ハッピーエンド
◇
一か月後。
精霊の言った通り、凍り付いた空気は温かく心地の良い風へと変わった。厚く日差しを遮る雲は晴れ、太陽の光が大地を照らす。数年ぶりの暖かな陽の光に誰もが喜んだ。
そして王城では、平和を取り戻した功労者、そして極寒の中、貴族として民を守る施しをした者たちを、国を支えた功労者として称え、式典が開かれた。
功労者の一人であるジェーンはカイラスと共に華やかな衣装に身を包み、名を呼ばれるのを待っていた。
そしてジェーン、カイラスの名が読み上げられる。
「ジェーン・ヴァルモア、ならびにカイラス・ヴァルモア。前へ」
式典に参加する貴族たちの視線が一斉に二人へ注がれる。
ジェーンは緊張で指先が冷たくなるのを感じたが、隣に立つカイラスが笑みを浮かべ頷いてくれた。
“一緒に行こう”
言葉にはしていなくとも、ジェーンにはそう聞こえた。その温もりに支えられながら、ジェーンは赤い絨毯を踏みしめて玉座の前へと進み、立ち止まる。
玉座に座る国王は、深く刻まれた目元の皺を和らげ、慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
「よくぞ、この極寒の呪いから王国を救ってくれた。お前たちの勇気と献身がなければ、我が国は氷の下に沈んでいただろう。心から感謝する」
国王は立ち上がり、大広間全体に聞こえる声で告げた。
「功労者の一人であるジェーン、そしてカイラスよ。まずはそなたらの願いを聞かせてくれ。何でも望むものを言うが良い。出来る限り、願いを叶えよう」
どよめきが広がる中、ジェーンは一歩前に出た。そしてカイラスがその後に続く。
一か月前、シグルドと話し合った計画遂行のために、深く息を吸い、口を開こうとした、その時だった。
「――おお、恐れ多くも偉大なる国王陛下!我が娘ジェーンと息子カイラスに代わり、この父、バルタザール・ヴァルモアがその過分なるお言葉にお答えいたします!」
静寂を破る場違いな声が、列席者の席から響き渡る。
驚きに目を見開いたジェーンが振り返ると、着飾った父親のバルタザール・ヴァルモアが、ずうずうしくも歩いている様子が視界に映った。
「お父様!?何を……っ」
ジェーンの困惑を無視し、バルタザールは仰々しく国王の前に跪いた。その顔は娘と養子の手柄を我が物にしようと企んでいる様子が見え見えで、醜く歪んでいる。
「娘は内気で、自らの望みを口にするのも恐れ多いのです。ですから、親である私が代わりに願いを申し上げます。是非、王都に近い肥沃な領地と、昇爵を栄を賜りたく存じます!それこそが、我が娘、ジェーンの望みにございま――」
「黙れ、罪人が」
冷徹な声が、バルタザールの言葉を遮った。バルタザールの言葉を遮ったのは国王ではない。ジェーンの隣で激しい怒りを瞳に宿し、バルタザールを睨みつけるカイラスだった。
バルタザールはカイラスに遮られたことを自覚すると、顔を赤く染め眉を吊り上げる。
【こいつ!養子の癖に俺の邪魔をするとは!!】
だがバルタザールもバカではない。娘の功績を横取りしようとしたとはいえ、国王の前で功労者の一人であるカイラスを罵倒することは流石に出来なかった。
バルタザールは引きつく口角を上げながらもカイラスに「後で話をしよう」と無理やり作った笑みを浮かべながら話しかけるが、カイラスは返事をすることなく国王へと顔を向ける。
「国王陛下、今の言葉は僕たちの意ではございません」
「……わかっておる。だが、このままでは落ち着いて話も聞けぬだろう。……兵よ、この者を―—」
「お待ちください」
バルタザールの捕縛と退室を指示しようとする国王を遮ったのはまたしてもカイラスだった。国王は何故止めるのか、その意図がわからず眉を顰める。
「………そういえば、カイラスよ。先ほどお前はヴァルモア侯爵を“罪人”と言ったな。もしや、その言葉が絡んでいるのか?」
「はい。その前に、我が姉、ジェーンの願いを聞いては頂けませんか?」
カイラスは頭を下げてそう言った。国王はそんなカイラスを怪しむものの、一つ息を吐き出すとジェーンへと視線を向ける。
「……ジェーンよ、そなたの願いを申しなさい」
そう告げた国王にジェーンはカイラスへと目を合わせると頷く、そして再び国王へ顔を向け見上げるとこう言った。
「陛下、功績への褒美として……一度だけ、いかなる罪をも不問とする免罪の誓約を私とカイラスにお与えください!」
「なに……?」
ジェーンの言葉に周りは騒めいた。どういうことだと囁き合う声が次第に大きくなるも、国王の声で再び静まる。
「……理由を聞かせてもらおうか」
そしてジェーンは実の父親の罪を語り始める。途中でバルタザールがうるさい程に喚きだし、実の娘であるジェーンの口を塞ごうと襲い掛かるが、兵によって取り押さえられた。んーんーと唸る声が聞こえるものの、はっきりと話すジェーンの声を遮るほどではない。
話を聞き終えた国王は項垂れた。頭が痛いのか手で押さえ、眉間には深い皺が刻まれている。
「……よかろう。ジェーン・ヴァルモアならびにカイラス・ヴァルモア、そなたらの勇気ある行動から王子誘拐事件とは無関係とし、処罰を与えることはないことを約束する。そしてヴァルモア侯爵よ、そなたは余罪含めて調査を受けてもらう。いいな」
有無を言わせない迫力にジェーンは体を跳ねらせながら、連行されていく父親の姿を視界の端で見送った。あっけない最後だった。
国王は重く長い息を吐き出した後、カイラスへと声を掛ける。
「では、次にそなたの願いを聞こうとするか」
「え……?」
「そなたの姉、ジェーンの願いは一度限りの免罪符だが、まだそなたの願い事は聞いてはおらぬ」
カイラスはジェーンがジェーンと自分の免罪符を願った時点で、自分の願い事も含まれているものと考えていたために、尋ねられたことに驚いた。
だが願い事をするならば既に決まっている。カイラスはジェーンを見ると頬を赤く染め、そして国王へと告げた。
「ジェーン・ヴァルモアとの結婚をお許しください」
「なッ!?」
次がラストなので、続けて投稿します。




