12-休日①~今日は絶対に、仕事をしない
結局、今日は大人しくしておくことにした。
理由は簡単。
怪我人だからだ。
ミレイユを見送った俺は宿の前で大きく伸び――ようとして、左肩に痛みが走ったので途中でやめた。
治療院からは安静にしろと言われているし、ミレイユからも安静にしろと言われている。
なので今日は仕事をしない。
人探しもしないし、揉め事にも首を突っ込まない。
HELP機能も極力使わない。
ただ静かに、平和な一日を過ごす。
完璧な計画だ。
とはいえ、一日中ベッドで寝ているのも性に合わない。
だから散歩でもしてみようと思う。散歩なら安静みたいなものだろう。
《外出は一般的に「安静」には含まれません》
(だまれ)
◇
この世界に来て、もう1ヶ月以上の日数が経った。
最初の頃は何を見ても珍しかった街の景色も、今ではだいぶ見慣れている。
それでも改めてこうやって街歩きをしていると今まで知らなかったものは多い。
俺が泊まっている宿があるのは、この王都でも庶民が多く暮らす区画だ。
石造りと木造の建物がごちゃ混ぜに並び、道幅も場所によってかなり違う。
大通りは馬車がすれ違えるほど広いが、一本裏路地へ入れば人が2人並んで歩くのがやっとという通りも珍しくない。
中央に近づけと道は石畳になり、建物も立派になっていく。
逆に外壁側へ向かえば土が剥き出しの道も増え、雨が降れば酷いことになる。
そして、金がある場所ほど夜も明るい。
王都中央の大通りには魔石を使った街灯がある一方、俺の宿の周辺では今でも油の灯りが現役だ。
文明レベルが統一されていないというか、金で露骨に生活水準が変わる世界だった。
「兄ちゃん! 焼きたてあるよ!」
「朝飯食ったばっかだからいらない」
「銅貨3枚だよ!」
「いらないって」
「じゃあ2枚!」
「値下げ早すぎるだろ」
露店のおばちゃんをかわしながら大通りへ出ると、昼前ということもあって、人通りは多い。
ただ歩いているのは人間だけじゃない。
獣の耳を持った奴もいれば、俺の胸くらいまでしかないのに横幅は倍くらいありそうな男もいる。
逆に俺より頭一つ以上背の高い女も歩いている。
この世界に来た直後は、そのたびに目で追っていた。
今では耳が生えている程度なら何とも思わない。
(それはそれとしても、あの猫耳やら尻尾はどういう作りになっているんだろうな)
人の環境への適応力はすごいと思うが、個人的にはいまだに完全には慣れないものもある。
「…………」
通りの反対側を、小太りの男が歩いている。
上等な服を着て、指にはいくつも装飾品。
その後ろには若い獣耳の女が2人と小さな少女が1人、少し距離を置いてついていく。
3人の首には同じ形の金属輪が嵌められていた。
――奴隷だ。
この世界に奴隷制度があること自体は、とっくに知っている。
借金で身分を落とす者もいれば、罪を犯して奴隷になる者、戦争や他国から流れてくる者、生まれたときからその身分の者もいる。
少なくともこの世界では、奴隷を所有すること自体は違法でもなければ労働力として重宝されている側面もある。
だから誰も気にしない。
俺が最初に見たときは思わず二度見した光景を、道行く人間は誰一人として振り返らない。
パン屋の店主も、荷車を引く男も、買い物帰りらしい女も、ああいう身分の人間がそこにいることを、当然のこととして受け入れている。
「…………」
俺も今さら声を上げたりはしない。
この世界には、この世界の仕組みがある。
俺1人が日本の常識を振り回したところでどうにもならないし、正義の味方になるつもりもない。
ただ慣れたかと言われると、見ても驚かなくなっただけだ。
「……これがこの世界の『普通』なんだよなぁ」
《回答が必要でしょうか》
(独り言だ)
《承知しました》
こういうときだけこいつは妙に素直な気がする。
さらに大通りを歩く。
服屋に武器屋、薬屋、食堂、酒場、魔道具を扱う店。
路地を挟んだ建物の上階には、洗濯物が干された住居らしい窓が並んでいる。
この辺りは俺の宿周辺より明らかに家賃が高そうだ。
「…………」
事務所。
ふと、そんな言葉が浮かんだ。
今は依頼人を宿の食堂で待たせたり、自分の部屋へ通したりしている。別にそれで良いと思っているし、そもそも探偵なんて名乗り始めたのもついこの間だ。
だがリディアから話を聞いたミレイユが依頼してきたように、紹介で客が増えて行くことを見越すなら、いつまでも安宿の一室というわけにもいかない。
何より、女将に全部筒抜けになる。
昨夜のミレイユとの一夜もどこまで把握されているのか、考えたくもない。
「店じゃなくて、小さい住居用の建物で十分だよな……」
1階を仕事場にして、2階に寝る場所にできるような空き家があれば理想的だ。
問題は金だが、この辺りはどう考えても高そうだし、もう少し下町寄りに――。
そこまで考えたところで、何の脈絡もなく昨日の夜のことが頭をよぎった。
ミレイユの赤くなった顔と女性らしい身体に、声を押し殺しながら悶える姿。
「…………」
やめよう。
昼間の大通りで思い出すことじゃない。
《心拍数の上昇を確認しました》
(解析するな)
《簡易解析は実行しておりません》
なんでこいつは余計なところだけ察しがいいんだ。
「……明日、ミレイユと飯か」
ミレイユの部屋で手料理を頂くことになっている。
明らかに依頼料を口実にしてたような気がするが、俺としては普通に飯を食って帰るだけ――。
「…………」
帰るよな?
「――見つけたぞ、てめえ!」
ミレイユとの食事を想像していたところに突然背後からの怒鳴り声で現実に引き戻された。
俺は内心イラつきながら振り返り、そこに立っていたチンピラの顔を見て……少し考えた。
「…………誰だお前?」
「ふざけんな! 忘れてんじゃねえ!」
年は20代半ばくらいだろうが男の年齢になんぞ興味はない。
細身で、服装だけは妙に派手だがよく見れば安物。
腰に短剣を差しているものの、使い込まれた様子もない。
つまりどう見てもただのチンピラである。
「テメェ、先月ぐらいに路地で!」
「おお……日付という概念を理解してらっしゃる」
「……あぁっ⁉︎」
「しかし2語以上の単語を利用した会話はまだ難しい……と」
「てっ、テメェ、っざけんなよ!」
なにやら激昂している男の顔を見て思い出した。
「で? ガルドだっけ」
「――っ⁉︎ そっ、そ、そうだよ! 思い出したか! てか、俺の名前覚えてるのかよ!」
この街へ来た直後、俺から金を巻き上げようとしてきた奴だ。
当時の俺は、この世界の金の価値も治安もよく分かっていなかった。
そんな状態で路地を歩いていたら、こいつと仲間2人に囲まれた。
金を出せと言われたので、先手必勝と思い前蹴りからの鉄拳制裁で終わり。
3人とも思った以上に弱く、これがこの世界の標準なのかとあやうく間違えた知識を手に入れるところだった。
そういう意味では確実に俺が被害者であり、賠償金を支払って欲しい。
「それで、何? 賠償金払ってくれるのか?」
「ば……ばいしょ……じゃねえよ! テメェあのときはよくもやっ――ぶへらっ」
とりあえずガルドの腹へ革靴を突き入れて黙らせる。
金も払わない、往来の邪魔になっている、左手が使えないから右足だ。
「……ぐっ……おま……?」
「左足がよかったか?」
ガルドが黙った。
「……怖いならそう言えよ?」
「怖くねえよ!」
「じゃあやるか」
「…………今日はやめといてやる!」
「そうか……」
ならばこれ以上、こんなチンピラに対して超絶貴重な俺の時間を使うことは無駄すぎる。
ガルドを無視して、俺はそのまま歩き出した。
「待て待て待て!」
「何だよ」
「普通こう、もうちょっとあるだろ! 久しぶりに因縁の相手と再会したんだぞ!」
「いやお前また負けたじゃん」
「まだ負けてねぇ!」
面倒くさい。ガルドが横へ並んでくる。
「いいか! 勘違いすんなよ! 俺はあの日のこと忘れてねえからな! いつか絶対泣かせてやるから覚えとけ!」
「はいはい」
「その余裕が気に食わねえんだよ!」
「じゃあ今やる?」
「……今日は調子が良くない」
横腹を押さえながらガルドが目を逸らした。じゃあさっさとどこかに行って欲しい。
「それよりお前、最近なんか変な商売始めたらしいじゃねえか」
「なんで知ってんの?」
「舐めんなよ。俺はこの辺じゃ顔が広いんだ」
「へえ」
「なんだその反応」
「お前みたいなやつでも社会に役に立つことあるんだなと思って」
「喧嘩売ってんのか!?」
「買えるのか?」
「…………いつか買ってやるよ」
そこは『売ってやる』だろ。
頭も喧嘩も弱い。
しかも本人もそれをよく分かっている。
悪党ぶってはいるが、この辺りの人間からすればチンピラというより、声のでかい迷惑な奴くらいの扱いなんだろうか。
実際、さっきから大声を出しているのに周囲の人間は怯えるでもなく、八百屋のおっさんなんて、こっちを見て笑っている。
「で、何の用で声かけたんだお前」
「別に用なんかねえよ。たまたま見つけたから、今度こそ――」
ガルドが何か言いかけたところで。
「や、やめてくだされ……その袋は、わしの薬代でしてのう……」
少し離れた路地の入口から、しわがれた声が聞こえた。
2人の男が、1人の小さな婆さんに絡んでいるのが見えた。
深く刻まれた皺に、ほとんど真っ白な髪。腰は曲がり、手には古びた杖を持っている。90は越えているんじゃないだろうか。
その老婆が抱えていたらしい小さな布袋を、男の1人が掴んでいた。
「薬代だろうが何だろうが、こっちには関係ねえんだよ。通りたきゃ払えって言ってんだ」
「おぬしら……年寄りから金を取っても、たいして入っておらんぞ?」
「だったら全部出せばいいだろ」
「それを取られると、困るんじゃ……」
「…………」
俺はガルドを見るとガルドも向こうを見ている。
「お前の知り合い?」
「知らねえよ」
「そうか。じゃあ俺は散歩の続きするから」
「……は?」
「俺、昨日暴漢に刺されて今日は絶対安静だから」
「いやいやいや、待てよ! あれ見て帰んのかよ」
「衛兵を呼べばいいだろ」
「…………」
ガルドの顔が妙に歪んだ。
「チッ……おい! てめえら!」
「…………」
何やってんだ、あいつ。
ガルドは肩を怒らせながら2人へ近づいていく。
「昼間っから婆さん相手に何やってんだよ。随分と景気のいい商売してんなあ?」
「あ?」
「見逃してやるから、とっとと消えな!」
完全にチンピラ同士の会話になった。
暴漢の1人がガルドを睨む。
「お前、誰だ?」
「俺を知らねえのか? この辺じゃちょっとは名の知れた――」
「知らねえよ」
「…………」
あ……ちょっと傷ついた顔した。
「と、とにかくだ! 婆さんから手ぇ離せ。じゃねえと――」
男がガルドの胸ぐらを掴んだ。
「じゃねえと、何だ?」
「…………」
ガルドがなぜかこっちを見る。
俺を見るな。
だが次の瞬間、ガルドはそのまま容赦なく殴られた。
「ぶっ!?」
ガルドが地面を転がる。
「弱っ」
「う、うるせえ!」
もう1人の男が笑う。
「なんだこいつ」
「し、仕方ねえだろ! てめぇが思ったより強えんだよ!」
そういう問題じゃないと思う。
ガルドが立ち上がろうとしたところで、今度は別の男がガルドの腹を殴った。
「ぐえっ!」
「お前も金置いてけ。そしたら許してやるよ」
「ふ、ふざけんな……! 誰がてめえなんかに――」
一撃でぼろぼろになってしまったガルドはそれでも暴漢に吠える。
なかなか若々しくて眩しく見えるかもしれないが、いい加減に見飽きてきた。
「おい——邪魔だ退けろ」
「なん……ぐぁっ⁉︎」
俺が通りたいと思っている路地を塞いでいるアホどもを前蹴りで排除する。
綺麗に鳩尾へ靴先がめり込み、メキッと少し嫌な音を立てつつ暴漢の1人が道の端へ転がった。
「お前も寝てろ」
「ああ!? なんだテメ――」
もう1人の男が俺に拳を振り上げる前に右足を払い、倒れたところに喉目掛けて全体重を乗せた膝で一撃を入れる。
2人の男は地面に転がったきり、そのまま動かなくなった。
「…………」
「兄貴!」
「誰が兄貴だ!」
「さすが兄貴っす!」
「怪我人なんだよ! 触んな! 先日肩に短剣ブッ刺されたんだぞ」
「た、短剣で刺されて……えっ、なにやってんすか兄貴」
「だから兄貴じゃねぇ!」
「ほっほっほっ」
抱きつこうとするガルドを良い加減黙らせようかと思い始めた時、突然婆さんの笑い声が聞こえた。
「いやあ、若い男が2人もわしのために喧嘩してくれるとはのう。長生きはするもんじゃ」
「1人は一発で負けてたけど」
「俺だって頑張っただろ兄貴!」
「ほっほっほ。そっちの兄ちゃんも、なかなか男前じゃったぞ」
「ほ、本当か?」
「殴られて転がるところなど、若々しくてよかったわい」
「それ褒めてんのか!?」
婆さんは楽しそうだ。
暴漢に絡まれていた割には、随分と肝が据わっている。
「婆さん、怪我ないか?」
「大丈夫じゃよ。金も取られずに済んだしの。ありがたいことじゃ」
俺を見る婆さんの白く濁りかけた目が細くなるのがわかった。
「それにしても、あんたはいい男じゃのう」
「ガルドも一応助けようとしてたぞ」
「わしゃ強い男の方が好みじゃ」
「おい婆さん!」
「ほっほっほ!」
90を越えても男の好みは変わらないらしい。
「ところで、婆さん、名前は?」
「わしか? マーサじゃよ。もう90を越えてからは歳を数えるのもやめたがの。あんたは?」
「レイジ」
「レイジか。覚えたぞ」
婆さん――マーサが俺の右腕をぺたぺた触る。
「おい」
「ほう。細く見えるが、ちゃんと肉がついとる……が、剣士や武闘家ではなさそうじゃの」
「触るな……ただの探偵だよ」
「探偵……とな?」
「まぁ、平たく言えば人助けを生業にしてるってとこだ」
「穿鑿屋みたいなもんかのぅ……わしももう少し若ければ、今晩にでも連れ込んでおったんじゃがのう」
「あと何年若ければ?」
「80年くらい若けりゃのぅ」
「若返りすぎだ」
「ほっほっほ!」
元気すぎる。
「婆さん……あー、マーサさんの家はどこだ? 散歩ついでに送っていってやるよ」
「南西の古い職人街じゃよ。ここからじゃとちいと遠いのう」
「…………」
ガルドがそれに反応した。
「婆さん、あの辺に住んでんのか?」
「そうじゃが?」
「最近あそこ、治安良くねえだろ。しかも婆さん1人でこんなとこまで来てんのかよ」
「昔から住んどるからのう。今さら引っ越す気にもならんよ」
「治安悪いって、何かあったのか?」
俺が聞くと、ガルドが少し声を落とした。
「最近、妙な連中が増えてんですよ。前は夜だけだったんですが、最近は昼間も連中がウロウロしてるんです」
「妙な連中?」
「聞くところによると薬らしいっす」
「薬?」
「しかも普通の薬じゃねえ。飲むと気分が良くなるとか、疲れが全部吹っ飛ぶとかいうやつ。あの辺の路地で売ってる連中がいるらしくて」
なるほど、それを聞くだけで面倒くさい。
「その薬は違法なのか?」
「俺は薬なんか詳しくねえんですが、まともな薬屋じゃ売ってねえって話ですよ。最近はそれ目当ての奴とか、売ってる奴とかで夜になると雰囲気が悪いんだ」
「へえ……」
「兄貴、なんですかその顔」
「いや。お前、思ったより情報持ってるな」
「だから俺は顔が広いって言ってるじゃないですか!」
こいつ、情報屋として意外に使えるんじゃないか? アホだが。
「この転がってる連中も、その辺と関係ある?」
「それはわかんねぇっす。ただ俺は見たことのない男だってのは確かです。ただ、最近あの辺でガラの悪い奴が増えたのは本当です」
「ほっほ。わしからすれば、あんたら2人も十分ガラが悪いがの」
南西の古い職人街か……特に理由はないが少し気になった。
「ちなみにそこって、どんなところだ?」
「昔は職人とか小さい商人が多かったところですよ。住居と工房が一緒になってる建物が多くて。今は空き家も結構ありますけどね」
「……空き家?」
「ありますよ。古いし、場所も微妙だし、そこに最近妙な奴らが増えたんで余計に安いんじゃないですか?」
「…………」
仕事場と住居が一緒になっている空き家が多い。
しかも安いか……治安だけは少し気になるが、それ以外は悪くない気がする。
「何なんすか、兄貴。急に食いついたじゃないですか」
「別になんでもねぇよ」
「ほっほっほ。何じゃ、レイジ。家でも探しとるのか?」
「まあ、そのうち仕事用の場所があってもいいかなとは思ってる」
「ほう」
マーサが目を細め俺に視線を向けた後、特に何かを言うこともなく杖をつきながら歩き出そうとする。
だが、その足取りはさすがに遅い。
「ほれ、エスコートしてくれるんじゃろ?」
「まぁ家までは送ってくよ、暇だしな」
「ほっほ。わしを口説いとるのか?」
「違う。途中でまた絡まれたら面倒だから」
「つれないのう」
マーサはそう言いながら、随分と嬉しそうに笑った。
「ガルド、案内頼んだ」
「任せてください!」
ガルドが意気込んでいる横で、マーサが俺の右腕へ手を伸ばしてきた。
「では、若い男の腕を借りるとするかの」
「杖あるだろ」
「年寄りには優しくするもんじゃ」
「さっき普通に歩いてたじゃん」
「急に足腰が弱ってきた」
「都合いいな」
「90を越えると、身体なんぞ急に悪くなるもんじゃよ」
絶対嘘だ。
俺は仕方なく右腕を貸すと、マーサは満足そうに掴まった。
「うむ。やはり若い男はええのう」
「婆さん、これ目的だろ」
「さて、何のことやら」
隣でガルドが呆れた顔をしている。
「兄貴も物好きっすね」
「誰のせいでこうなったと思ってんだ」
そうして俺たちは南西へ向かって歩き出した。
今日は仕事をしないし人助けもしない。事件にも首を突っ込まない。
ただ、怪我を治すためにのんびり過ごすはずだったんだが、成り行きとはいえ妙なことになってしまった。
「ガルド」
「へい」
「その薬売ってる連中って、どの辺にいるんだ?」
「……兄貴」
「何?」
「絶対気になってますよね」
「別に」
「その顔で言っても説得力ねえっすよ!」
うるさい。
婆さんを家まで送るついでに街を見るだけ。
それだけなら、まだ休日の範囲だろう。
《簡易解析を実行しますか?》
(しなくていい)
《承知しました》
マーサを右腕にぶら下げ、前を歩くガルドについていく。
目指すのは王都南西の古い職人街。
空き家が増え、最近になって妙な薬を売る連中が出入りするようになったという地区。
もちろん事件を調べに行くわけじゃない。
今日はあくまで――休日だ。




