四年後
◇
四年が経った。
葉の一部が白く染まり、極寒期の到来だと気付いた前兆から一年後、生えている草木の葉は全て白く染まり、異様な光景が広がっていた。
雪も降っていないのに幻想的だと評価された声もあったが、王家より情報が開示されると人々の反応は一変した。資金があるだけ買い込むのは貴族や商会、平民はそんな人たちの購買運動にかなうわけがなく、十分な準備も出来ずに過ごすこととなった。
そして更に一年が過ぎると、本来は暑い夏の季節でも冷え込んだ風が吹き、青々としていた草木は枯れていった。勿論作物も徐々に収穫量が減り、市場に並ぶ食材には高値が付いていく。
そんな日々を繰り返し、四年が経った今深々と降る雪景色が広がっていた。
「いよいよね」
ジェーンは学生最後の年である十五の春、窓から白く染まる景色を眺めていた。
十歳から通いおよそ五年間、貴族としての人脈を築き上げながら必要な知識を得る学園で、殆どの時間を極寒期への対策準備期間としてあてていた。
備蓄関係は全てクリスとアリスに頼んでいるため、指示をするだけでよかったが、何故か錬金術師とやり取りするシグルド第二王子との間にジェーンも加わっていた。
完全に仲間として認めてくれたことは嬉しいが、元派遣社員でただの少しオタクなだけの女性に求めることではないと、ジェーンはいやいやながらもそれを口に出さずに話し合いに参加。人々が使える暖房器具についてのアイディアを生み出していたのだ。
そして形や仕組みに目途が経つと遂に製作に取り掛かる。ここまで四年の年月がかかった。だが形や仕組みが決まればあとは作り始めるのみ、本格的な極寒期が訪れたとしても十分に間に合うペースだろう。ジェーンはそう安堵していた時のことだった。
「ジェーン!すまないが今すぐ来てくれ!」
シグルドは焦った様子で現れるとジェーンの腕を掴み、所かまわず走り出す。その後ろをカイラスが追った。不機嫌そうに眉間に皺を寄せながらも、いまだ婚約関係を維持したままの二人に公の場で意見を言うわけにはいかなかった。
「な、なにがあったんですか!?」
ジェーンが必死に足を動かしながら問いかける。今まで行ってきたのは暖房器具に関してが主であり、十中八九それに関連することだと思いながらも詳細を求めた。だがシグルドは前を向いたまま答えない。
ジェーンとカイラスは結局現場に到着するまで教えられることがなかった。
「え………、つまり製作出来ないってことですか?」
錬金術師の元までやってきたジェーンは、項垂れながら差し出す書面に目を通す。そしてぎょっとしながら尋ねた。
「いえ、そうじゃないんです。理論的にはあってるんです。だけどあと一文字、あと一文字が足りなくて……!」
「一文字って言葉ってことですよね?」
ジェーンは首を傾げる。
仕組みの最終段階『これは光源を回路を編み出した時と同じ原理!いける!いけるぞお!』と勝手に盛り上がり、『出来たぁ!あとは作るだけ!』と目を輝かせていたのは錬金術師側であるのに対し、今更ながらに構築していた回路の理論が間違えていたとなれば話が変わってくる。
外装もそうだが、四年という期間にはこの熱を生み出す回路の構築が大半の割合を占めていたのだ。正直ジェーンも製品に取り付けられている基板の電気回路図などわからないながらも意見を出し、錬金術師が作り上げた回路の完成に両手を合わせて喜んだ。
それがたった一文字違っていたという理由で作ることが出来ないと言っている。何故わからなかったのか、シャンデリアに埋め込んだ光源の回路は成功しているのに、ありえないことだとジェーンは思った。
「……それが、おそらく地域性に関係があるのだと思うのです……。この国はアステリア王国、古代語で光という意味を持った国です。他にも水はネリア国、火はアグニア国といったように、元素を元につけられた名前の国があります。私が言いたいのは、この国が光の国だから、現代の言葉で回路を組んでも問題なかったという可能性です」
「つまり、今回の暖房器具に組み込むのは熱。つまり火の意味を持つ国以外では、回路に正確な古代語を組み込まなければ機能しない、ということですか?」
「その通りです……可能性ですけど」
「なら古代語で書けばいいじゃないですか」
「それが………」
錬金術師は瞳を左右に小刻みに動かし口ごもる。その様子を見たジェーンは嫌な予感がしてまずはシグルドを振りかえった。
だがシグルドもまた顔を背け目を閉じる。
次にカイラスを見たジェーンだが、カイラスはジェーンの視線に気づくと代わりに錬金術師に問いかけた。
「まさか、その古代語の解読が済んでいない、と?」
「その通りです!」
錬金術師は大きな声で答えた。傍にいたジェーンは耳を抑え、細めた目を錬金術師に向ける。そんな視線が錬金術師の胸に突き刺さったのか、「解読できないのは俺だけじゃないのに……」と呟いていた。
「そこで提案なんだが、遺跡に行ってみないか?」
「遺跡、ですか?」
「あぁ、君は様々なことを知っているだろ?遺跡に刻まれている古代語にも通用するのか私は知りたい」
「……あの、期待されているところ申し訳ございませんが、流石に私、古代語はわかりませんよ、見たことないですし……」
【今までは作中に書かれていたことを知っていたからわかってきたことだったけど、ここからは本当にわからないわ。古代語の話だって初耳だもの】
「見たことがなくても知っているかもしれないだろ?」
【どんな理屈よ!】
「……は、はぁ」
シグルドの無理やりすぎるこじつけにジェーンは結局受け入れるしかなかった。例え読むことが出来なかったとしても責任は問わないと言質を取ったからだ。
「まずは近場の遺跡に行こう」と勝手に予定を組み始めるシグルドに慌ててジェーンが話に入る。このままシグルド一人に決めさせてしまえば、最悪今すぐにとでも言い出しそうだったからだ。
流石にジェーンも身一つで行くことは出来ず、準備もそれなりにしたい考えから、日取りに意見を出し決めていく。
【なんで王子がこんなにフットワークが軽いのよ……】
ジェーンがそう感じてしまうくらい、シグルドは知らせを受けるや否やすぐに駆けつけていた。護衛であるギルバートの苦労を考えると同情を禁じ得ないが、ギルバードは涼しい顔でシグルドの傍に控えていた。どうやらこれが通常らしい。
ジェーンは思わずため息を付きそうなるが、目の前にシグルドという王族がいることを思い出すと、グッと堪えたのだった。




