し」
俺も結局笑った。
キスは、しなかった。
でも、しなかったことが前よりずっと意識に残った。




