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心が読める義弟は姉を離さない  作者: あお


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提案と協力者

「………これは、何ですか?」


 カイラスはティーパーティーが開催されると、マイクを遣ってジェーンを呼び出した。

 ジェーンはカイラスの家庭教師でもある、ミスター・クリスへと頭を下げるとカイラスの近くへとやってきて腰を下ろす。

 そうして差し出された、今朝作ったばかりのたんぽぽコーヒーを差し出した反応が冒頭の言葉であった。

 

 クリスは訝し気に粉を見た。

 カイラスはこの場で“茶”を入れさせるように指示を出すと、アルコールランプを使ってその場で作り始める。

 そして際立たち始めるその香りに目を見張った。


「これは、コーヒー……?ですが、少し香りが違いますね」


 一般的なコーヒーはペーパーに粉を落とし、お湯を注いでドリップする方法だ。今マイクが行っているような煮立たせることは基本的にしない。その為、香りはコーヒーのようであるが、そうではない飲み物に首を傾げている。

 そんなクリスにカイラスは何も話すことなく、ただマイクが入れた“茶”に手を添えると「飲んでみてください」と差し出した。

 クリスは香りを嗅ぎ、カップに口を付けて一口啜ると目を見開いた。


「これはコーヒー!……ですが私が飲んだことのあるコーヒーとは違う……コクは控えめですが、それでも苦みや酸味のフレッシュな風味が感じられます。……これはどこの産地のコーヒーでしょうか?」


 クリスのその言葉にカイラスとジェーンは顔を見合わせるとニコリと笑った。

 そしてマイクへと顔を向けると、「父上や母上にも漏らさないならここにいていい」と告げる。不思議に首を傾げながらも【僕はカイラス様の従者だから】と言葉を浮かばせ、「ここにいさせてください」と願い出るマイクにカイラスは頷いた。


「クリス先生、これは僕とジェーンが二人で作ったコーヒーなんです。コーヒー豆を使っていないからカフェインもない。僕たち子供や、夜に眠れなくなる貴婦人方、他にも子を宿した妊婦にも、ぴったりの飲み物だと思いませんか?」


 カイラスの言葉にクリスは目を細めた。

 面白がるように三日月のように弧を描くと、クリスは静かにカップを置く。


「……面白いですね。その話を私にするという事は、私を共同経営者として選んだ、ということでしょうか?」


 二人は頷いた。そして「秘密のビジネスパートナー」になってほしいと提案する。


「秘密?何故ですか?侯爵家ならば起業資金も容易にたてられるでしょう?」


 クリスは背もたれに身体を預け、目の前の幼い二人の起業家を品定めするように見つめた。その瞳には好奇心以上の商人、いや起業家としての鋭さが見える。

 カイラスは体を前の前りに倒すと、声を落として答えた。


「理由は三つあります。一つ目は、これが『雑草』からできているということ。父上や母上が知れば、侯爵家の品位を汚す遊びだと取り上げられてしまうでしょう。商品として形になるまでは、大人の偏見から守る必要があります」


 言葉を区切るカイラスに、今度はジェーンが指を二本立てながら話した。


「二つ目は『販路』です。侯爵家が動けば、それは政治的な意味を持ってしまいます。でも、あなたの手を通せば、これは純粋に『新しくて健康に良い飲み物』として、自由に市場へ広げられるはずですわ」


 実は二人は事前に打ち合わせを行っていた。

 朝食後、家庭教師が来るまでの時間の間で、どうにかして“親にバレずに商売を行いたい理由”を考えていたのだ。

 そしてその理由を三つ上げ、互いの口から言葉にすることで、“二人”の考えだと強調させる。


「そして三つ目。……僕たちはまだ子供です。でも、自分たちの力でこの事業を大きくしたい。親の金で用意された成功なんて、ちっとも面白くないですから」


 クリスは沈黙の後、こらえきれないといった風に笑い出した。


「ふふふ……。品位、政治、そして自立心ですか。九歳と八歳にしては、少々出来すぎた理由ですが、その考えは嫌いじゃありません」


 クリスは顔を上げると二人に向けてにこやかに微笑んだ。

 大人の持つ色気のようなものが溢れ出しているものの、子供しかいないこの空間には効果はない。しかも内二人は男である。

 それでも過去にコーヒーを優雅に楽しむ紳士を見たジェーンは明らかに惹かれていたことがあったからこそ、カイラスはちらりと横を確認する。

 だが


【……長髪じゃなきゃいいのになあ。私長髪は好みじゃないんだよね】


 クリスの見た目は、銀髪に近い灰色の髪を一つに束ね、肩にかけることで長髪を強調しているように見える。

 表情も笑みを常に浮かべてはいるもののどこか胡散臭い。人としては信じられない部分を持っているが、それでもクリスの持つ知識はほかの誰よりも優れていると思っている。

 だからこそ、ある意味ミステリアスな雰囲気を持つクリスに惹かれてしまうのではないかと不安だったが、ジェーンの心の声を見たカイラスは安堵から口元が緩んだ。


「いいでしょう。協力します」


 そんなカイラスの心情など知らないクリスは大きく頷いた後、協力することを承諾し、二人は喜んだ。


「では今日のこの時間はビジネスについてのお勉強にしましょうか。その際に製造方法についても聞かせていただきます。……ちなみに侯爵閣下には秘密とのことですが、製造方法は外部に預けますか?正直原料が雑草という事から情報が洩れればその分、真似をされるリスクがあるのでお勧めはしませんが」


「おっしゃる通りです。昨日今日と実際に作ってみたのですが、子供でも簡単に作れること、そして人の目を盗んで行うには無理を感じました。そこでお願いですが、どこか工房を探していただけますか?作り方は僕とジェーンが知っています。場所を借りられればそこで製造したいと思っています」


 カイラスの言葉に頷いたクリスは、少し考えた後、借りる大体の場所についてを提案する。


「わかりました。ですが来年、そして再来年には君たちは学園へと入学する年齢です。場所は学園の近くの方がいいですね?」


「そうですね。学園は王都と言っても外れにあります。その場所の近くであるのなら賃貸料もそこまで高くはならないでしょうから。………いいよね、ジェーン」


「問題ないわ。でも雑草と言っても気長に待つよりも栽培しようと思ってるから、……庭と高い塀があると嬉しいですわ」


 既に固定費や情報漏洩についても考慮する姿勢に、クリスは頷く。

 中でもジェーンは、マナー教育ばかりで教養など学んでいない筈、よく瞬時に考えられるものだと感心するほどであった。


「では取引成立ですね。ただし、ビジネスである以上、私は君たちを『子供』としては扱いません。利益の配分に関してはしっかりと話を詰めさせていただきますよ?」






 そして二人はクリスと話を詰めると学園に通うまでの間、たんぽぽ以外のコーヒーの開発に加え、クリスが借りた工房に足を運ぶと製造する日々を過ごしていた。

 いずれも雑草であること隠し、たんぽぽコーヒーは強い利尿作用からむくみ解消、菊芋は天然のインスリン効果から血糖値上昇を抑え、腸内環境を改善する効果から、健康によいお茶として女性をターゲットに販売が開始された。

 どちらもカフェインが入っていないこととその見た目と香りから、コーヒーで不調を訴えた一部の人たちからの強い支持を受け、第二のコーヒーと呼ばれるほどに人気が高まっていったのである。




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