憑依者は報告を受ける
◇
それから暫く経った頃、ようやく殿下が戻ってくる。今まで何をしていたのだと問い詰めたい気持ちをグッと堪え、ジェーンは「お話があります」とシグルドに申し出た。
「私からも経過を報告したいと思っていたところだったのだ」
そう話すシグルドに、ジェーンは【経過?まだ頼んでないのに?…………………………………………ああ、パーティーの事件ね】と頭の片隅に追いやられた事件を引っ張り出す。
反応が悪いジェーンに「気になっていたんじゃなかったのか?」とシグルドは首を傾げた。
「勿論気になっていました。ですが、それとは関係なくお話があるのでお昼休みにでもお時間をいただけますでしょうか?」
「話?……まあいいだろう」
ジェーンの代わりに答えるカイラスにシグルドは視線を移動させ、そしてゆっくりと頷いた。
そして昼休み。ジェーンにカイラス、アリスとシグルド、そしてギルバートの五人は学園から空き部屋を借り集まっていた。
「まずは私から話させてもらおう」
最初にシグルドが話を切り出した。話の内容は予想通り懇親パーティー時に起きた事件についてと、記憶から薄れていた馬術授業に起こった件についてであった。
「まず懇親パーティーについてだが、シャンデリアからは異変は見受けられてはいないことを確認している。だが、演奏を担当したオーケストラたちからは依頼主からこちらを使うようにと楽器が手渡されたという証言があった。楽器は通常の作り方とは違い、職人の手で仕上げられてはおらず、代わりに錬金術師のサインが記されていた。私はその錬金術師に直接話を聞き、楽器の依頼者について教えてもらった」
「楽器の依頼主は誰だったんですか?」
「オーケストラを手配したのはバーネット公爵令嬢本人ではないが、元を正せば彼女の伝手があったからできたことだ。そして予想通り、楽器を依頼したのはバーネット公爵令嬢だった。そして彼女は共鳴現象を知っていたものと思われる」
「思われるという事は、まだ確実ではないのですね」
「ああ、だが証言からの推測だ。政策を依頼された錬金術師も使用用途を聞いていて、はっきりと契約書まで残されていたから言い逃れは出来ないだろうな」
「契約書、ですか?」
「そうだ。元々パーティーにはロウソクや鉱石とは違った光源で場を盛り上げたいという王家の意見があったのだ。ロウは溶け、灯される火も危ない、鉱石も普段であれば便利なものだが、会場全体を照らすとなればかなりの数が必要となる。だからこそ、全くの別の光源を錬金術師の技術を持って作り上げるよう依頼していた。色んな錬金術師が意見を出し合い、出来たのがあのシャンデリアだ。実際に関わっていなくともシャンデリアの存在は錬金術師なら誰もが知っているし、それが試験的に学園の懇親パーティーで使われることは周知の事実。だからこそ、共鳴現象危惧した錬金術師は契約書に書いたんだ。楽器の使用場所や目的について。そこには懇親パーティーに使うことは書かれていなかった」
「………つまり、共鳴現象についてははっきりと錬金術師から聞いていて、使用用途もパーティーには持ち出さないという条件で契約したにもかかわらず、彼女は演奏者たちに何も知らせず渡し、演奏させた。ということですね」
「その通りだ」
シグルドは肯定し頷いた。
「そしてアリスが乗っていた馬が暴れる原因となったオオオナモミについても調べた結果、こちらもバーネット公爵令嬢が関わっていたことが分かった。彼女たちが秘密裏に何かを受け取り、そして馬小屋へと向かう様子を見た者がいたのだ。証拠があるわけではないが、状況を考えれば見えてくることだ」
「でも証拠はない、と」
「……その通りだ。悔しいが、証拠がなければいくら王族だからといっても公爵家を追い詰めることは不可能。だが、楽器の件は証拠があるから追い詰めることが出来る」
シグルドはそういうとアリスに向けて頭を下げた。そして謝罪する。
「申し訳ない。君を危険に晒そうとした者がわかったのに、その罪を償わせることができないことが……私は悔しいっ!」
シグルドの悲痛な叫びに、アリスは驚きながらも嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ありがとうございます。殿下」
アリスはそういうとシグルドに歩み寄った。シグルドの手を取り、両手で包み込むようにして握っている。シグルドはそんなアリスの行動にほんのりと頬を赤らめた。
「私の件は構いません。それに結局、彼女は罪を問われるのでしょう?それならば全然問題ありませんよ」
「結局捕まるってことでしょう?」とにこりと笑うアリスにシグルドは「だが…」と口にする。
「だがもしかしもありません。馬術授業で私は怪我をしなかったのですから、特に罪を償ってほしいとか思っていないのです。それに私思い出しましたけど………殿下、あの時ジェーン様を疑いましたよね?私はそっちの方が気になります。私が殿下に求めるとしたら、ジェーン様への謝罪ですわ!」
「え、それは、だが……」
しどろもどろになるシグルドに変わり、ジェーンが二人の間に割り込むように話に入る。
「アリス様、殿下はもう謝ったじゃないですか。誤解だったと謝罪してくれたからこそ、私たちは今こうして協力し合ってるんです。……殿下も、私は謝罪を求めていませんので、軽はずみに頭を下げることはないよう、お願いしますね?」
「ジェーン様……」




