王子は疑問を抱く
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一方でジェーンと別れたシグルドは眉間にシワを寄せ、難しい表情を浮かべていた。
「……どうしたんですか?」
アリスは不思議そうに尋ねた。
アリスが見るシグルドは、常に笑みを絶やさない王子というイメージが強い。あくまでもそれはアリスの前だからという言葉が前にあるが、アリスはそれを知らない。惚れた女の前で、ジェーンやギルバートが知っている威厳さは不要だと判断したのだろう。
「………あの女は本当に私に好意を抱いていないのか……」
アリスの問いかけが耳に入ったのか、シグルドは独り言のように呟いた。
だがその言葉にアリスは目を細め、少しだけ不機嫌になる。
「……まるで好かれて当然のような言葉ですね。以前にも言いましたが、殿下のジェーン様に対する態度は酷すぎるものですよ。なのによく好かれているとお思いになられますね」
「…え………、あ、私はなんてことを……違うんだ。そうじゃない。アリス、私の話を聞いてくれないか」
シグルドは縋るように言った。アリスは控えるギルバートへと目線を移す。
「……周囲を見回ってきます」
ギルバートはそう言ってその場を離れた。アリスはキョトンと目を丸くする。
「いや……そういうつもりではなかったんだが……」
アリスは離れていくギルバートの後ろ姿に息を吐き出すと、シグルドに再び目線を向けた。
アリスは婚約者に対するシグルドの行動に、従者でもあるギルバートからも何かを言ってほしくて目を合わせたが、ギルバートには“空気を読め”と伝わったらしい。確かに今のアリスには自分が見ただけの偏った情報で物事を捉えている。シグルドが何故、ジェーンに対して酷い対応をしているのか、その理由を聞いてもいいかと思うと、シグルドに話を促した。
シグルドは話を聞いてくれるアリスに安堵し、自身の過去を話し出す。
それはアリスも思わず眉を顰めるような内容だった。
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「何故あの男はジェーンをこれほど嫌ってるんだ」
カイラスは不機嫌な様子を隠すことなく眉間に皺を寄せながら疑問を口にした。
二人がいる場所は学園内にあるバラ園だ。迷路のように高く刈り込まれた生垣が二人の姿を隠し、通路に敷き詰められた砂利が足音を教えてくれるため、内緒話にもってこいと決めた場所である。
あれから一週間が経過した。
ジェーンが引き受けたドレス作りは既に話がまとまり、今は仕立て屋に形になるよう依頼している最中である。懇親パーティーまで日があることから十分間に合うことだろう。
ジェーンはカイラスの問いかけに対し、少し考えると口を開く。
「……これは一読者としての推測として聞いて欲しいんだけど、もしかしたら王子の誘拐事件に、父が関わっていることを王子はもうわかってるんだと思うんだよね。というのもシグルドは最初からジェーンのことを警戒していた。いくらお茶会の場で粗相をされたとしても、それは子供の頃の話。いつまでも根に持つことでもないと思うのよ」
「粗相?」
「うん。と言っても詳細に書かれていなかったから私はよく知らないんだけどね、ジェーンの記憶があるわけでもないし。だけど、確か緊張したジェーンがお茶を零した、と書いてあった気がするわ。でも、だからこそそんな些細な理由で婚約者を蔑ろにするのはおかしいもの。納得するような理由を考えた時、聡明だと言われる王子にはもう犯人の見当がついていた、私はそう考えるわ」
【もっと読み込んでいればよかった……。完結した後に間をあけて出た番外編も読んでおけばよかったわ……後で読もうって思ってお気に入り登録しただけで結局読んでいないことが悔やまれる……】
ジェーンは後悔していた。そんなジェーンにカイラスは声を掛けることは出来ず、ただ怪しまれないよう落ち込むジェーンを慰めるだけだ。
【カイってば本当に優しいわね。作中だとクーデレなのに……】
(“クーデレ”?)
カイラスはジェーンの言葉に首を傾げそうになるも耐えた。ジェーンの言葉に理解できない言葉は今に始まったことではない。そもそもこの世界以外の記憶を持つジェーンの言葉に理解できないカイラスはある意味正しいのだ。
だから普段はスルーするが、自身に対する言葉なだけにカイラスは目に留まってしまう。
ちなみにクーデレというのは、普段はクールな態度に対し、好きな人の前では溺愛や執着を見せるデレッとした様子から表現される言葉である。流石に創作小説が浸透していないこの国ではジェーン以外知らない言葉であった。
「……ジェーンが悪いわけがない。悪いのはあの親だろ」
「……そうね」
【例え知らなくてもこの国には一家断滅の法がある……知らなかったで済まされないから怖いのよ】
カイラスはジェーンの心の言葉に胸を痛めた。ジェーンが話した作品の中では侯爵の罪は王子自らが暴いている。知らなかったと思われるジェーンも、アリスを害した罪で牢獄に入り、釈明の機会など与えられることなく人生の幕を閉じた。
そして現在、いまだ証拠がないのかシグルドは侯爵を誘拐事件の犯人だと名指ししてはいない。だが明らかにジェーンを敵視していた。
これがジェーンの思い過ごしであればいい。だがそうではないだろうことが、ジェーンの不安を搔き立てる。
【……死にたくない……】
言葉に出していなくとも、ジェーンの心中は常に不安が渦巻いていた。
いくら金を稼ごうとも、脅威となる人物がすぐ傍にいて敵意を向けているのだ。無理もない。明るく楽しく、カイラスの前では笑顔を浮かべていても、やはり完全に闇を払うことは出来なかった。
最悪な想像をしているのか、僅かに震える体を守るようにジェーンは自分自身を抱きしめた。そんなジェーンに、カイラスは告げる。
「……綾」
「………へ!?ちょ!カイ、その名前をこんなところで言っちゃ―」
「逃げるか?僕と一緒に」
「……え?」
次のお話から予約投稿します。




