能力者は説得する
「ジェーン、彼らは何と?」
「それが……、手伝いたくないって……。遺跡に書かれてあったように彼らは精霊で、大気に魔力を巡らせられれば環境も戻ると言っていたけど、昔大切にしていた人を殺されたから、人間を助ける様な事はしたくないって言っているの」
「大切にしていた人?」
「うん……、カズマって言って私と同じく精霊と言葉を通わせることが出来る人だったみたい」
カイラスは「そうか」と呟き少し考える様子をみせると顔を上げ、一歩前に出て飛び回る精霊たちに話しかける。
「聞いてくれ。君たちと話が出来る彼女は今不毛な婚約を強いられている!」
『コンヤク?コンヤクってなに?』
『何かされてるってことじゃない?』
『なら余計ここにいた方が安全じゃん!ここなら僕たちが守ってあげられるし、危ない人間も来ないでショ!』
「婚約とは、結婚し子作りする相手ということだ!だが、その婚約相手は愛し合っている僕ではなく、あそこにいる男なんだ!」
【え!?カイ!?何言ってるの!?】
ジェーンはカイラスの突然の告白に驚愕した。確かにジェーンは更に魅力的に成長したカイラスに惹かれているが二人は姉弟。一線を越えてなどいなく、家族として好きだと自身に暗示のように唱える日々を過ごしてきた。
それなのにジェーンの心を揺さぶるような発言をするカイラスに、ジェーンは驚く。ワタワタと視線を彷徨わせ、シグルドとギルバードの反応を気にしてはいたが、二人が動揺することもなく、静かに成り行きを見守っていたことが逆に不思議に思え首を傾げていた。
そんなジェーンを置いてカイラスと精霊たちの話は進んでいく。
『ひどい!何そレ!』
『カズマも言ってた!愛し合っている者が結ばれることが幸せなんだっテ!』
「ひどい話だろ!?だがあの男も好きな女がいるんだ!気持ちなど関係なく、勝手に婚約者と決められてしまった!いわば被害者なんだ!だから僕たちは互いの恋を実らせるために、外に出なければいけない!」
『なんで!?意味わからなイ!』
『ここにいれば君はあの子と子作りできるヨ!』
『そうだよ!外に出る必要なイ!』
「僕にはジェーンがいるが、彼はそうじゃない!彼の愛する女性は外の世界で帰りを待っている!だから帰らないといけない!そして彼とジェーンが婚約を破棄するためには、王への承諾が必要なんだ!」
『人間って面倒!難しイ!』
『バカ!カズマも貴族ってやつが面倒な立場って言ってたでしょ!きっとあの子たちは貴族なのヨ!』
『ならお前わかるのかヨ!理解したのか!?』
『あの金色の人間が子作りするには外に出て女のところに帰らないといけないってことヨ!』
『そういうことカ!』
『でも僕たちはもう悪い人間に魔法を使ってほしくナイよ……』
悲し気に目を伏せる精霊に、カイラスの話に耳を傾けていた精霊たちは同意し始める。
『そうだよ大気に魔力を巡らせると人間たちは悪用する!』『このままでいた方がいいんだ』そのように共感し始めた。
そんなやり取りを見守るジェーンはそわそわとしながらも、カイラスを不思議そうに見上げている。
【……なんで、話が通じているの?】
精霊は人間の言葉がわかっているようだが、カイラスはそうではないことは、最初に状況を尋ねられたことからわかったことだ。
それなのにジェーンの助けなく、会話を続けるカイラスにジェーンは疑問を抱く。
だがカイラスは能力を使っているわけでもなく、ただジェーンからの情報と精霊たちの反応で何を言っているのか推理しているだけだった。
精霊たちの反応は素直だ。嬉しい場合は笑い、怒るときは見た目でもわかるようにプンプンと怒る。悲し気な時は慰めたくなるような表情を浮かべる素直さを、感情をそのまま伝えてくれるからこそ、カイラスには何を言っているのかわかっていた。
「君たちは昔大切な人たちを同じ人間に殺されたから、人間を助けるようなことはしたくない。だから大気に魔力を満たせば吹雪も収まるが、それは人間に魔法を使わせることに繋がる。だから手を貸したくないと言っているんだろ?」
『そうだヨ!』
『だからここにいてよ!君たちは悪い人間じゃなイ!』
『僕たちとこうして話してくれル!楽しいんダ!』
『君たちの為ならなんだってするヨ!』
「あいにく僕には君たちの言葉はわからない。だけど、君たちが僕たちを嫌っていないことは伝わってくるよ。だから僕から提案したい」
『提案?』
『なに?』
「要は魔法を使える人間を制限すればいい。そうすれば君たちの不安は解決するだろ」
『そんなこと出来るわけがナイ!』
『そうだよ!魔力は大気中にあるんだヨ!?』
『それをどうやって制限するノ!』
カイラスの突拍子もない提案に憤慨する精霊たちに、カイラスは余裕のある表情で笑みを浮かべた。
「あそこにいる金髪の男はこの国の王子だ。君たちがこの環境を収めてくれさえすれば、王子の功績として報告することで、見合った報酬が与えられるだろう。そうすれば例え王太子に任命されていなくとも、国の運営に関わる発言が出来るだろう」
「そうでしょう?」とカイラスがシグルドに話を振ると、シグルドも「確かに魔法は便利なものと学んだが、使いようによっては国の治安も悪くなる。使える人を制限させる法は当然考えなければならないことだな」と話す。
『…つまり、どういうコト?』
『使っちゃいけない人と使ってもいい人を選別して、使っちゃいけない人が使ったらあの男が罰を与えるってコトじゃなイ?』
『お前頭いいナ!』
『アンタがバカなのヨ!』
まだ少し不安がる様子の精霊たちはそれでも、約束したことを守れることを信じると告げ、遺跡から外へと飛び出した。
どこに行くのかとジェーンが問うと、最後尾を飛ぶ精霊の一体が振り向きこう告げる。
『大気に魔力を満たしに行くんダヨ!僕たちが寝てる間、魔力もかなりなくなってるから、満たすには時間がちょっと時間がかかるかモ!』
「それってどれぐらいかかるの?」
『えー!人の言い回しはわかんないヨ!……あ、カズマはワンエムって言ってた!じゃあ、行くネ!』
精霊はジェーンにそう言うと他の精霊を追いかけるように飛ぶスピードを上げる。
あっという間に見えなくなった精霊たちに、残されたジェーンらは「とりあえず、王都に帰ろう」と遺跡を出た。
ジェーンは精霊の言う“ワンエム”という言葉に頭を悩ませる。ブツブツと「ワンエム、ワンは一だとして、エム……エム?エムってなに?」と呟いていた。
馬車に乗っても悩むジェーンにカイラスは話しかける。
「もしかしたら言葉通りじゃないかもしれない。何かの略だったりするかもしれないし、別の言い回しがあるかもしれない」
「別の言い回し……」
ジェーンはそう言うとハッと閃いた。エムとはMで、マンスリーを表す言葉であると、つまり一か月かかると精霊は教えてくれたのである。
ジェーンは直ぐにシグルドに伝えた。シグルドもまた後一か月で極寒期が終わるとわかるとニヤリとほくそ笑む。
「なんだか、凄い顔してますよ」
「仕方ないだろう。これでやっと前に進めると思えば笑いたくもなるってものだ」
そうは言ったが、シグルドのそれは喜びからくる笑みというよりは、なにか悪だくみをしているようなそれに見えるため、ジェーンは目を細めるだけで何も言わなかった。
「ということは、やっとジェーンと婚約を破棄してくださるんですね」
「そうだな。だが実際に許可が下りるのは天気の回復が確認出来てからになるだろう。流石に精霊も連れていけない今、証拠もなく“一月後には元に戻る”といっても誰も信じない。それでも話をすることは出来る。いや話をしなければならないと言った方がいいな」
シグルドの言葉に三人は頷いた。
大気に魔力を満たし、天気が回復すればやっとそれぞれの願いに向けて動くことが出来る。
シグルドはジェーンと別れ、アリスと婚約をすること、ジェーンはシグルドと別れ、侯爵家の問題を解決させること。そしてカイラスはジェーンと結婚するという願いに手をかけることが出来るという事だ。
そうと決まれば三人、いギルバートも含めた四人は話し合いをした。これからのことを話し、それぞれの願い事の為に協力し合う為に。
そして四人を乗せた馬車は長い時間をかけて、荒れる王都へと辿り着く。




