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心が読める義弟は姉を離さない  作者: あお


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20/31

悪役令嬢の次の企み



 ジェーンらが通う貴族学校には、馬術の授業がある。

 令息は将来騎士として軍を率いたり、当主として領地を見回ったりするために必要であり、令嬢も社交場としての狩猟に参加したり等、元々馬に乗れる者もそうでない者も、馬に乗る技術は必要不可欠であることから授業として取り入れられていた。

 ジェーンは令嬢として最低限の礼儀作法しか教わっていなかったことから馬に乗ったことはない。またカイラスも次期跡取りとして机上ばかりの授業内容だったためにジェーンと同様馬に触れたこともなかった。

 初めての馬との触れ合いに、ジェーンは目を輝かせ、カイラスはそんなジェーンを温かく見守っていた。


 初めての馬術実習において、乗馬服を纏った見目麗しい男女に注目が集まっていた。

 一人は学園に通う唯一の王族であるシグルド・フォン・レギウス。

 輝く金髪に、王族特有の黄金の瞳を持つ第二王子であるシグルドは、長い手足を優雅に動かし、周囲を惹きつける高貴な気品に満ちている。

 次にシグルドの後ろに控えるようにいるものの、圧倒的な存在感を放つギルバート・マクレーン。

 ギルバートはシグルドの従者兼護衛である。王位継承権第二位である立場のシグルドは第一王子のように複数の従者を付けられることはなかったが、それでも長年王族に仕える騎士の一族の中で優秀と称されたギルバートが選ばれたことに、今では絶対的な信頼を寄せていた。

 そんなギルバートは真っ赤に燃えるような赤髪と、意志の強い琥珀色の瞳が特徴である。若くも鍛え上げられた体からは、騎士として優秀であると感じられる。

 そしてこの度男爵位を賜ったアリス・ランドール。

 腰まである艶やかな黒髪と、アメシストのような宝石を思わせる紫の瞳。すらりと伸びた無駄のない手足で堂々と歩く彼女は、淑女というよりも女性騎士という言葉があっているように感じられた。


 そんな三人の乗馬服に目を奪われている中、ジェーンはちらりと横に並ぶ男へと視線を移す。


【………流石小説の主要人物。改めて見ると皆美男美女なんだよね】


 『平民アリスの逆転貴族生活 ~命の恩人として王宮へ招かれましたが、王子には婚約者がいらっしゃいました~』に登場し、本来ならばシグルド達と一緒になってジェーンを断罪するはずの弟、カイラス・ヴァルモアも三人同様に見目がいい。

 夜空のような髪に、アルマンディンガーネットのような少し黒みがかった濃い赤い瞳。一見すればしなやかで細身だが、乗馬服を纏ったことで、制服の下に隠されていた筋肉が服の上からでもわかる。

 “意外と”男らしい弟の体にジェーンは少しだけ頬を染めた。


「ジェーン」


「っ…、どうしたの?」


 ジェーンは突然話しかけられたことでたじろぎつつも、平常心を保とうと気持ちを整える。

 カイラスはセリアらがいる方向に目を向けていたために、ジェーンの変化に気付くのが遅れてしまったが、【カイは弟!私は姉!】という心の言葉を読むとニヤつきそうになる口元を抑えきれず、緩む口元を手で隠すように添えた。

 

「………彼女たち、怪しいと思わないか?」


「彼女たち?」


「バーネット令嬢たちだよ」


 ジェーンは示すカイラスの目線の先を追うと、そこには同じように乗馬服に身を包みながらも、口元を隠し、何やら話をしている様子の四人の姿を発見した。


「……確かに怪しいわね。何を話しているのかしら?」


「また何かを企んでいるのかもしれない。ジェーンの髪飾りを盗んだ時のように」


「……そうね。あの時とても悔しそうにしていたから……」


 ジェーンは先日あった盗難事件を思い出すと、複雑な気持ちになった。

 好意を寄せてはいないものの婚約者に疑われたこと、カイラスから贈られた髪飾りをターゲットにされたこと、人から疑われることがどれだけ辛いか、また大切にしてきた家族からの贈り物を奪われ利用されたことがジェーンの心をどれだけ傷つけたか、後悔するよりも悔しそうに顔を歪めた彼女たちに反省の色が見えないことも複雑な気持ちになった理由である。


「……やはり、平民上がりの方はどこか感じが違いますわね」


「言葉遣いだけは、随分と丁寧ですけれど」


「けれど所詮は元平民、馬にも乗る機会はなかったのではなくて?」


 周囲の令嬢たちがひそひそと囁き合う。先ほどまでアリスの姿に見惚れていたにも関わらず、手のひら返しのように貶し始める令嬢たちにジェーンは眉を顰めた。

 だがアリスは聞こえていないのか、表情を変えることなく馬の傍に立っていた。元々動物が好きなのか、アリスの目は優し気に細められながらも、瞳の奥にはキラキラと輝いているように見受けられる。


 そんなアリスにジェーンはホッと安堵する。

 ジェーンにはわかっていた。作中でのアリスの高い運動神経。彼女らの言葉通りアリスは乗馬経験はないものの、初見で馬と心を交わし、そして華麗に乗りこなして見せるのだ。

 夢にまで見てみたかった光景を目の当たりに出来ること、その為にはアリスは心を乱してはならず、平常心で居続けるアリスにジェーンは安堵した。


「では、各自、騎乗を開始しなさい」


 教師の指示でジェーンもまた馬に手を添える。初めてということで、初心者同士の集まりの中、カイラスの手を借りながらも馬に跨ろうとした時だった。

 

「……あれ?」


 ジェーンは首を傾げた。

 アリスと共にいる馬は何故か他の馬とは違い、落ち着きのない様子であったのだ。もしかして作品で似たようなシーンがあったのかと、ジェーンはあっさりと読み飛ばしていたいじめのシーンを必死に思い出した。

 そして


【あった!あったわ!馬が暴れるシーンが!】


 ジェーンは思い出した。作中ではジェーンが仕掛けたが、綾が憑依したことで同じことは起こらないと考えていた。



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