憑依者は事件現場の捜索許可を得る
【どうしよう!何も考えてないよ!】
【カイ助けて!】
【さっきなんて言いかけたのか聞いておけばよかった!】
ポンポンと吹き出しが空間を埋めつくす勢いで現れるため、ジェーンの焦りは相当なものだと考えると、カイラスは表情を緩ませると頬についた傷跡に指先をあてた。
【……あれ、そういえばカイってばなんで怪我してるんだろ……、確かにシャンデリアの破片が飛び散って軽傷を負った生徒は他にもいたけど、スイーツが並んでいるコーナーは会場の一番端。流石に破片で怪我をした人は周りにはいなかったわ。なのになんでカイだけ……?】
ジェーンが考える間、カイラスが話を始める。
ジェーンにも主張するように見せた傷を見せ、何故傷を負ったのか、その経緯を話し始めた。
「あの時、僕とジェーンは会場の端でスイーツを食べていました。ですがシャンデリアが落ちる数秒前、近くに置かれたグラスが急に割れたのです」
「急にグラスが?」
カイラスはゆっくりと頷いた。
「はい。割れたグラスに落ちたシャンデリア、共通するものはガラス製だということです。これにどのような因果関係があるのかまだわかりませんが、不可解な現象が起こったのも事実。是非、僕たちに現場を捜索する権利をいただけ——」
「そういうことか!」
カイラスが現場捜索について許可を貰おうとしたところに、言葉を遮るようにジェーンが声を上げる。
いきなり声を上げるジェーンに、カイラスは愚かシグルドやアリス、ギルバートも驚きに目を瞬いた。
「……何か思い当たることが?」
「音の共鳴ですよ!殿下」
「音の共鳴?」
「はい。まず、確認させていただきたいのですが、殿下が錬金術師に依頼して作らせたというあのシャンデリアですが、装飾用部分だけでなく、天井へと繋ぐ留め具に至るまで、すべてがガラス製でしたか?」
「あぁ……。美しさと光の透過率を極限まで高めるため、金属の補強を一切使わず、特殊な強化ガラスのみで構成するよう私が指示した。だが、それ相違ない強度は保たれていたはずだし、錬金術によって重量についても軽量になるよう調整されている。容易に落ちるような造りではないぞ」
シグルドは痛む体に眉をひそめながらも、自身の指示に間違いはなかったと主張する。ジェーンは小さく首を振った。
「はい。単に吊るされているだけであれば、決して落ちることはなかったでしょう。……ですが、それが特定の振動に晒されたとしたら話は別です」
「振動だと?」
「殿下は共鳴現象という言葉をご存知でしょうか?すべての物体には固有の振動数があり、それと同じ速さの振動を外から与え続けると、揺れが増幅されて最終的には内部から破壊されてしまうんです。留め具までガラスで統一されていた、しかも錬金術師による特別製なシャンデリアは、逆に非常に脆弱な構造になっていたということですよ」
シグルドの目が見開かれる。そして動揺したのか揺れ動いていた。錬金術師に指示をしたという事は、ある程度の物理にも理解を持っているのだろう。ジェーンの言わんとすることにシグルドは察したように口を開く。
「まさか……。だが、あの広い会場で、どうやって……いや、そうか………オーケストラによる演奏、か」
シグルドは当時の記憶を思い起こし、通常とは違う点を告げる。通常貴族が開くパーティーでは音楽は控えめで流れている。社交が主な目的であるため、会話を邪魔しないようにという配慮からそのように行われていた。
だが今回の懇親パーティーではかなりの音量が響いていた。アリスが大きな声でシグルドに答えたことでもわかるように、“会話”を目的とはしない演奏。
しかしそれは下町で楽しむ庶民のように、誰でも気兼ねなく楽しめる交流を目的に、わざとしたことであったとシグルドは考えていたが、今となっては何か意図があるような気もしてくる。
「その通りです」
「だが、……もし仮に演奏による共鳴が原因だとすれば、それこそ事故ではないのか?」
「ええ、そこで殿下に確認をしたいのですが、シャンデリアには光の他に機能を持たせてはいないのですか?」
シグルドはジェーンの言葉に口をつぐむ。だが、観念した様子で話し出す。
「実は……今回のシャンデリアは、今後王家で開かれるパーティーで導入を検討しているものなのだ。学生とはいえ反応が見たい父上や母上の提案で記録機能を盛り込んでいる。だが……」
「落下した衝撃でその機能も失われているかもしれない、ですか?」
「そうだ」
ジェーンとカイラスは顔を見合わせる。コクリと頷きあうと「現場を調べさせていただけますか?」と告げた。
「………それは構わないが、……一つ聞かせてくれ。私には君たちが同級生を怪しんでいるように見受けられるが、……その考えは当たっているか?」
シグルドに尋ねられたジェーンとカイラスは口を閉ざす。だが二人の真剣な眼差しから、沈黙を肯定と受け取ったシグルドは「そうか」と呟いた。
背を向け退室しようとするジェーンとカイラスにアリスが引き留める。
「待って!私も行くわ!」
「……アリス様?」
「私、頭はそんな良くないけれど、でもジェーン様はこれが故意に引き起こされたことだって疑っているってことはわかった。それが本当なら私、許せない。絶対に犯人を見つけて、何故こんなことをしたのか聞きたいんだ!」
「………」
ジェーンはそう告げるアリスをじっと見つめた。逸らす様子もないアリスの眼差しは、頷くまで逃がさないとでも言っているかのように少しだけ恐怖を感じる。
だが、作中での人物設定ではいえ連れて行ってはダメだとわかっているジェーンは苦笑する。
【アリスは正義感が強いから……、納得できない理由を言われたとき、手が出てしまうのよね。それだけはなんとしてでも避けなくちゃ】
例え爵位を持った貴族であっても暴力は論外だ。どちらが偉いかなんて話では片づけられない。しかもアリスの爵位以上の貴族が出てきてしまえば、アリスの身が危険になる。
だからジェーンは困った表情を浮かべ、首を傾げた。
「……アリス様はここにいた方がいいと思います」
「何故ですか!?」
「殿下の怪我にはアリス様が一番の薬になるからです」
「え?」
きょとんと瞬くアリスにジェーンはかかとを上げ、アリスの耳元に近付くと囁いた。




