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Paint the Sky   作者: 麻生あきら
Slowdive

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8/8

03

 戴冠の儀当日、ハルトに連れられシャハルは聖堂に到着した。

 覚えている王城より遥かに堅牢に作り直され、聖堂はよく手入れされていた。


 マグノリアをモチーフに白を基調にした繊細な意匠で、二階のバラ窓も美しい。

 中央奥に祭壇があり、身廊の両脇に並ぶ席の一番前列にシャハルは案内された。


 隣には王太后セーレナ、そして王妃パティエンスが並ぶ。

 参列者はシャハルを一体誰かと囁きあっている。


 マグノリア王国では伝統的にフォーマルな場では緩めのスリーピースを着用する。

 だが、一人だけシャープなスーツを着込んでいる見知らぬ男を、恥知らずだと不快に思っているらしい。

 シャハルはニヤニヤと薄笑いを浮かべ聞いていた。


 聖堂の鐘が鳴り、側廊から身廊へ、そして祭壇前にディルクルムがゆったりと歩みを進めた。

 祭壇にはハルトとフードで目元を隠したソフィアが立っている。

 ディルクルムが祭壇に到着すると、一拍おいてアルドーが儀式の開始を告げようとした。


「儀式の前に(みな)に話したいことがある」


 ディルクルムは手を挙げそれを制し、参列者をぐるりと見渡した。

 最後にシャハルで視線を止めた。

 シャハルは薄笑いのまま片眉を持ち上げ、ディルクルムを見返す。


「まずは、この日に集まってくれた事に礼を言う。ありがとう。本来ならばここですみやかに王冠を賜るのだが、私にはその資格が無いので辞退したいと思う」


「へ、陛下何を⋯⋯?」


 王太后が最前列から手を伸ばす。


「私は愚かな男だ。妃一人幸せに出来ない。これで王など務まるだろうか。

 ⋯⋯そこにいる初代国王オルトゥスの甘言に乗ってパティエンスの人生を狂わせた。

 政略などではない。私が無理やり妻にした。

 それだけでは無い。さらなる甘言で彼女を蔑ろにした」


 ディルクルムは音もなくシャハルの前に立ち、タイを掴んだ。


「この男は初代国王オルトゥス、本当の名はシャハル・ドーン。

 我々マグノリアの民は千年の昔、彼がこの惑星を買い、故郷の惑星から移住してきた。

 初代国王という名のオーナーだ。

 政には十年だけ携わり、その後故郷の惑星に帰って行った。

 ⋯⋯自然と共存なんて真っ平御免なんだそうだ」 


「ふっ、ははは。それの何が悪い。俺はあくまでも出資者だ。エピ公爵に手を貸してやっただけだ」


「こんな男を千年もの間神聖視していたとは、一体何をして来たんだ。

 しかも聖女様はこの男に懸想され、死を望むほど追い詰められていたなど。

 外道にも程があるだろう」


「実際にはちゃんと生き延びたんだからいいじゃないか」


 ディルクルムの怒りが高まり、無意識にシャハルの頬を打つ。


「そういう事じゃ無いだろう!」


 殴られた頬に手を当てながら、馬鹿みたいにシャハルは大笑いした。

 まったく面白い男だ、と。


「⋯⋯叔父上。王位は貴方に。母上、申し訳ありませんでした」


「ディルクルム」


 アルドーと王太后の声が重なる。


「パティエンス。本当に済まなかった」


 シャハルのタイを握りしめたまま、ディルクルムは彼らに背を向けて謝罪した。




「さあ、来い」


 シャハルのタイを引っ張り上げ、身廊を下り右手に折れる。

 そのまま尖塔の頂上へ続く螺旋階段にディルクルムは足を掛けた。


 一歩、また一歩と、シャハルは引き摺られた。


「おい、何をする気だ!」


「わかってるだろ?」


 グイグイとタイを引っ張られ、恐慌状態のシャハルは足がもつれた。

 ガッと首が締まり一瞬息が止まる。


 ディルクルムの力は強く、転んだ拍子に手を離される事も無く、より強固に引き摺られた。

 階段の下の方から、皆の声が聞こえる。


「もう少し。あともう少しだ」


 ディルクルムの口から小さく漏れた。




 階段を登りきりディルクルムは塔の手摺を背にして、シャハルに身体を向けた。


「さあ、最初の王と【聖女の人形】最後の王、最期の時だ」


「な、やめろ」


 ディルクルムは正面からタイを引き、シャハルの腰に手を絡めた。

 そしてディルクルムは後ろ向きのまま、手摺を越えた。


 抗おうと首を上げたシャハルの目には、澄んだ青空に浮かぶ積雲が見えた。

 そして建国祭で配られたであろう赤い風船。


 ぐるりと首を動かすと塔の手摺にソフィアがちらりと見えた。




 シャハルは、思い出す。


「あなたの瞳は夜明けの空のようね。私と一緒。でも同じではないわ」


 逆光に輝く金の髪は⋯⋯。


「──マ⋯⋯ム⋯⋯?」


 次の瞬間、シャハルを暗闇が捉えた。




 喉に絡みつく指先。


「ごめんね」


「さよなら」


 紡がれた言葉が空を染め、そして消えた。

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