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心が読める義弟は姉を離さない  作者: あお


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ハッピーエンド2_終

 予想もしていない願いに国王は耳を疑い立ち上がる。次に名を呼ぶ筈の実の息子、シグルドへと視線を向けるも何故か意味ありげに頷かれ、更に困惑した。

 カイラスが結婚相手に許可を求めた女性の名前は、養子とは言え姉にあたる女性で、しかも第二王子の婚約者である。幼い頃の作法の低さに条件付きではあったものの、今ではこうして国だけでなく世界まで救った功労者として名を馳せた女性を婚約者の座から降ろす考えは毛頭なかった。

 そして


「国王陛下、いえ父上。このタイミングだからこそ言わせていただきます。私はジェーン・ヴァルモア侯爵令嬢との婚約を解消し、アリス・ランドール男爵との婚約を望みます!」


 更に混乱を招くように第二王子であるシグルドが尋ねられてもいない望みを言い始める。

 だがこれが計画通りの流れだった。バルタザール本人の乱入というハプニングはあったものの、ジェーンは父親が犯した罪で一家でまとめて処刑という展開を阻止することを願い、晴れて身も心も楽になったところで、シグルドが願いを告げる。

 正直、今までは王国の財政を担保してきたヴァルモア侯爵家であったが、極寒期が訪れ、物の価値が大きく変わったこの数年の間でヴァルモア侯爵家の資産は多く流れ出てしまった。破産するほどではないが、財政を担保するほどの資産力はもうない。

 それは早いうちから物資を集める様に提案したジェーンと、野生動物や野草の群生地を見つけ、早々にその土地を国のものに出来たアリスのお陰でもあった。

 その事実はしっかりとシグルドから国王へと話がされていることから、無理に婚約を押し切る気持ちはもうない。

 だが


「しかし、ジェーンよ。そなたはいいのか?」


 国王は尋ねた。そしてジェーンも答える。


「私はシグルド殿下とアリス様が愛し合っていることを知っています。それに他の女性に好意を抱いている男性の妻になる趣味は私にはありません」


 きっぱりと断りを入れるジェーンに国王は再び頭を抱えた。

 まるで仕組まれているような気もしなくもないが、それでも当人同士がいいのなら、もはや認めるしかない。


【まさか我が息子自ら後に回してほしいと話した理由がここにあったとは……】


 国王はふっと苦笑するとシグルドを見つめた後、ジェーンに移す。


「そなたも義弟との結婚を願っているとは……、ならばそなたに与えた免罪符をここで使うものとして、特別に兄弟間での婚姻を許そう」


 そう告げる国王にカイラスは喜んだが、ジェーンは違った。


「あ、の!私は!私は姉弟間での婚姻は望んでいません!」


「……だが、その為に免罪符を申し出たのだろう?我が国では近親婚は重罪として定めておるからな」


「私が免罪符を願ったのは、父の罪に巻き込まれたくなかったからです!」


 キョトンと首を傾げながら尋ねる国王にジェーンが答える。

 驚きながらもカイラスへと視線を向けた国王からは“一方通行の想いだったのかい”とでも思っていそうな視線が向けられた。

 事実その考えは正しい。カイラスの目には国王から伸びる吹き出しに【そなたの片思いかい!】と表示されていたからだ。


「ジェーン、僕はジェーンのこと好きだ。愛してる。だから結婚したい」


「そ、そんなこといっても困るわ……私たちは血が繋がっているのよ……?犯罪じゃなくても近親婚は…私はしたくない!」


【だって、ネットで見たもの!先天性疾患や発育障害の可能性が近親婚だと上昇するって!】


 真っ赤に染まるジェーンは、拒否する言葉を言っていてもそれが本心ではないことが誰の目から見ても明らかだった。

 カイラスへ呆れたような目線を送っていた国王も、ジェーンの反応を見て面白そうに見物し始める。どさりと玉座に座り直すと差し出された酒を一人飲み始めた。どうやら二人のやり取りを酒のつまみとしたらしい。


「血の繋がり?それが気になってるのか?」


「そうよ!近親婚がもたらすデメリットは将来子を考えた時に直面する問題だもの!」


「僕との子供まで考えてくれたんだな」


「うっ……そんな顔しても無駄よ!私の決意は固いから!絶対に頷いたりしないから!」


「僕とジェーンは血の繋がりがないと言ってもか?」


「だから…………………………え?」


 暫く続くと思っていた攻防は意外とあっさりと終わりを見せる。


「僕は母の愛人との間に出来た子なんだ。だからジェーンの父であるバルタザールとの血の繋がりはないし、勿論ジェーンとの血の繋がりもない。国王も僕たちの結婚を認めてくれたから、ジェーンが悩むことはないんだ」


「……え?えええええっ!?」


 カイラスの告白にジェーンの素っ頓狂な声が響き渡った。

 そして叫び終わったジェーンは両手で顔を覆うとぐるぐると目を回す。


【え、血が繋がってない……?ほんと?諦めなくていいってこと?】

【そんなこと作中に書かれてなかったじゃない!?あれ、もしかして番外編!?くそ!なんで読まなかった私!】【え、てかまって、私今、公開プロポーズ受けてるってことだよね!?他の貴族たちの前で!え、ええええええええええ!?】

 

 どうやら心の中でも絶叫している様子のジェーンにカイラスは楽し気に笑うと、優しい眼差しで見つめた。


「もしかして、嘘だと思ってる?」


 そう尋ねるカイラスはもう完全に楽しんでいる。

 ジェーンは顔を覆っていた手を退けると、カイラスを睨んだ。だが真っ赤な顔では威厳も何もない。カイラスの目には睨むジェーンも可愛らしく映っている。


【カイが嘘でこんなこと言わないってわかるけど……、でも他の貴族たちが変な噂をするかもしれない】

【あれ、てか私もう承諾した気になって……】

【でも私だってカイが好きなんだからいいよね!?ここは血の繋がりがないってことを証明してもらってからじゃないと今後に影響するもの!】

【でも待って、カイってばどうやって証明するの?DNA鑑定とかあったっけ?この世界】


 ポンポンと吹き出しが埋め尽くされていくジェーンはぐるぐると堂々巡りでもしているかのように、カイラスを不安そうに見たり、何かを決意したように見上げたりを繰り返す。

 そんなジェーンにカイラスは「いいよ」と答えた。


「え?」


 ジェーンはポカンと口を開けカイラスを見上げるも、カイラスは既に国王へと顔を向けていた。


「国王陛下、ここにもう一人召喚することをお許し願います!」


「よい、許そう。で、誰を望む?」


「僕の実の母を。あの方でなければ僕の血縁を語ることは出来ませんから」


「成程、国王の前で偽りを話せば罪となる。それを利用するわけだな。よしいいだろう!今すぐそのものをここへ連れてこい!」


 国王は楽しそうに笑うとカイラスの実の母を呼ぶよう指示を出した。ちなみに手にはワイングラスが握られていることから、相当楽しく見物しているようだ。

 そして連れてこられたカイラスの実母は、他の貴族がいる中で不貞を告白し、血の繋がりがない事実を隠しながらヴァルモア侯爵家へと送り出したことを話した。

 ある意味トラウマを植え付けられたカイラスからの復讐が達成できた瞬間であったが、そんなことよりも実母の証言により、ジェーンとカイラスの間に血縁関係がないことを証明できたことが嬉しかったのか、カイラスは満足そうに笑みを浮かべていた。

 カイラスはジェーンに「他に気になることは?」と尋ね、ジェーンはふるふると左右に首を振る。

 そしてようやくというようにカイラスはいった。


「ジェーン、僕と結婚してください」


 ボッと火が付いたかのように真っ赤に染まるジェーンだったが、カイラスの真っ直ぐな瞳に見つめられると、もう頷くしかなかった。

 血の繋がりはない。法的な問題もクリアした。自分が頑なに拒む理由は、もうどこにもないのである。

 ひざまずき求婚するカイラスに、貴族たちからはいつしか二人を応援するような、温かい眼差しが集められていた。


【もうこの状況、公開プロポーズが恥ずかしいとか言えないじゃない……!!】


 ジェーンは小さく息を吐き出すと、差し出されたカイラスの手にそっと手を添える。


「――はい。喜んで、お受けします」


 カイラスが立ち上がり、ジェーンを愛おしそうに抱きしめると、会場からはひときわ大きな祝福の拍手に包まれた。

 幸せそうに笑みを浮かべる元婚約者の姿に、シグルドは今度は自分たちの番だと、熱い眼差しをアリスへと向け、アリスもまたシグルドの眼差しに気付くと、嬉しそうに笑ったのである。






終わり

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