捜査の報告
「では正確なことはわからなかったんだな」
「はい。今すぐに調べることが出来た証拠は全て状況証拠にすぎませんから」
ジェーンとカイラスはシグルドらが待つ部屋へと着くなり、調べた詳細とそれに関する推測を語った。そしてシグルドの言葉に同意する。
シグルドは悔しそうに表情を歪めるジェーンを見ると、顔を背けた。
「アリス、ギルバートは今の話を聞いてどう思う?」
シグルドは唯一信じているのだろう二人に意見を求める。アリスは憤慨し、ギルバートは眉をひそめるとこう言った。
「……例え事故であっても、その原因になったことは事実。私はちゃんと怪我させて申し訳なかったことを殿下に謝って欲しいと思います!」
「ギルバートは?」
「私は……かなり可能性があるかと考えます。バーネット公爵令嬢らとランドール男爵は選択授業も一緒。ですのでヴァルモア侯爵令嬢の髪留めを盗む機会は十分にありますし仕掛けるチャンスも…、それに馬術の授業でも彼女らは明らかに様子が変でした。弦楽器においても普通プロは愛用の楽器を持っているもの。わざわざ楽器を作って渡すという点が引っ掛かりますね」
「なるほど……」
シグルドはそういうと思考する。どのような決断をするのかジェーンらは静かに見守っていた。
セリアたちが行ったことが故意であるのならば明らかに王族に対する傷害罪が適用される。だが確固たる証拠がなければその立場や権力から逃れられる可能性は十分にあった。
更にセリアは第一王子の婚約者であり、あまり兄弟間の関係がよろしくない中でのいざこざは遠慮したいというのがシグルドの考えである。
「……ジェーン、記憶媒体はあったか?」
「はい、ここに。ですが再生する装置を私はもっていませんので、何が納められているか迄はわかりませんが……」
「いや、いい。確認は私がする。そもそもこれは父上や母上からの要望であるが故に、勝手に見ることは許されないからな」
【え、捜査協力の為っていってもダメだったのね……こわ…見れなくて本当良かったわ】
「何か言ったか?」
「いえ、なにも」
ジェーンは首を振り否定する。「ね」とカイラスに同意を求めるが、ジェーンの心の言葉を知るカイラスは何故かクスリと笑い、「そうだな」と微笑んでいた。
「ここからの調査は全て私が引き受ける。ジェーンにカイラスは戻っていい、ギルバードはこれを父上に渡してくれ」
シグルドはこうなることを予想していたのか、何かが書き綴られた紙をギルバードに渡した。怪我をしていることを考えれば、動けないシグルドに変わって、調査を派遣させる王族の影のような者を借りたいという嘆願書であろう。もっともジェーンには確認することが出来ないが、これ以上関わることを許可されなかったことから素直に退室しようとする。
だがジェーンは何かを思い出すような仕草をすると、足を止めて振り返った。
「……殿下」
「なんだ?」
他に何か伝え忘れたことでもあるのかと、シグルドは不思議そうに首を傾げる。
だが口から出された言葉は全く予想だにしていない言葉だった。
「アリス様に変なことしちゃだめですからね?」
「するか!!!!」
顔を真っ赤に染め、シグルドは勢いよく起き上がると枕を投げつける。
扉付近にいたジェーンに投げられた枕が届くことはなかったが、ジェーンは楽しそうに笑うと逃げるように立ち去ったのであった。
ジェーンは扉越しに聞こえてくる喚き声にくすくすと笑うと、カイラスに「行こう」と告げる。
楽し気に笑うジェーンにはカイラスも気分がよくなるが、その原因が自分ではないことが残念に思う。
「ジェーン、楽しそうだね」
「うん?……楽しいっていうよりも嬉しいかな!カイも見たでしょ?アリスの顔!今回の件が功を奏して実を結んだのよ!どうやって芽生えさせるか考えていただけに本当に良かった!」
「そうなんだ?僕は見てないし気付かなかったからわからなかった」
カイラスはそう言ったが、それが不自然だと感じたジェーンは不思議そうに首を傾げる。
「……あれ?カイなら見てるかと思ってたんだけど」
【本当に?本当に気付かなかったの?あのカイが?】
そのように考えるジェーンにカイラスは苦笑した。そして
「僕はジェーン以外に興味がないからな。誰が誰に恋をした、なんて情報は基本興味ないから見てもわからない」
「へあ!?……あ、そ、っか……」
そう答えるとジェーンは顔を真っ赤に染め上げ、そそくさと先に進むとなにげなく窓の外を見る。
一年の半年が過ぎ、季節は夏に差し掛かる。これから暑い季節がやってくるのかと気が滅入るが、それでも前の世界の時のような高温多湿ではないこの世界の夏にジェーンは過ごしやすさを感じていた。言うならば一昔前の田舎の夏である。頼りになるのは団扇か扇風機のみで、錬金術師の数が少ないこの世界では扇風機などの製品がなく団扇や氷で涼を得ていた。
そんな青々とした緑が広がるだろう窓の向こうには、やはり強くなる日差しに照らされた木々が視界に入る。流石貴族が通う学園、雑草や庭園だけでなく木一本一本までも手入れされており、ジェーンは窓の外の光景を見ることで心を落ち着かせようとする。
だが、そんな視界に入る光景にジェーンは違和感を覚えた。
「……え………あれって……」
緑に染まっている筈の葉の先が白く変色していたのだ。
少しずつ備えていたと言ってもあまりにも早すぎる展開に、ジェーンは血の気が下がる。
【そんな……嘘、なんで……】
ガタガタと震え始めるジェーンにカイラスは駆け寄った。肩に手を添え何度も名を呼ぶ。
「ジェーン!どうした!?ジェーン!」
だがジェーンは答えない。それでもカイラスは自身の能力によって、ジェーンの考えを読んだ。
そして窓の外を見る。以前ジェーンから聞いた異変の前兆が目に止まると、あまりにも速い展開にごくりと唾を飲み込むしかできなかった。
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