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心が読める義弟は姉を離さない  作者: あお


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能力者は語る




 ジェーンはアリスに手を引かれたまま、俯きがちに進むアリスへと視線を送っていた。そんなジェーンの視線に気付いたのか、しばらく歩いていたアリスは足を止め、ジェーンに振り返る。


「……ごめんなさい、ジェーン様」


 アリスはジェーンに謝罪した。だが何故アリスが謝るのかと、ジェーンは眉をひそめる。

 嘘ではあったものの、証言を信じてしまったシグルドを止めるべく寧ろジェーンを庇ってくれた存在であるアリスには謝罪などする必要がないからだ。勘違いだと謝罪して欲しいのはシグルドであり、アリスには寧ろ“ありがとう”と感謝の言葉を告げなければならない。

 だが、ここまでくる間のアリスの様子に、気兼ねなく声を掛けることが躊躇われたジェーンは結局感謝の言葉も出来ず、無言でついていってしまった。


「何故アリス様が謝るのですか。……私は、アリス様が私を信じてくれて嬉しかったんですよ。ありがとうございます」


 ジェーンはアリスの手を取ると、ニコリを笑みを浮かべてそう言った。

 だがアリスはジェーンを見ると辛そうに表情を歪めた。そんなアリスにジェーンは首を傾げる。


【……何故、何故殿下はジェーン様を信じないのか……、殿下の言う通りジェーン様が本当に知っていたとしても……子供に何ができるのかっ……】


 カイラスはアリスの心の声を読み、一人納得した。

 先ほど、シグルドの事情を理解していると告げたアリスの言葉とジェーンに対するアリスの気持ち。心の言葉だけで考えれば、シグルドはジェーンが推測した通り、ヴァルモア侯爵の犯行を知っていると考えていいだろう。だが告発しない様子から証拠がない。そしてジェーンにつらく当たっている様子から、ジェーンから情報がわたることを恐れているのだと考えられる。

 そうでなければジェーンをうまく利用して、逆に追い詰めることも出来るのにそれをしない。幼い頃の印象がそうしているのか、それともジェーンにまともな家庭教師がつけられていないことを知っているからの行動なのか、カイラスは一瞬の間で考えると、路線を変更した。

 このまま金を稼ぎ、極寒期が訪れた段階で菊芋を公表し、貯めた資金で人々に善意を植え付ける。ジェーンを牢獄送りにすることなどなく、そして褒美としてシグルドとの婚約も解消できるよう願うのが最初に考えていた道筋だったが、既にヴァルモア侯爵を怪しんでいるとわかればその展開もうまくいくかわからなかった。

 ならば、ここで互いの情報を交換し合うことが、シグルドの弱点であるアリスの信頼を勝ち取れるチャンスなのではないかと考えた。何故なら今のアリスは心が揺れていたからだ。どちらにも交流があることで、一方を信じることが出来ず、かといって両者ともに信じてしまえば辻褄が合わない。葛藤の中にアリスはいた。

 カイラスはアリスの手を繋ぐジェーンの手を優しく離させると、アリスと目を合わせて告げる。


「話がしたい」


「話、ですか?」


「ええ。僕たちが知っている情報を全てお伝えします」

 

 アリスは驚いたように目を丸くし、それからカイラスではなく自分たちを追いかけてきたシグルドの従者であるギルバートへと視線を向けた。

 困惑しているアリスの返答を待たずカイラスは踵を返す。


「廊下で話す内容ではありません。場所を変えましょう」


 カイラスはそういうと、使われていないる空き部屋を探し始めた。適当に扉に手をかけ、鍵の掛かっていない部屋にあたるとさっさと中に入る。

 カイラスがアリスの返事を待たなかったのは、既に興味を示していることがわかっているからだ。だが関係者であるシグルドを連れてきた方がいいだろうとギルバートに目線を送るアリスに、邪魔されてはかなわないとカイラスはさっさと行動した。

 実際にシグルドもいた方がいいこともあるだろうが、ジェーンに敵意を抱く人がいては話も進まないだろう。最初から疑ってかかられるよりも、静かに話を聞いてくれる人を相手にした方がいいと考えた。

 

【カイ、何を考えているの……?】


 カイラスは恐る恐ると言った様子で空き部屋へと入るアリスとギルバート、そしてジェーンへと目をやると、不安な様子のジェーンの表情と心の声が見えた。

 ジェーンにはカイラスのように他人の心の言葉がみることが出来ない。だからこそ不安になっているのだろう。悲しそうに俯くアリスと急に話したいことがあると強制的に場所を変えたカイラスに、不安を覚えるのも無理はない。

 だが、ジェーンの戸惑うその様子はこの場には必要な要素だともカイラスは考えていた。


「……ジェーン」


 手招きしてジェーンを呼ぶと、ジェーンはアリスを気にしながらもカイラスの傍へと歩み寄る。

 カイラスはそんなジェーンの手を繋ぐと、話し始めた。

 

「ランドール男爵。あなたは最近、第二王子から我々ヴァルモア侯爵家に関する噂を聞いたのでしょう。そのうえで話したいことがあります」


「カイ、何を……っ!」


 ジェーンは声を荒げると、自身の口元を両手で覆った。そしてアリスを見る。

 アリスは頭を使う事よりも直感的に行動するタイプであることを知っているジェーンは、真剣な眼差しでカイラスを見つめるアリスを見ると、ここで止めても無駄だという事をすぐにわかった。


「僕は四歳の頃、ヴァルモア侯爵家の次期跡取りとして養子となりました。唯一の娘であるジェーンが第二王子の婚約者に決まったからです。僕は様々な教育を受けました。年齢を考えれば早いと思われる教育を受け続け、そしてある日ヴァルモア侯爵家の裏帳簿を目にしました」


「!」


 全ての貴族に当てはまることではないが、二重会計や秘密の金銭管理、つまり裏帳簿は広く行われていると考えられている。だからこそ、普通は驚くことでもないが、それを王子の護衛であるギルバートがいる場で公言したカイラスに、アリスもギルバートも驚いてしまった。

 だが驚いたのはこれだけではない。これから話されるカイラスの話のほとんどが予想にもしていなかったことだった。


「数年前に起こった、シグルド第二王子の誘拐事件、僕たちの父親であるヴァルモア侯爵は、その誘拐事件に関与しています」


 作中では終盤になって明らかにされる事実をまさかこんな早くに告白するだなんて、とジェーンはあきらめにも近い感情を抱く。

 一方でアリスはシグルドから口止めされていた国を揺るがすほどの疑惑をあっさりと口にしたカイラスに驚いた。

 確かにヴァルモア侯爵家は貴族としての爵位は公爵家よりも低い。だが、ヴァルモア侯爵家のもつ圧倒的な資金は、王国の財政を担保するほどのものだった。だからこそ、第二王子ではあるもののシグルドの婚約者としてジェーンが収まったのである。

 そんなヴァルモア侯爵家を取り潰そうとすることは、国家の崩壊や内乱に直結する極めて危険な状態に繋がる可能性が十分にあった。そんな中、作中でヴァルモア侯爵家を取り潰せたのは極寒期が訪れ、金の価値が下がったからである。

 人はどれほど金を持ったとしても、金では腹を満たすことが出来ない。極寒期という環境の中、食料や燃料、防寒着などの物資が価値を持つ。いくら資金が豊富にあったとしても、普段は些細な金額の物が数十倍、もしくは数百倍以上の値段になることもあった。また目先の利益よりも自身の命を優先する者が多く、どれほど金を積んでも買うことが出来なければ結果無意味となる。

 そしてヴァルモア侯爵家当主のバルタザールにとっては最悪なことに、アリスが国を救う作物を見つけ、シグルドにその情報の権利までも献上し貢献した。結果、王国の財政を担保していた筈のヴァルモア侯爵家は王家に逆らうことが出来なくなり、疑惑を抱いていたシグルドによって侯爵家は取り潰されることになるのだ。



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