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心が読める義弟は姉を離さない  作者: あお


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懇親パーティーの開催



 会場の中央、ひときわ高い天井から吊り下げられた巨大なシャンデリアは煌びやかな輝きを放っていた。

 この世界では魔法はもはやお伽話に近い。残されたわずかな錬金術も、今や日々の糧を得るためのささやかな技術か、または貴族たちの贅沢品に成り下がっていた。

 そんな技術や資金が込められたシャンデリアに生徒たちは目を奪われる。太陽のように強く輝く光。ロウソクとは異なる灯は会場全体を光で満たしていた。


【凄いわ……まるで電気みたい】


 前世の記憶を持つジェーンも思わず感嘆した。

 基本的に平民はロウソクなどを活用するが、貴族は違う。まさにファンタジーならではといったような光る虫や鉱石がこの世界にあり、それを利用する。

 電気のようにスイッチはないが、常に光を放ち続けるそれらは布を被せれば明かりも簡単に遮断できる。だが金額があまりにも高く、ロウソクに比べれば使用できる期間は長いがそれでも消耗品のため、貴族の中でしか流通していなかった。

 そんな光る虫や鉱石とは全く違う、錬金術の技術を詰め込まれた光はまさに“電気”に近いとジェーンは思った。


「……ジェーン?どうした?」


 ジェーンがシャンデリアに目を奪われている中、チーズタルトを皿に乗せたカイラスがやってくる。

 未成年だというのに伸びた手足は優雅に見える動きで長さを主張し、ジェーンのドレスと合わせた紳士服は九歳のカイラスでも十分大人のような魅力を感じさせた。

 そんなカイラスにジェーンはほんのりと頬を赤らめる。既に懇親パーティーの為に準備をし始めたときから、目と心を慣らしていたにもかかわらず、変わらずときめいてしまうのはジェーンがカイラスを“そういう意味”で見ていることに違いなかったが、ジェーンは頑なに認めなかった。

 

【私とカイは姉弟!養子だって言っても親戚なんだから血が繋がってる!近親相姦ダメ!絶対!】


 ジェーンがそう思っていることはカイラスには筒抜けだが、カイラスはカイラスでジェーンの気持ちがわかり表情が緩んでいる。

 基本は無表情のカイラスでも、嬉しそうにほころばせば幼さが見え、年相応にもみえるから、ジェーンは常にギャップに悶え苦しんでいた。カイラスがジェーンの前でしか表情を変えないからだ。


「ありがと、カイはなんのケーキを選んだの?」


「僕はフルーツタルトだ」


「また可愛いチョイスだね」


 懇親パーティーは、会場の装飾や出される食事、楽団の手配など、全て生徒自身で行い催される生徒主体のパーティーである。その為、入学して半年が過ぎたこの懇親パーティーでは、全生徒ではなく新入生のみが参加できた。

 ジェーンは、パーティーで出される食事でご飯をすまそうと考えていたものの、場の雰囲気と用意されている軽食コーナーに誰一人は向かわないこと、そして食事の時間にはまだ早いことから、ケーキなどのスイーツコーナーに目を向けた。そんなジェーンにカイラスが気を利かせて取りに行ったというわけである。

 カイラスは甘いものは特に好きでも嫌いでもなかった。というよりも、食事は栄養を取れればいいという考えであり、普通に食べれるような食事であれば多少不味くても構わない。その為、自らスイーツを食べることはないが、ジェーンに合わせて食べるようになったのだ。

 フルーツタルトを選んだのも、以前ジェーンが美味しそうに食べていたことを覚えているからであり、食べたいと言ったら差し出せるよう、ジェーンの好みを考えて選んだものだった。

 そんなことを知らないジェーンはチーズケーキを受け取ると、美味しそうに食べ始める。


「う~~ん、このチーズの濃厚な感じ、たまらないわ!」


 まるでとろけてしまいそうな表情を浮かべるジェーンは、以前よりも表情が明るくなっていた。これは錯覚でも勘違いでもなく、アリスとギルバートに告白したあの日、二人は直ぐにシグルドへ報告したのである。

 シグルドは悩んだ。だが二人の説得と、今までのジェーンの姿に、凝り固まった自身の考えを改め、話し合いの場を設けたのである。

 そしてジェーンはシグルドに呼び出しを受けた。カイラスと共に出向いたジェーンは、鋭い眼光をしたシグルドと対面する。

 全く変化した様子も見せないシグルドにジェーンはたじろいだが、シグルドの傍にいたアリスのジェーンを思いやる笑みで緊張がほどけた。

 そして互いに情報と認識のすり合わせを行ったのである。


『……申し訳なかった』


 話し合いの最後には謝罪の言葉を述べたシグルドにジェーンは慌てて首を振った。綾として、日本人としての意識が強いジェーンは貴族令嬢というものに完全に慣れることはなかったが、それでも貴族令嬢としての教養はそれなりには身に着いたと思っている。

 だが、そんなジェーンでも王族の者が頭を下げることが問題であることを当然のごとく知っていた。だから頭を下げるシグルドに慌て、謝罪を取り消すように口を開いたが、前に出るカイラスによって言葉は遮られた。


『そもそも何故殿下は、我が姉上が殿下に惚れていると思っていらっしゃったのですか』


 ジェーンはカイラスの問いかけに驚愕する。確かにこの場はシグルド自らどのような発言も不問とすると告げたとはいえ、先ほどまで関係は決して良くはなかった。互いの誤解を解き、ようやく関係を構築する段階に立ったというのに、相手を突き落とすような本音を問いかけるカイラスにジェーンは違う意味でドキドキした。

 だが、これに関してはジェーンも同じく思っていた。

 ジェーンの父親であるヴァルモア侯爵、つまりバルタザールが今の地位に満足せず、娘を王族の一員として第二王子の婚約者へと推薦した。ヴァルモア侯爵家の持つ財力を頼りにしている王家はその提案を受け入れた。

 だが王太子はまだ選んでいないと主張し、継承権が強い第一王子ではなく、第二王子の婚約者として決めたのである。

 そして、バルタザールは何を考えてか第二王子を誘拐した。

 山小屋に閉じ込められただけで、他に何の危害も受けていなかったため、本来の目的はわかっていなかったが、王子を誘拐することはいずれにしても良くないことを企んでいることだけはわかる。

 だからシグルドは、そのまま婚約者として据えられているジェーンを警戒していた。ジェーンもシグルドが敵意を向けている理由には察しが付いているため、ここまではわかっていた。だが、何故自分が“好意”を向けていると勘違いしているのかがわからなかった。


『……それは……』


『それは?』



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