そして協力を乞う
【まさか……殿下の推測が当たっているだなんて……】
アリスの心を読んだカイラスは自身の推測が正しいことを悟る。だからこそ、話し続けた。
「裏帳簿を見たこと、そして第二王子の誘拐事件の新聞を見た後のヴァルモア侯爵の反応に、私は疑念を抱き、そしてジェーンに相談したのです」
「ジェーン様に……?」
「はい。私は養子、実の子であるジェーンにならば、親である侯爵もなにか話をしていないかと……そして情報を得ることができれば、今後の身の振り方についても決めることが出来ますので」
「っ……、貴方は、そんなところまで考えていたのですね……」
「次期後継者として侯爵家を導いていかなければなりませんので」
「…………」
【凄いわ……、私は男爵という爵位を与えられたけど、領地も持たず一代限り、この人のように持つ心構えなんてもの、持ってはいなかったけど、これが貴族としての本来ある姿、なのね】
アリスは感心したようにカイラスを見るが、少し離れた場所で様子を窺っていたギルバートは不思議そうに眉間に皺を寄せていた。
「少し、いいだろうか……?」
「なんですか?」
「ここにジェーン嬢が—」
「何故名前を呼んでるんだ」
ギンと睨みつけるカイラスに、ギルバートは呆れながらも言い直す。
「……ヴァルモア侯爵令嬢がここにいるということは、誘拐事件等には関わっていないことがわかるが……それでも相談したのは何故だ?貴族といっても君は爵位を持たない、ただの時期後継者でしかも養子だ。変わりはいくらでもいると思わなかったのだろうか」
変に内情を知れば今の立場を失う事となる、それが怖くないのかとギルバートは問いかけた。
だがカイラスは呆れたように目を細めるとこう言った。
「既にある程度の推測をしていたからだ」
「……どういうことだ?」
「僕は養父に対して疑念を抱いていたが、ヴァルモア侯爵家で唯一信頼できる人がジェーンだった。そんなジェーンが養父の企みなんかに関わっていることはないと断言できる」
「だが君は今-」
「それでも第二王子の婚約者という立場から、ジェーンが養父から何かを頼まれたりしてはいないか、そんな些細な情報を聞きたかった。だから裏帳簿をみたことも、誘拐事件の新聞を読んだ養父の可笑しい態度やその後の行動についても、ジェーンに相談した」
真実に嘘を交えてカイラスは話すため、うまく辻褄が合っているからこそアリスも疑問を抱いたギルバートも納得するように口を閉じる。
【そうだったのか……だがこれでわかった。ジェーン嬢は既に父親の罪を知っている。だから婚約者という立場にも執着していない様子だった……早く殿下にも報告しなくては】
【私……ジェーン様のことちゃんと信じてあげられていなかった……。殿下にあんなこといっておきながら、私は………なんて最低なの】
アリスは胸をキリキリと締め付けるような痛みに、思わず胸元を握りしめた。
俯きがちになる顔を上げ、アリスは謝罪を込めた眼差しをジェーンへと向ける。
ジェーンはそんなアリスを見て、カイラスの狙いを正確に理解した。と言ってもカイラスに確認する隙間などないため憶測ではあるが、それでもジェーンが破滅する運命を完璧に避けるためには、アリスだけではなくシグルドの理解が必要であり、シグルドに話を通すためにも本人を除いたアリスとギルバートに先に事情を説明し、理解してもらわなければと考えた。
結果、二人はカイラスの話を信じた様子で、アリスに至っては今すぐにでも頭を下げようとしているところだった。
「ジェーン様!私っ—」
「待ってください。まだ………話は終わっていません」
ジェーンはアリスの言葉を遮ると、アリスからカイラスへと視線をずらす。
【話をして、終わり。そんなわけがない。カイもきっと同じ考えのはずよ】
ジェーンはカイラスが心の声を読める能力があることを知らない。だが、何かを訴える、いや決意したジェーンの瞳にカイラスは一瞬たじろいだ。
ジェーンの思考に関しても、捉え方を変えれば同意を求めているようにも解釈できるため、余計にカイラスは誤解する。だが続けられるジェーンの言葉にカイラスはホッと安堵した。
「ギルバート様、アリス様。……カイラスの言う通り、父の不穏な動きに気づいていました。王家に対して犯している罪の重さ、そしてヴァルモア侯爵家が一族もろとも打ち首の刑に処されるであろうことも、全て理解しています」
ジェーンは自身の胸元を強く握りしめ、アリスをそしてギルバートを見つめる。
「私たちは死にたくありません。父の身勝手な野望のために、命を落とすなんて絶対に嫌です。私たちは生きたい。だからこそ、あの家を捨てるために二人で密かに資金を蓄え、遠くへ逃れる準備を進めてきました。貴族としての権力も、殿下の婚約者の座にも、未練など一切ありません」
ジェーンは一歩前に出ると、深く頭を下げた。
「お願いです。私たちが無事にあの家を離れるため、そして父の罪を暴くため、どうかお力添えいただけませんか?……シグルド殿下にもこの事実をお伝えいただき、私たちは決して敵ではないことを知っていただきたいのです」
話し終えてもジェーンは頭を上げなかった。そしてカイラスが横に並ぶと、ジェーンと同じように深く頭を下げる。
そんな二人に、謝罪の言葉を口にしようとしたアリスはギルバートを振り返った。流石に男爵の爵位を与えられたとはいえ、元は平民。手に余る内容に殿下への伝言も加わっては勝手に返事をすることは出来なかった。
「……なるほど。今の話が本当であれば、それは確かに貴方方が解決できることではない。殿下には私からお話ししましょう」
【今まで何故協力を求めなかった、と問いかけても、殿下のあの態度では話すことすらできなかっただろう。頼れる大人や権力者がいない中でこの二人は全てを手放すことを決意したんだ】
「私も、私からもお話しします!殿下に信じてもらえるまで…!」
【私は今度こそジェーン様を信じる!友人として!】
二人の言葉に頭を下げていたジェーンとカイラスは顔を上げた。その表情は明るく、まるで長年待ち望んでいた願いが叶ったような、そんな表情だった。
そんな二人の様子に、ギルバートとアリスは更に決意を胸に部屋を出た。パタパタと走り去る様子から、すぐにでもシグルドへ報告に向かったのだろう。
ジェーンとカイラスは再び扉を閉めると、全身から力が抜けたように脱力した。




