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心が読める義弟は姉を離さない  作者: あお


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憑依者は事件を収める

【油断した!】


 ジェーンはそう思った。


「待って!乗らないでアリス様!!」


 ジェーンは叫んだ。驚いた馬は足をかけていたジェーンを振り落とすが、傍にいたカイラスが受け止める。

 だがジェーンの制止は間に合わず、アリスは長い脚で軽やかな身のこなしで既に鞍に跨ってしまっていた。


「――ッ! ブフゥッ!!」


 アリスが腰を下ろしたその瞬間、馬の押し殺したような吐息に、何かが破裂したかのような濁った音が響き渡る。

 馬は背を丸めると地面を蹴り暴れだした。

 頭を左右に激しく振り回したり、何かに耐えているかのようにガチガチと歯を鳴らす。


「落ち着け!!!どうしたんだ!?」


 アリスは淑女として叩き込まれた言葉遣いを外し、焦ったように馬に声を掛けるも、馬はアリスの声には耳を傾けない。そんな余裕がないからだ。

 今でこそ抜群の運動神経で暴れる馬から振り落とされてはいないが、それでもいつまで持つかわからない。


「アリス様!降りてください!早く!!」


 アリスは叫ぶジェーンの言う通り、馬を落ち着かせることではなく、飛び降りることを選択した。

 ここでもアリスは高い運動神経を発揮させ、怪我無く飛び降りることに成功するが、初心者だけが集まる中で騒ぎ立てていれば当然のように、優雅に乗馬を楽しむ生徒たちの目にもついた。


「アリス!?」


 騒ぎを聞きつけ、そして馬から飛び降りるアリスの姿を目撃したシグルドは慌てて駆けつける。


「どうしたんだ!?」


「……わからない、急に馬が暴れ出して……、あ、いや、わかりません。私は落ち着かせようと試みたのですが」


 アリスは馬に目を向けると、今も暴れる馬に眉を顰めた。馬に詳しくはなくとも、今の馬が不自然であることは誰が見てもわかる。

 急に暴れた理由が“アリスが嫌だから”などと言った単純な話ではなく、何かに苦しんでいるような、そんな気がしたからだ。


「ヴァルモア侯爵令嬢、先程ランドール男爵を止めていましたが、何か心当たりはあるのですか?」


 教師がジェーンに話を聞く。アリスは耳を傾け、ジェーンの話を聞いた。


「心当たりはありませんが……、ランドール男爵が乗ろうとしている馬が他の馬より落ち着きがないことに気が付いたのです。落ち着かない様子に、背中を丸めているような……もしかしたら鞍の下になにか馬が痛がるものがあるのではないかと思ったんです」


「鞍に?」


「はい……といっても確証はありませんが」


 教師はジェーンの言葉を聞くと馬に駆け寄った。

 白く濁った涎を垂らしながら、まるで疲れ切った様子の馬に近付くと、鞍を避け、暴れた原因を見つける。


「これはオオオナモミ……」


 教師が馬の背中にめり込んだオオオナモミ、通称くっつき虫を手に取ると、大きな声で「まさか貴女が仕掛けたの!?」という声が響き渡った。

 セリア・バーネット公爵令嬢の取り巻きの一人である。


「……え?」


「だってそうではないですか。初心者の貴女が何故馬の様子を察知できるのです?」


「そうですわね。教師にもわからなかったことを普通なら気付きませんわ」


「普通ならって……、あの馬は明らかに様子が変でしたわ。乗馬初心者の私でもわかるように」


「だからそれがおかしいと言っているのよ」


 セリアらの言葉により、ジェーンに疑いの眼差しが向けられた。

 そしてその話を聞いたシグルドも不愉快だと眉を顰め、アリスの傍から離れるために立ち上がるが、アリスによって阻まれる。

 アリスは声を潜めてシグルドに問いかけた。


「……待ってください。殿下はまたジェーン様を疑っています。そうですね?」


「彼女たちの話を聞いていなかったのか?明らかに怪しいものを疑って何が悪いというんだ」


「婚約者を真っ先に疑う紳士がどこにいるのですか。それに………」


 アリスはジェーンに目線を移動させる。


「それに?」


「私はちょっと違和感があるんです。昔くっつき虫について父に教わったのですが、それがなにかが思い出せなくて……」


「オオオナモミについて?……ギルバート、お前は何か知っているか?」


 シグルドは後ろに控えるギルバートに話を振る。そしてギルバートはゆっくりと口を開き話し出す。


「オオオナモミはどこにでも生息している植物ではありますが―」


 だがギルバートを遮るようにカイラスの声が被せられた。


「では姉上がどこで調達し、どこで馬の鞍に忍ばせたというのですか」


 地を張るように低い声、そして獲物を捕らえる様なカイラスの眼光に令嬢たちがたじろいだ。

 だがセリアが胸を張って答える。


「どこで調達?オオオナモミはどこにでも生息している筈よ。この学園にだってあるはず。それに忍ばせたのも彼女はランドール男爵と同じ初心者枠なのだからいつでも可能だわ」


「それは本気で言っているのか?」


「え?」


 カイラスはニヤリと口角を上げるとジェーンに視線を移した。ジェーンはコクリと頷きセリアと向き合うと口を開く。


「バーネット公爵令嬢。貴方はオオオナモミはどこにでも生息している、学園内にもあるから私の犯行だ、そのようにおっしゃっているのですね」


「そ、そうよ」


「確かにオオオナモミはどこにでも生息しています。ですがこの学園内に限っては生息していることがおかしいのです」


「………どういうこと?」


 セリアは首を傾げた。眉を顰めジェーンを見つめる。


「まずここは貴族が通う学園です。オオオナモミは成長すると大きく成長し、ごつごつとした見た目はお世辞にも美しいとは言えません。第二にオオオナモミのトゲは非常に鋭く、制服の記事に絡まりやすい。くっつき虫をたくさんつけて歩く姿は、貴族的な立ち振る舞いとは言えませんよね」


「……」


「そして最後に、オオオナモミには毒性があります。学園で飼育されている動物や生徒が誤って口にしたら大問題です。学園ではこうした予測できるリスクは排除している。……そうですよね、先生」


 ジェーンに尋ねられた教師は少しだけ動揺しつつも、頷きジェーンの言葉を肯定した。


「その通りです。学園ではオオオナモミをはじめとする植物は見つけ次第排除しています」


 セリアはぶるぶると震えた。

 想定通りに事が進まず、苛立ちのあまり扇を掴む手に力が入ってしまっていたのだ。


「では……ではあなたが学園の外で調達したのではないの!?あなたがたまに外出届を出しますわよね!?知っていますのよ私!」


「外出届を出していることは真実ですが、それとこれとは話は別です。第一、門で重点的にチェックが入ります。他の生徒を危険にさらすものを持ち運べるわけがありませんわ」


「オオオナモミは小さいのよ!?見逃しても当然だわ!」


「それは王族も通う由緒正しい学園を批判する言葉ですよ?」


「っ!」



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