憑依者は誤魔化す
「………急展開すぎて、すごい頭使った気分よ……」
「悪い。だが、ランドール男爵が王子に向けた言葉から、ジェーンの推測が当たっていると思ったんだ。そして王子に理解を示しながらもジェーンに対して申し訳なさそうにしていたことから、少なくとも王子がランドール男爵に話したのは最近だと考えた」
「まぁ、うん、タイミング的には説明したすぐ後に私たちの事情を話すってパターンの方がいいと思うけどね……」
【でも、だからと言って相談も無しにぶっちゃけられたことにはびっくりしたわ……あのタイミングでは相談も出来なかっただろうけど】
疲れた様子を見せるジェーンにカイラスは近寄るとしゃがみこみ、ジェーンを見上げた。その様子はまるで悪いことをしたと自覚したわんこのように見えて、ジェーンはきゅんと胸を高鳴らせる。
だがジェーンはただ萌えていたわけではなかった。一度男として意識してしまったからだろう、カイラスの仕草に顔を染め、ドキドキといつも以上に心臓が激しく動いていた。
「お、怒ってないから……そんな顔しないでよ」
「本当か?」
「本当よ本当!結果上手くいったし、嘘だってついてないでしょ。未来の功績を狙っているとはいえ、最終手段として逃亡しようとしていることは事実なのだから」
ジェーンは顔を背けながら答えると、カイラスはニコリと嬉しそうに頬を緩ませる。何故そんなに嬉しそうなのか、怒っていないことがそれほど嬉しかったのかとジェーンが考えているとカイラスはもう終わったと思っていた話を持ち出した。
「嬉しいよ、僕と一緒に逃げるって言ってくれて」
「っ!ち、違うわ、今じゃなくて最悪の場合のことよ……?私は、……同意していないもの」
プイと顔を背けるジェーン。これはカイラスの放つ色気に、一度は流されそうになったことによる対処である。
そんなジェーンにカイラスは笑みを浮かべたまま、だけど声は悲し気に聞こえるようトーンを落とした。
「………僕と逃亡するのは嫌ってことか?」
「嫌じゃな……っ!!」
【落ち込んでるかと思ったら笑ってるじゃない!カイのバカ!!】
ジェーンはわなわなと震えた。騙されたと感じる羞恥心か、カイラスへのトキメキか、ジェーンは顔を真っ赤にすると、軽く拳を握りポカポカと数回カイラスへと攻撃した。
全く痛くない攻撃にカイラスはくすくすと笑う。
そんな二人のじゃれ合いもすぐに終わり、ジェーンは腕を下ろすと真剣な眼差しをカイラスへと向けた。
「……カイ、私本当に嫌じゃないわ。寧ろ嬉しい。……でも、今はまだ逃げられない。逃げたくない」
「……わかってる。だから僕も話をすることを決めたんだ」
ジェーンは理解を示すカイラスに頷くと、「ごめんね」と謝った。
「なんでジェーンが謝るんだ」
「だって……」
【カイは。殿下に疑われている私とは違う……作中のように、父の……バルタザール侯爵の裏帳簿を渡せばすぐに信用してもらえるはず。………あぁ、でも……それは作中の話ね。信頼を得ようとしたけど、どうなるかわからない。私はカイの運命を変えてしまったんだ…】
ジェーンの心の言葉を読んだカイラスはその瞬間、胸の奥が締め付けられるような痛みと抑えきれない愛おしさを感じた。
(……綾は本当に………。自分よりも僕を優先する……そんな綾だから僕は君を愛し、そして君の運命を変えようと決めたんだ)
カイラスは立ち上がると、ジェーンの体を強く抱きしめた。
「ひゃっ、カ、カイ……!?」
「好きだよ、綾。だから……謝らなくていいんだ。僕も君と一緒にいる未来を夢見ているんだから」
耳元で囁かれる告白にジェーンは顔を真っ赤に染める。
【ちょっ!そ、そういう意味じゃないって分かってるのに…!!これが天然タラシなのね!自分は絶対に引っかからないって思ってたけど、実際にやられると引っかかる理由がよくわかる!】
「綾?」
「ああああ、ああありがとう!!わ、私もカイのことが好きよ!家族だからね!」
激しく動揺するジェーンにカイラスはくすりと笑う。
“好き”と言葉にしたジェーンだが、とってつけたように“家族だから”と告げられたことは残念だとカイラスは思った。だが、それだけの意味でもないほどの慌てっぷり。
(本当はどう思っているのか)
カイラスはそう思ったが、それよりも遠慮がちにカイラスの服の裾を握るジェーンの手が離れていかないよう、背中に回した腕の力を少しだけ強めたのだった。




