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命の糸は、君にだけ繋がっている  作者: YunCang


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101/104

第101話 灰の中に残る声

朝飯のあと、俺たちは王都の記録室へ向かった。

机の上には、四種類の資料が置かれていた。

ユリウスの署名が残る焦げた告発書。

マティアス、北邸、俺たちの三か所に分けて保管されていた証拠の複製。

ゲオルクの尋問記録。

そして、国王の署名がある許可文書。

「これで全部ですか」

記録官が尋ねた。

「今回提出するものは、これで全部だ」

カイが答えた。

俺は焦げた告発書を見た。

端が黒くなっている。文字の一部も失われていた。火の中から拾い上げたとき、もう元の形には戻らなかった。

「この告発書は、ユリウスの署名が確認できます。ただし、失われた部分は読めません」

記録官が慎重に説明する。

「読めない部分を、ほかの資料から推測して書き足すことはしません」

「それでいい」

俺は言った。

燃えたものは燃えたままだ。

残った文字だけで、何が書かれていたのかを確認する。分からない部分は分からないまま残す。

それが、ユリウスの残したものを扱う方法だと思った。

「三つの複製は照合できています」

記録官が次の束を開いた。

「保管先も、それぞれ確認済みです。マティアス殿、北邸、ノア殿たち。三か所の記録に相違はありません」

「一つの場所に集めて、また失うわけにはいかない」

カイが言った。

「はい。原本が失われた事実も含め、保管経緯を記録します」

俺は一つずつ目を通した。

研究院に関する記録。

雪峡での実験。

RETURN計画に関わった人物。

ユリウスの告発。

それらを一つにまとめて、すべてが同じ人間の責任だと決めつけることはできない。

「ゲオルクの尋問記録は、こちらです」

記録官が別の束を差し出した。

そこには、エレナを成功例と呼んだゲオルクの発言も残っていた。

王国の所有する研究成果。

その言葉を、彼は何度も使っていた。

「この部分は、本人の発言として記録されています」

「そうだ」

カイは短く答えた。

「本人が何をしたかは、本人の言葉と、それ以外の証拠を照らして調べてください」

記録官が頷く。

「RETURN計画の公表は、すでに国王名義で済んでいます。今回の提出は、公表内容を新しく作るためではありません。個別の責任を確かめるためのものです」

「そのとおりだ」

俺は国王の許可文書を手に取った。

研究院の封鎖。

資料の保全。

関係者の拘束。

そして、隠蔽を行わない全面調査。

国王自身が、自分の名を使えと返してきた文書だった。

「国王が知らなかったという記録も、残してください」

カイが言った。

「知らなかったことは事実かもしれない。だが、それだけで責任がなくなるわけではない」

「分かりました」

俺は資料庫を燃やした兵士の記録も確認した。

家族を人質に取られていたこと。

命令書を渡した相手の顔を知らなかったこと。

家族がエリオットのもとへ送られたこと。

「この兵士についても、実行した事実と脅迫された事実を別々に調べてください」

「はい」

「誰が命令を渡したのか、まだ分からない部分もある。そこを勝手に埋めないでください」

「承知しました」

カイが俺を見た。

「よく覚えているな」

「お前が言ったことだから」

あの火の中で、カイは言った。

命令に従った事実は調べる。

脅迫された事実も調べる。

自分に決める権限はない。

あのときの言葉を、今度は記録に残す。

記録官は最後の確認を終え、資料を封じた。

「提出を受理します」

「お願いします」

俺は立ち上がった。

焼けた原本は戻らない。

ユリウスの告発も、完全な形では残っていない。

それでも、残った証拠まで消える必要はなかった。

机の上から、焦げた紙が運ばれていく。

今度は、誰かがそれを燃やすことのないように。

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