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第12話 まだ、じゃない

 孤児院の事件から三日。


 カイは過保護になった。


 前から過保護だったが、悪化した。


「一人で風呂に入れます」


「知っている」


「じゃあ何で廊下に立ってるんです」


「警護」


「風呂場まで襲撃者来ます?」


「可能性はある」


「のぞいたら殺しますよ」


「誰が見る」


「ちょっと間あった」


「ない」


 扉の向こうでため息が聞こえた。


 面倒くさい。


 でも、嫌じゃない。


 そこがもっと面倒くさい。


 昼、ミラが見舞いに来た。


「で?」


「何が」


「付き合った?」


「誰と」


「公爵様」


「何でそうなる」


「同居。毎日一緒。抱きしめられた」


「最後、誰に聞いた」


「警護局」


「情報管理どうなってんだ」


 ミラが菓子を食べる。


「好き?」


「……知らない」


「嫌い?」


「嫌いじゃない」


「好きじゃん」


「雑」


「キスした?」


「してない」


「遅」


「何が」


「十二日同居して?」


「事件調査してんだよ」


「事件とキスは両立するよ」


「名言みたいに言うな」


 扉が開いた。


 カイが入ってくる。


「何の話だ」


「キス」


 俺はミラの口を塞ごうとした。


 遅い。


「へえ」


 カイが俺を見る。


「違いますから」


「何が」


「全部」


 ミラが立ち上がる。


「じゃ、私は帰るね」


「待て」


「ごゆっくり」


「ミラ!」


 扉が閉まる。


 静かになる。


「……菓子食います?」


「要らない」


「そう」


 カイが向かいに座った。


「キスの話をしていたのか」


「ミラが勝手に」


「お前は」


「俺?」


「どう思っている」


「何を」


「俺とすること」


 心臓が跳ねる。


「直球すぎません?」


「遠回しに言う意味がない」


「ありますよ、情緒とか」


「お前がいつも答えろと言う」


「こういう時だけ素直になるな」


 カイは黙って待つ。


 逃げられない。


「……嫌ではない」


「そうか」


「でも、まだ分からない」


「何が」


「これが命糸のせいなのか、俺が自分でそう思ってるのか」


 カイの目が少し細くなった。


「俺も同じだ」


「え」


「お前に執着しているのが、呪いのせいかもしれない」


「自覚あるんだ」


「ある」


「執着」


「ああ」


「結構重い?」


「たぶん」


「自分で言うんだ」


 少し笑う。


「だから、急がない」


「……意外」


「何がだ」


「もっと強引かと」


「嫌がるお前に触って何が楽しい」


 胸に刺さった。


 さらっと言うな。


「ただし」


「まだある?」


「他の男と親しくするのは気に入らない」


「急がないんじゃなかった?」


「それとこれは別だ」


「めちゃくちゃ」


「知っている」


「じゃあエリオットと飯は」


「駄目だ」


「ラウル侯爵」


「もっと駄目だ」


「じゃあ誰ならいいんです」


「俺」


「一択?」


「ああ」


 俺は額を押さえた。


「付き合ってないのに」


「まだな」


 顔を上げる。


「……まだ?」


「違うのか」


 灰色の目がまっすぐ俺を見る。


 銀赤の糸が光る。


「知らない」


「なら、今はそれでいい」


「余裕ありますね」


「ない」


「そう見えない」


「顔に出さないだけだ」


「俺は出る?」


「全部」


「最悪」


「知っている」


 カイが少し笑った。


 その夜、ベッドに入ったあと。


 真ん中にはいつもの距離があった。


 でも眠る前、俺は自分から手を伸ばした。


「今日だけ」


「何が」


「手」


 カイは何も言わず握った。


 俺も何も言わなかった。


 まだ。


 その言葉が、前より少しだけ未来みたいに聞こえた。


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