02
時が流れ、第六十四代の王が即位した。
いつの頃からか【聖女の人形】と言われるようになったクローンは、とうとう最後の一体になった。
ドーン商会の交易船からは六十三代目の王の即位の折に一報を受けていた。
王族には生体認証のイヤーカフを着けた時から禁足地(時を経て【国王の間】と呼ばれていた)から干渉するよう、コンピュータを設計していた。
きっといい感じにハルトを悩ませているだろう、とシャハルは興奮を隠せずにいた。
マグノリア星に来てみれば、案の定、というか予想以上に最後の王が踊っていてシャハル自身も小躍りした。
マグノリア星の軌道上から情報を精査してみると、思った通りソフィアは生きていた。
予想外だったのは、六十四体目クローンは早いうちから普通の人間として外に出ていた事だ。
その上、王妃の地位に置かれているではないか。
未知数な要素が組み合わさり、シャハルの心が弾んだ。
六十四代マグノリア国王ディルクルムの戴冠の儀まであとひと月となったある日、いよいよハルトとソフィアが動き出した。
ソフィア自らが【聖女の人形】として王城へ乗り込んで行ったのだ。
シャハルは嬉々としてディルクルムの脳に干渉して事を荒立てようとした。
だが、思ったよりうまくいかない。
元々ハルトとソフィア、ルースの人間と上手くいった試しが無い。
その上、ディルクルムの叔父サピエンティア公爵アルドーと二人は手を組んだ。
初めアルドーは【聖女の人形】の真実が知りたいだけだった。
大神殿の神殿長が連れて来たその人形によって、国王、王妃、王太后の三人が混乱の渦に巻き込まれていたからだ。
大神殿から送り込まれる【聖女の人形】とは何なのか。
ディルクルムが何故【聖女の人形】に心を囚われたのか。
アルドーは単身大神殿へと赴き、神殿長ハルトとソフィアからここに至る道程を聞き、考えを新たにした。
ディルクルムはもとより、王国の行く末に影を落とす存在に対峙せねばと思うようになった。
ディルクルムを利用し、ハルトとアルドーは【国王の間】への侵入に成功した。
嫌がらせに置いたルシアの脳にも動揺する事もないハルトにシャハルはがっかりしたが、久しぶりのハルトとの会話に心が弾んだ。
只々退屈が紛れるこの状況に満足し、ディルクルムへの干渉も放り投げて地上へと降りた。
シャハルはおよそ千年ぶりに星船の格納庫に降り立ち、ハルトとソフィアに対峙した。
久しぶりに見るソフィアの瞳は相変わらず美しく、シャハルは何時になく浮かれた。
ハルトとの会話も、他の自分にへつらう人間とは違った刺激がある。
三人が対面する様子は、監視カメラを通じてディルクルムとアルドーに中継された。
アルドーやハルトによって正気に戻ったディルクルムは、思い詰めたような空気を纏ってシャハルのもとへ歩みを進めた。
「ドーン商会長、私の戴冠の儀には必ずお越しください。良い席をご用意致しますので」
「ああ、勿論。陰ながら行く末を案じていたが、こんなに発展しているとは大変喜ばしいねぇ」
訝しみながらシャハルは、軽薄な笑みを浮かべた。
「⋯⋯お待ち申し上げます。では私はこれで。叔父上、戻りましょう」
意味ありげにシャハルを見て何かを言いかけたが、ぐっと口を引き結んでディルクルムは去って行った。
──何だか嫌な流れだな。
シャハルはさっさと逃げ出したい思いに駆られるが、どうにも顛末が見たくて堪らない。
ディルクルムの戴冠の儀まであと三日、足を踏み入れる事が出来る範囲で千年ぶりのマグノリアを堪能する事にした。
星船も、王都も自分に害のある感じはなかった。
準備に忙しいハルトからは放置されていたが、常に斜め後ろに六十三番目のクローンが付き従った。
「やっぱ、目の色が違うんだよねぇ」




