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命の糸は、君にだけ繋がっている  作者: YunCang


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第10話 俺のものじゃない

 王宮での報告会は嫌いだ。


 偉い人が多い。


 偉い人はだいたい話が長い。


「つまり、断糸教団は復活していると?」


 国王が聞いた。


「可能性が高いです」


 俺は答えた。


「そして彼らは人間関係そのものを魔術資源として扱っている」


「恐ろしい話だ」


 会議が終わった。


 廊下へ出たところで、王弟の息子――ラウル侯爵に呼び止められた。


「君がノアか」


「はい」


「面白い目を持っているそうだな」


「普通の茶色です」


「そういう意味じゃない」


「知ってます」


 ラウルは笑った。


 四十前後。柔らかい印象。


 でも糸が妙だ。


 普通に見える。


 ただ一本、黒い糸が袖の奥へ消えている。


「今度、私の屋敷にも来ないか」


「仕事ですか」


「半分は。もう半分は興味だ」


「何に」


「君に」


「それは困ります」


 低い声が割り込んだ。


「何がだ」


 カイ。


 いつの間に来た。


「おや、従弟殿」


「その呼び方はやめろ」


「昔からだろう」


 ラウルが俺に向き直る。


「彼は昔から愛想がない。君も苦労するね」


「まあ、それなりに」


「ノア」


「何です」


「行くぞ」


「まだ話してます」


「終わった」


「誰が決めたんですか」


「俺だ」


 また襟首を掴まれそうになったので避けた。


「自分で歩きます」


「なら来い」


 ラウルが楽しそうに手を振る。


「またね、ノア」


「はい」


「またはない」


「閣下」


 角を曲がったところで俺は止まった。


「またですか」


「何が」


「嫉妬」


「違う」


「前も聞いた」


「なら聞くな」


「ラウル侯爵、嫌い?」


「好きではない」


「俺に話しかけたから?」


「違う」


「じゃあ屋敷行っても」


「駄目だ」


「ほら」


 カイの眉間に皺が寄る。


「お前は俺の調査官だ」


「仕事上はね」


「俺の屋敷に住んでいる」


「警護上ね」


「俺と――」


 言葉が止まる。


「俺と?」


 胸の糸が強く光る。


 カイがそれを見られないのが惜しい。


「……繋がっている」


「それで?」


「だから」


「俺はあんたのものじゃないですよ」


 言った瞬間、カイの表情が固まった。


「分かっている」


 声が低くなる。


 俺は少し言いすぎたと思った。


「閣下」


「分かっている」


 彼は先に歩き出した。


 その夜。


 食卓が静かだった。


「肉、美味いですね」


「ああ」


「今日、厨房の人変わった?」


「知らん」


「スープ薄い気がする」


「そうか」


 重い。


「怒ってます?」


「別に」


「絶対怒ってる」


「怒ってない」


「じゃあこっち見て」


 カイが見る。


 本当に怒っている顔ではなかった。


 傷ついている。


 それに気づいてしまった。


「……ごめん」


「何が」


「言い方」


「事実だ」


「うん。でも」


 俺はパンをちぎる。


「俺、嫌ならここにいないです」


 カイの目がわずかに動く。


「帰る場所がないからだろう」


「宿くらい取れる」


「危険だ」


「それでも嫌なら逃げてます」


「……そうか」


「そう」


 少し沈黙。


「明日」


「何です」


「ラウルの屋敷には行くな」


「まだ言う?」


「危険だからだ」


「嫉妬じゃなく?」


「……両方だ」


 俺はむせた。


「急に認めるなよ!」


「お前が聞いた」


「聞いたけど!」


「食え」


「何でそっちが平然としてんの」


 カイは肉を切った。


 耳が赤かった。


 俺は、それ以上追及できなかった。


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