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心が読める義弟は姉を離さない  作者: あお


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12/29

憑依者と能力者は入学する

ここから学園編です!



 ジェーン十歳、カイラス九歳。

 二人は学園の前に立っていた。


 本来は十歳から通い始める貴族学園ではあるものの、次期跡取りである嫡男については早期入学が許されている。

 その制度を利用して、カイラスも一年早く学園へと通うことになったのである。

 なんとしてでも将来の王子妃であるジェーンのフォローをお願いしたい両親の考えと、ジェーンから離れたくないカイラスの考えが合致した結果であった。


「……うう、遂に始まるのね」


 カイラスの横でジェーンが不安げに眉を顰めながらそう言った。

 顔を向け心の声を確認するも、実際の言葉と同じように不安な言葉しか並んでいない。


【原作通りにならないように!原作通りにならないように!原作通りにならないように!……でもあっちから絡んできたらどうしよう……、無視っていうのはダメだよね。王子は一応私の婚約者だし、会ったことないけど。ヒロインは将来の王子妃というか王妃だし、そもそも作中のアリスは無視したとしてもそんな小さなことは気にしない性格だけど、それを大げさにいうのが王子なんだよね、面倒なことに。会ったことないけどさ】


 まだ始まってもいない学園生活に表情を歪めているジェーンの手をカイラスはとった。

 細く華奢な指に手を絡めると、ジェーンの頬は直ぐに朱に染まる。


「ちょ、カイ!」


【わわわわわわわ!!この弟は女心をもてあそぶタラシね!要注意人物!危険だわ!】


 そう思っても振りほどかないジェーンに、カイラスは手をつないだまま学園へと足を踏み入れた。


 貴族学校は従者無し、完全なる全寮制の為、何事にも一人で行うという決まりがある。

 寮に届けられている荷物整理については従者が行うが、着替え、入浴、食事でさえも全て自己管理。それでも食事に関しては、食堂があるために餓死することなくなんとか人として生きていけることが出来るだろう。

 だが自身で調理したい人向けに、自室に簡易的なキッチンが設置されているが、基本的にそのスペースは使われることはない。それが貴族の子として産まれた子息令嬢の特徴である。


 カイラスは熱が引かないジェーンがピタリと足を止めると、ジェーンにつられるようにその先に視線を向けた。


 カイラスと同じく真っ黒な髪は風で靡き、顔に掛からないよう耳に髪をかけた華奢な女性が、明るい笑みを浮かべて学園を見上げている。

カイラスは思った。


(あれが“モデル体型”か)


 と。

 正直ジェーン以外の女性の体に興味はないものの、羨ましそうにヒロインを思い出すジェーンにカイラスもある意味気になっていた。ジェーンがそこまでべた褒めするモデル体型とはどのようなものなのか、と。

 遠目ではどこにでもいそうな女性ではあるものの、近くで見れば一般的な女性よりも身長が高く、スラリと長い手足が体型の良さを表している。

 だがカイラス的にはどうでもよかったと思えたし、ジェーンの方が抱き心地がよさそうだと感じた。

 一歳差ではあるものの、初めて会った時とは比べ物にならない程にカイラスは背が伸びた。カイラスよりも大きかったジェーンは、今ではカイラスの頭一つ分背が低い。後ろから抱きしめれば、カイラスの腕にすっぽりと収まるような身長差であった。


 カイラスがヒロインであるアリスを“見て”いると、繋がれた手がピクリと動く。


「………カイ、もしかして気になってる?」


 振り向けば不安げに眉尻を下げるジェーンはどこか落ち着きない様子で見上げていた。


【……どうしよう、やっぱり強制力?私との仲は悪くなくてもヒロインに恋しちゃったの、かな……】


 そんな考えのジェーンにカイラスは“(あり得ない)”と思いながらも、「ジェーンが言ってたモデル体型について考えてたんだよ」と返す。


「モデル体型?」


【あれ、私そんなこと言ったっけ?……でもカイには前世の話をしているから言ったかもしれない……。もう、聞いてくれれば絵に描いて教えてあげたのに。私これでも同人誌書いてたから絵は得意なんだよね。一冊しか出してないけど】


「(同人誌?冊という言葉からして本か?)……ジェーンはよくヒロインに対して言ってただろ?スラリとした体形で女性の憧れって。よく言ってたから僕も気になってたんだ」


【あ~、やっぱり言ってたのね………私の言葉が気になってみてたってことは…】


「……ヒロインに惹かれてたんじゃない、ってこと?」


「当たり前」


 カイラスは繋がっている手を持ち上げるとぎゅっと握り、自信ありげな笑みを向けた。

 ジェーンはそんなカイラスに安堵とともに胸が高鳴るが、ぱっと目を逸らす。


「……よかった。強制力が働いたんだと思ったから」


「安心して、何も感じなかったから。それより学園での詳しい話は聞いてないけど、具体的にはこれからどうなるんだ?」

 

 ジェーンは周囲を警戒しながら、声を潜めてカイラスに告げた。


「このあと、婚約者の王子が現れるはずよ。そしてどこにいけばいいのかと困るヒロインの手を取り案内をするはず……」


 ジェーンがそう話した時だった。


「――ジェーン嬢、久しぶりだな」


 落ち着いた、しかしどこか不機嫌そうな声。

 王族の証しでもある黄金に輝く瞳と金髪を靡かせながら、第二王子でありジェーンの婚約者であるシグルドが、何故かアリスではなくジェーンのもとへと歩み寄ってきた。

 だが王子の視線は、遠くで校舎を眺めているアリスに向けられている。

 とうやらこの場にジェーンがいることで、少なからずの影響が出ているようだ。


「さっきから彼女を……アリス嬢を遠くから見つめていただろう。彼女は貴族位を与えられたばかりで、まだ貴族という環境に馴染めていない。侯爵令嬢である君の視線が、彼女にどれほどの圧迫感を与えているか、少しは考えてほしい」


 シグルドは声を荒らげることはなかったが、その瞳には「正してあげなくては」という義務感に満ちた色が宿っていた。

 実際のアリスは、学園内の地図を片手に配置を確認しているだけのように見えるが、シグルドにはそう映っていないようだ。


【貴族の環境に慣れてないって……、この人王宮で囲ってたんじゃないの?】


 シグルドの誘拐事件の新聞から見ても、アリスが爵位を与えられたのは一年ほど前のことだとわかる。

 王宮という王族だけでなく、貴族がたくさん環境で暮らしていたのならば、寧ろジェーンよりも貴族の環境に慣れていそうなものだが、そこはあえて突っ込まなかった。


「私はただ……」


 言いかけようとしたジェーンの前に、カイラスが一歩踏み出した。

 庇うように背中にジェーンを隠し、王子を見据えるようにカイラスは目を細める。


「……殿下。姉が遠くのものを眺めるだけで『圧迫』になると仰るなら、この学園の全員が視界を奪われなければなりません」


「君は……」


「私はカイラスと申します。五年前にヴァルモア侯爵家の養子として迎え入れました」


「あぁ……君がカイラスか。私はジェーン嬢を責めているわけじゃない。ただ、立場を自覚してほしいと諭しているだけだ」


「失礼ですが、誤解されているのは殿下の方では? あちらの女性は、貴方様の心配を必要としているようには見えませんが」



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